あらすじ
「いつかは書かなくてはならないね.これを見た作家の責任だもの」広島で被爆した大田洋子(1903-63)は,その体験をもとに原爆を告発する作品を多数著した.人や街が屍と化した原爆投下直後の惨状を記した『屍の街』,原爆に人生を壊され戦後八年を経てなお苦しむ人々を描いた『夕凪の街と人と』を収める.解説=江刺昭子
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
原爆投下から3か月後に書かれた「屍の街」と1953年の「夕凪の街と人と」が1冊にまとめられている。後者は、こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』の参考文献の一つ。ちなみに「桜の国」も、本書の作者・大田洋子が戦時中に書いた作品のタイトルに由来する。
「屍の街」は大田自身の被爆とその後の疎開先での経験を、「夕凪の街と人と」は原爆スラムや被爆者治療の実態を描く。原爆スラムのなかでの分断を具体的に描いている点も、読み応えがあった。戦争が決して、45年8月の敗戦で終わったわけではないことを、ルポルタージュ的な筆致で、静かな怒りを込めて伝えてくれる。もっとも、解説によると、出版当時はあまり評価されなかったそうだ。ちょっと不思議である。
解説の江刺昭子さんは、大田洋子とも面識があったとのことで、大田の人となりについての話など、興味をひかれた。どのような方なのか気になって調べたところ、かつて読んだ『樺美智子 聖少女伝説』の著者と知る。同書も、関係者に丁寧に取材した、力作である。