あらすじ
潜入ライター、AI監視ウイグルに迷い込む。
すべての行動が監視され、住民の疑心暗鬼に満ちたネオ監視国家。筆者はその最暗部にスマホ一つで乗り込んだ。
〈上海や北京を中国の表玄関とするなら、新疆ウイグルは裏のお勝手口のような場所だ。外国人の数は非常に少なく、外部の目に触れることはほとんど想定されていない。だからこそ、中国の本当の姿が見えるのではないかという期待があった〉(まえがき)
イスラム教を信仰するウイグル人とのさりげない会話には緊張感がただよう。宗教に話を向けると、コーランはすべて燃やしたと声をひそめる。当局の“再教育”を受けた男たちは、現在は無気力に地べたに寝そべっていた。言語も文化も破壊し尽くされた地に希望の光を探すが、筆者にも当局の影は近づいていた……。
ジョージ・オーウェルが『一九八四年』で予言した世界から40年。それを凌駕する不条理世界に迷い込んだ筆者による決死のルポルタージュ!
(底本 2025年8月発売作品)
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
2023年の新疆ウイグル。
ビジネスホテルに到着すると空港のようなX線ゲートで手荷物検索。街中を歩くと警官の数が異常に多く、交番のような警察官詰め所が数百メートルおきにあり、安ホテルに泊まろうとすると人民警察の職務質問を受けなければならなく諦める。モスクの写真を撮ると、どこからともなく警官が現れて削除させられる。監視カメラはほぼすべての店舗の入り口と電柱に備え付けられていて、タクシーの中ですら撮影、盗聴されている。
ウイグル人たちは決して本心を話さない。誰が政府と通じているかわからない、疑心暗鬼。日本の戦中の隣組のように互いに監視し合う世界。
新疆ウイグルでは強制収容所のことなど聞けるはずもなく、隣国ウズベキスタンへ。そこで強制収容所からの生還者に話を聞く。その話は悍しいものである。
しかし、隣国でもまた日本でも「本心」を語れないウイグル人がたくさんいる。彼らの家族や一族が新疆ウイグルにいる場合、ウズベクでも日本でも彼らが何かを話す、何か行動すると全てが中国政府に筒抜けで、その家族や一族に被害が及ぶ。そんなことが本書で語られる。
2023年の中国は、オーウェル「一九八四年」を凌駕する監視社会だった。著者は自身は「親中」でも「反中」でもないという。現在の中国政府のウイグルに対する統治について「こうするよりほかにないかもしれない」と思うことすらあると吐露している。
しかし、僕は怖い。