【感想・ネタバレ】ユービックのレビュー

あらすじ

一九九二年、予知能力者狩りを行なうべく月に結集したジョー・チップら反予知能力者たちが、予知能力者側のテロにあった瞬間から、時間退行がはじまった。あらゆるものが一九四〇年代へと逆もどりする時間退行。だが、奇妙な現象を矯正するものがあった――それが、ユービックだ!ディックが描く白昼夢の世界

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Posted by ブクログ

ネタバレ

時間の巻き戻りなどの描画が主人公目線で描かれており、ドラえもんのような分かりやすい時間移動でもなかったので、現状を理解しつつ読み進めるので手一杯だった。ギリギリあらすじを理解できたが、読んでいて理解が追いつかなかった箇所がいくつかあるので、考えつつ再読しようと思う。個人的には面白かったが、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読んでいなければ、本から離脱していたかもなとも思った。

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2025年07月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

※ネタバレあり! ここ以外でも決して裏表紙のあらすじは読まないように!

と、最初に断っておかないといけないぐらい、この裏表紙のあらすじはひどすぎる。要約にもなっておらず、作品を正確に捉えていないばかりか、核心部分(しかも残り100頁を切った部分)にまで踏み込んでネタバレをしている。まさか表紙が変わっても直っていないとは思わなかったが、このネタバレを避けて読むのはもはや様式美だろう。自分の場合は無理だった。と、いうのも自分がこの小説のあらすじを知ったのは巻末の作者の別作品紹介で、そこに堂々とユービックのあらすじ、もといネタバレが書いてあったのだ。田舎だと回避不可でしたねw

それはともかくとして、まず驚くのはSFガジェットの豊富さである。消費社会をあざ笑うかのようなコイン投入しないと動かない家電製品全般に、半生者という、死者とコンタクトできる施設など、世界観が魅力的である。テレパスに対抗するための不活性者(イナーシャル)という超能力を中和する存在なども面白い。特にプレコグによるビジネスの未来予知や、相手の申し出の裏をかくためにテレパスに心を読ませるというのは実にSF的な、近未来の情報戦っぽくて笑ってしまった。かと思えば、因果律にまで及び、過去に起こった出来事を書き換えて現実をパラレルワールドの方へスライドしてしまう脅威の能力者の女パットなど、そのイマジナリーの飛躍はとどまる所を知らない。

そんな能力者が月に集結し、爆弾による騙し討ちに遭うわけだが、ここから能力者同士にバトルロイヤルになるかと思えばそうはならず、爆発の影響で訪れた時間退行現象という謎の超現象から逃げ惑うサイコ・サスペンスへとジャンルはガラリと変転する。肉体が対抗してミイラになる様や、珈琲のクリープが腐ったり煙草が風化してボロボロになる描写は中々にゾッとしてしまう。合間に挟まる死んだはずのランシターからのメッセージも相まって、事態は悪夢的な様相へと変貌を遂げる。

そんな現象の果てにたどり着いた真相は意外の一語であり、ここに来てようやく作品のテーマが現実の虚構性とそれらの喪失であるということに読者は気付く。実は死んでいるのはジョー・チップのほうだという真実がその現実の不確かさを暴き、そこから章ごとに注釈として付いていた謎の物質ユービックが時間退行現象の対抗策としてその正体が明らかになる。そして黒幕かと思われたパットではなく、純粋悪だったのは、冒頭でランシターと妻の会話を邪魔していた半生者の子供ジョリーであり、怪物的な少年が姿を表わすことにより、物語は一気にクライマックスへと突入する。随分遠いところを彷徨った本作の物語ではあるが、凄い角度のロングパスで冒頭の話とクライマックスが繋がるさまは見ていて惚れ惚れとする。綿密な計算されたプロットいう印象はあまり受けず、とっ散らかりそうになった話のパーツが、後から意味を帯びて浮かび上がったような、そんな不思議な読後感だった。小説の定石からは逸脱しているが、この作品丸ごとで現実感をあやふやにしているのは純文学的な要素も感じて実に素晴らしい。ユービックとはまさに万能で、神の意匠ではあるのだが、それに反して挟まれた説明はひどく大衆的な万能アイテムに過ぎず、ここにディックの対比表現の上手さや皮肉のセンスが光っている。オチもまたループめいたゾッとするものであり、まさに悪魔的な読後感であった。ネタバレ表記こそ至極残念な本作だが、それを踏まえても名作であることに疑いの余地はない。

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2019年05月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ランシターvsホリスの対立で展開していくのかと思いきや、全く違う視点の戦いだった。ストーリーの展開が真面目にワクワクさせてくれると同時に読者をおちょくった書き口やチップのヘタレ具合がギャップとしてよかった。
この世界観や設定での別のエピソードを読みたいぐらい他のことが気になる、半生者の世界がメインの話だったが現実側ももっと知りたい。マトリックスやインセプションを連想させる感じ。

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2024年08月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「ユービック」とは「ubiquity(いたるところに存在すること、神の遍在)」を基にした造語(同じ語源の言葉としては、IT用語の「ユビキタス」などがあるよう)。作中では、各章の冒頭に「ユービック」の広告が掲載されており、それが車であり、ビールであり、コーヒーであり、鎮痛剤であり、銀行であり、女性用下着でさえあるという不気味なほど万能の商品として、まずは読者へ紹介されている。

物語は、超能力者を狩る反超能力者(「不活性者」)集団が、陰謀に巻き込まれ、現実か幻想か判断のつき難い世界を彷徨うというもの。細部が書き込まれているのに、全体としては白昼夢のように捉えどころのない、ディック独特の世界が描かれている。何が現実で何が虚構なのか、誰が生者で誰が死者なのか、最後まで緊張感のある展開で読み応えがある。

ディックの短編『宇宙の死者』などに見られる 「半生者」という概念(冷凍保存された死者であり、霊波増幅により意識のみ蘇生が可能な存在。繰り返し蘇生する毎に寿命は尽き、完全な死を迎える)も、物語において重要な位置を占めている。万能の商品として紹介され、終盤ではあまねくところにありながら手に入り難い特効薬として現れる「ユービック」。神の遍在を名に冠したそれ自体に神性はなかったけれど、半生者の世界で善と悪とが対決するという構図には、宗教的なモチーフも感じる。

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2018年08月08日

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