あらすじ
――これまでの歳月を振り返ってみると、竹向殿と私(足利尊氏)とは、奇縁で結ばれているものですね。後の北朝初代・光厳帝の典侍を務めた日野名子〈ひのなかこ〉は、関東申次として権勢をふるった西園寺家の若き当主・公宗の正室となる。だが彼女の栄光の日々は、後醍醐院の謀略と足利尊氏の裏切りにより、あっけなく失われることに。そしてそれは、数多の武家と公家、皇族が互いに争い合う、混沌の時代の幕開けだった――。度重なる戦乱に人生をかき乱され続けた彼女が最後に見抜いた、尊氏の抱える「秘密」とは。名子が著した、最後の宮廷女流日記文学として名高い『竹むきが記』を下敷きに、激動の室町幕府揺籃期を活写する歴史長編。
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Posted by ブクログ
まず、読みはじめの感想は、「一見さんお断り」の本。
「『女人』太平記」のタイトル通り、太平記を楽しんでる人がサイドストーリーとして読む本なのかな、と。
最初の方で登場人物がざざっと出てきて、文章でざっくり生まれや立ち位置など紹介(?)されるのだけれど、どの天皇が南北どちらで、誰が南北どちら側だっけ??みたいな私には、頭で整理をしようとするだけで、、、読みすすめる気が損なわれる。
人物紹介と系図くらいつけてくれてたらいいのに、と思う。(これって、常識の範囲なの??うーん、厳しい)
読み仮名も登場2回目以降はほぼふられておらず、この人、なんて読むんだっけ??と、かなりストレス。
それにめげずに読み進めると、最後まできてやっと「歴史ミステリー」らしさがわかった、なるほど。
Posted by ブクログ
平清盛の異母弟・平頼盛、歌人・藤原定家を探偵役として謎解きに挑む形式の作品が楽しくて読んできた作家さんだが、今回は趣向を変えて、足利兄弟を西園寺名子から見つめた歴史ものとなっている。
太平記は大河ドラマでも視聴したし、足利兄弟の話はいくつか小説でも読んだが、やはり足利尊氏という人間は掴みどころがない印象。
この作品での後醍醐天皇はまったく良いところなしといった感じで、周囲を振り回すだけ振り回したうえに、亡くなったあともまだ多くの人たちの人生に影響している。
今回初めて西園寺家について知ったのは収穫。
摂関家に次ぐ『清華家』という格の高い家柄であり、それだけに権力争いに深く関わり、特にこの作品の舞台である南北朝時代のように最高権力者である天皇がコロコロ変わることによって振り回された歴史を興味深く読んだ。
そして西園寺公宗(きんしゅう)の妻となった名子(なかこ)は、清華家より三階級も下の『名家』日野家の出ということで、何かと辛い立場になっている。
幸い、夫の公宗や姑や周囲の女性たちが優しく援助もしてくれる人なので助かっている。
いつの時代も人間関係が大事なのだなと感じる。とくに名子のような立場の者にとっては格と経済力のある人との繋がりは絶対だ。
ドラマや小説ではさらっと流されることの多い、公宗と北条泰家が起こした後醍醐天皇暗殺未遂事件がクローズアップされるのも興味深かった。
後醍醐天皇によって廃位させられる光厳天皇の典司であった名子だからこそ、夫が処刑されるのを目の当たりにしても、その後の西園寺家の主権争いにしても、実家である日野家の数々の災難にしても乗り切ることが出来たのだろう。
それにしてもこの政争の執念深さは凄まじい。
これまでの羽生さんの作品からして名子を探偵役に、様々な事件の謎解きが行われるのかと思っていたら歴史ドラマだった。
夫・公宗とその弟の公重との兄弟関係と足利兄弟を比較しながら二組の兄弟が辿った運命を見つめている。
だが史実では最後の最後に足利兄弟も残酷な仲違いをしている。そこにどんな真相があったのか。
これまでの羽生作品のようなテイストを期待すると肩透かしかも。
やがて日野家の子孫がやがて8代将軍足利義満の妻となり、西園寺家の子孫がやがて近代日本で内閣総理大臣となるのかと思うと感慨深い。