あらすじ
メイン州の島の沖で七つの遺体を乗せたヨットが見つかり、発見者のイズレルに容疑が向けられる。彼には実父殺害の過去があった。一方、隣の島では少年ライマンが、父親の暴力に耐えかね逃げ込んだ廃屋で、手斧を持つ謎の娘と遭遇していた。それぞれに孤独な三つの魂は、やがて船上の殺害事件と深く関わることに……。S・キング激賞の気鋭が圧倒的筆力で描き上げた感涙のミステリー・ドラマ。(解説・池上冬樹)
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Posted by ブクログ
★5 父親殺しの男とDVを受けている少年、登場人物たちの息づかいが聞こえてくる物語 #穢れなき者へ
■あらすじ
メイン州の島に住むにイズレルは、豪華なヨットで惨殺されている七人の死体を発見する。かつてイズレルは自身の父を殺害した前科があり、第一発見者の彼が事件の容疑者となってしまったのだ。
一方、近くの島に住む十二歳の少年ライマンは、いつも父の暴力に耐えかねていた。ある日父の機嫌の悪さを察した彼は、近くの廃屋に逃げこむ。するとそこには手斧を持った少女が隠れ潜んでいた。大量惨殺事件を背景に、父親殺しと少年少女には何があったのか…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 登場人物との距離がめっちゃ近く感じる。漂ってくる不安、混乱、恐怖といった感情… 読むほどに登場人物の息づかいがリアルに迫ってくるんすよね…
本作はアメリカ西海岸、メイン州の島の沖。あたりは海と自然ばかりで、もはや水の音が聴こえてそうなんです。自然あふれるミステリーと言えば『ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ』を思い出してしまいました。
本作は父親殺しのイズレルと少年ライマンを中心の物語が展開します。第一容疑者のイズレルは、この事件について何かを知ってそう。そして彼と州警察のサラザールは何か裏でつながりがあるらしい。
一方、父親からDVを受けている少年ライマン。彼も辛い境遇ながら、廃屋に隠れている少女ハチェットと関係性を深めていく。謎めいたやり取りながらも、彼らの静かで情の厚みがある交流を見てると、どんどん物語に吸い込まれちゃうんですよね~
彼らは事件の何を知っているのか、どういった関係性なのか、そして何を目論んでいるのか。読み進めるうちに少しずつ謎が明かされ、全体のカタチが見えてくるんだけど、読むほどに深みにハマっちゃうんですよ。
唯一味方になってくれた雑貨店の女性、ダールがカッコイイのよ。彼女の胸を張った生き方、責任のある行動は心に刻まれましたね、自分だったら同じような振る舞いができるのかしら。
そして本作で描かれる犯罪については… もう情けなくて涙もでませんね。権力が大好きだけならまだしも、子どもの対する暴力だけは許せない。さらにもっと身の毛もよだつ背景があるんですが、もう腹立たしくてこれ以上は語れません。こんなことは世界中で無くなって欲しいと願わずにはいられませんでした。
物語が後半に入ると、イズレルとライマンの関係性が発展していく。終盤の盛り上がり&畳み込み&エモさったら、他では味わえない感動でしたね。少年ライマンの姿、これは全人類が求めるべきものだと思いました。
■ぜっさん推しポイント
事件の背景を振り返ってみると、今の世の中、信じられるものなんてあるのだろうか?と、考えずにはいられなくなりました。
大人たちは未来がある少年少女たちを守り、成長の手助けをするという、当たり前のことができていない。我々はどんなに辛い立場であろうとも正直であるべき。そして決して不可能ではないと信じることが重要なんですよね。
Posted by ブクログ
複数の事件が絡み合うけれど、何より辛いのが子ども、ティーンへの迫害。胸が痛くなる。いい大人になる、と言われただけで心強くなるって酷すぎる。親がクズだと不安になるよね、ひどい大人が多数登場し、いったい何?と思わされるばかり。二人は幸せに真っ当に生きてほしい。そして、イメージはしたけれど追いきれない、彼の走りと跳躍、映像で見たいとしみじみ感じました。
Posted by ブクログ
メイン州の島の沖で七つの遺体を乗せたヨットが見つかる
第一発見者は実父殺害の過去を持つイズエル…
一方、隣の島では父親の虐待に耐えかねた少年ライアンが、逃げ込んだ廃屋で身体中血だらけの娘に遭遇する
そして
この三人の出合いが船上の惨殺事件の真相を解き明かすことになるが…
初読みの作家さん
久しぶりに一気読みでした
読後の余韻がすごい!素晴らしい!
それぞれの人物の境遇が作品に生かされている
そしてそれが読後の余韻に繫がっているのだ
「ふたつの無垢な魂のため」
それは「必然」であり「運命」
忘れられない作品になった
Posted by ブクログ
アメリカの作家、マイクル・コリータの十年ぶりの新刊。過去作は早川書房から探偵ものが一冊、東京創元社からサスペンス一冊、ホラーが2冊。特に東京創元社の「夜を希う」が好きで、楽しみにしていた作品。
父親を殺し服役していたイズレル・パイクは、仮釈放を機に故郷の島へと戻る。当然歓迎されるわけがなく、特に保安官補の叔父スターリングとの軋轢は酷い。一方、父親から虐待を受けるライマン・ランキンは、隠れ家にしている空き家で斧を持った女性と出会い…
個人的には今年の新作の中でも上位。主要キャラのイズレル、ライマンの過酷な人生は読んでいて辛いものがあるが、だからこそラストの余韻が非常に良い。
主要キャラへのストレスのかかり具合が強いので、合わない人には辛いかもしれないけど、この物語がどう収束するのかを楽しみに読んでほしい。
冒頭、いきなり大量虐殺が行われているが、正直犯人探しがメインではない。過酷な人生を送る者たちがどうなるのか。その行く末を堪能する、おすすめの一冊。
Posted by ブクログ
マイクル・コリータ『穢れなき者へ』新潮文庫。
初読み作家のハードなミステリー・サスペンス小説である。
なかなか読ませてくれるではないか。何よりも、あってもおかしくはない、べたべたとした男女の恋愛関係など一切排除し、島を蝕む悪の正体に向かい物語が突き進んでいく所が良い。
メイン州のサルヴェーション・ポイント島の沖で、対立する上院議員候補2人を含む7人の惨殺体がヨット上で発見され、第一発見者のイズレル・パイクがイズレルの父親の弟で保安官補のスターリングにより殺人の第一容疑者とみなされる。
イズレルは10年前に実の父親を殺した罪で収監されていたのだが、州警察の女性警部補ジェン・サラザールにより釈放され、彼女から密命を受け、問題のヨットを監視していたのだ。
一方、サルヴェーション・ポイント島の近くの別の島で、12歳の少年ライマン・ランキンがアルコール中毒の父親から逃れるために忍び込んだ廃屋の中で、手斧を手にし、傷付いた謎の娘と出会う。
スターリングによる復讐とも取れる厳しい捜査の手が迫り、島の住人たちからも襲撃を受ける中、イズレルはライマンと出会い、大量殺人事件の理由と島を蝕む悪の正体を知ることになる。
本体価格1,150円
★★★★★
Posted by ブクログ
メイン州の島の沖で、対立する上院議員候補二人を含む七人の惨殺体がヨット上で発見され、第一発見者のイズレルが殺人の第一容疑者とみなされる。彼には十年前に実の父親を殺した前科があった。だが、彼が現場にいたのは、州警察の女性警部補サラザールから密命を受けて、このヨットの動向をうかがっていたからだった。一方、別の島では、十二歳の少年ライマンがアルコール中毒の父親から逃れるためにもぐりこんだ廃屋で、手斧を持った謎の娘と出会う。捜査が進むにつれ、イズレルとライマン、そして大量殺人事件の運命は思いもよらない形で交錯することに――。
「夜を希う」以来、久しぶりにマイクル・コリータを読む。少したじろいでしまう描写もあったが、良い読後感。