あらすじ
わたしは、やっと、自分がなにを作っていたのか知った。
満洲国・新京。
そこで彼女たちに何があったのか。
戦後80年
『きみはいい子』『世界の果てのこどもたち』『天までのぼれ』の著者がおくる、語り継ぐべき物語。
『世界の果てのこどもたち』には書かれなかった、もう一つの真実。
わたしは気づけなかった。
気づけなかったことはたくさんあった。
この物語の中で繰り返されるこの言葉が、いまを生きる、私に迫る。(略)
私はこの作品が『伝言』と題されたことの重大さを、ずっと考え続けている。
――小林エリカ(解説より)
満洲国・新京で暮らす、ひろみ。
聖戦とよばれた戦に勝つため、工場に集められた彼女たちは、鉄の機械とのり、刷毛を使って畳ほどの大きさの「紙」を作り続ける。
それが何なのか、考えもせずに。
五族協和、尽忠報国――信じていた国でひろみたちはどう生きたのか。
これはわたしたちが忘れてはならない物語。
感情タグBEST3
匿名
山も海もない地平線が広がる平地の続く旧満州帝国(中国東北部)で育ったひろみは、「ふるさと」を聞いて歌ったとしても、「ふるさと」の情景がぴんと来ない。五族協和と唱えながらも、そこで暮らす中国人を満人と呼ぶことに違和感を持たない。肉体労働や雑役をする人たちは日本人ではなく満人であるのが当たり前。
女学校で、将校さんから指示されて大きな紙で何かを作らされていても、それが何かわからなくても、「軍事機密」と言われれば疑問を持つことも封じてしまう。
うっすらと何かの兵器なのだと思っていても。
終戦、というか敗戦で、関東軍はさっさと引き揚げてしまい、満州に残された人は、「満人」と呼ばれていた中国人からどれほどの恨みを買っていたことに初めて気づかされた・・・というのも、「本当に初めて」なのか、うっすらわかっていたのではないか。
同じ捨てられた満州の、都市部の居留民と開拓団の間にも格差があり、引き揚げの時にも、その後にも・・・。
「わたしは気づけなかった」
「気づけなかったから」「気づけないで通り過ぎてきた後悔があるから」
「なにも考えていなかったせいで、やってしまったことがあるの」
「何もかも運やっていうが、わかる」
「あのとき、無知だったわたしがしたことも、しなかったことも、なくなりはしない。
だから。
わたしは忘れない。
そして、もう二度と、同じことがくりかえされないように。同じ思いをする人を、二度とこの世界に生まないように」
・・・かつての日本人、軍だけでなく、為政者だけでもなく、なんということをしたんだろうと・・・、
そして、それをなんで伝えず、忘れてしまおうとしているのかと、泣きそうになりながら読み終えた。