あらすじ
十七歳の翠は浅草生まれ。私娼窟の玉の井で育ち、流れ流れて京城(現在のソウル)に来た。養父の口利きで、国語教師の家に世話になりながら女学校に通うのだ。下宿先には同い年の朝鮮人のお手伝い、ハナがいた。翠がなかなか彼女と距離が縮められずにいたところに、ハナの弟が行方不明になるというできごとが起こる。その日のうちに弟は無事に見つかるが、そんなことから翠とハナの間の日本人/朝鮮人の垣根が開いていく。そして翠には京城を訪れるひそかな理由があった。
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Posted by ブクログ
ずっと、この物語好きだなぁと味わい噛み締めながら堪能した。戦前の東京の下町の娼婦街で育ちかりそめのお嬢さまとして日本統治下の京城で女学生になった翠と、翠の下宿先で子守として働く朝鮮人のハナ。民族、生まれ、親、立場、何もかも違う2人の少女の友情はたまた恋愛の物語。時代背景や民族差別や虐殺など息苦しくなる部分がありハナの、お嬢さまにはわからないと怒る気持ちに悲しくなる。分かり合えないと感じていた2人が惹かれ求め合い、過去の真実に辿り着いた瞬間には目から鱗だった。2人がまた再開できる明るい未来が待ち遠しい。
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朝鮮の少女とのすれ違いながらも心を通わせていく切ない話。
標本の話とは重さは違うけど懸命に生きている戦争中の人々の話は現代の小説にはない重厚な、ずっしり感と戦国時代小説よりも読み応えのある気がする。この作者もこれからも追いかけていきたい作家の1人となった。
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当時の歴史背景を全然知らずに読んだので、その事実を知って、複雑な気持ちになった。
それでも、本当に美しい文章で物語が書かれていて終始引き込まれっぱなしだった。
最後は、出会う人や街を通して大きく成長した主人公とハナが、また笑顔で再会できると良いなと心から思った。
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最後は前向きだしいいお話ではあったけど、歴史上のしんどい部分が後半は主軸になっていたので、すっきり前向きな話としては読めなかった。
翠の環境もハナの環境も時代によるところは大きいと思うけど、じゃあ今の時代はどうなんだろうって思うと、もっと潜在的な差別はあるんじゃないかなとも感じる。
Posted by ブクログ
2025.10 誰かの小説に雰囲気が似ているなと思ってい読み進めていた時にふと頭に浮かんだのが伊吹有喜さん。芯のある若い女性の心情でストーリーが進んでいくからでしょうか。沁みる小説でした。
ただ、こういう小説を読むと日本人であることが恥ずかしくなることがある。日本人は優しくて礼儀正しい、なんて言われるけれどムッツリなだけで本性はちがうよな、なんてことも感じました。人のことは言えんけど。
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主人公翠は、私娼と朝鮮人の子として生まれ玉の井に育ち、妾候補となり、朝鮮にわたり京城の竜谷高等女学校に入学する。そこで子守に雇われている朝鮮人の少女ハナに出会う。
時代は1936年から37年、京城で世話になる家は、早稲田卒の社会主義者で京城第一高女の教師で特高の影が、日華事変が始まり京城にも戦争の跫音。翠とハナとの間の反発と恋愛感情が描写される。
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文章がしっかり作中の空気を纏っている。
あつあつで少し塩辛いソルロンタンをご飯に浸して食べるシーン。ふわりとはためく紫のワンピースを着てみたかったハナ。
背景や人間関係もよく描かれていた。
作者名から勝手に女性と思っていたが、女性史研究家の男性と知って新鮮な気持ちになった。
Posted by ブクログ
日本植民地下の京城で時代に翻弄されながらも、たくましく生きる少女たちのお話。何回読んでもこの頃はあまりにも酷くて恥ずかしくてやるせない気持ちになる。緑とハナがまた笑顔で再会できますように。