あらすじ
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太平洋戦争当時、米軍は戦闘機に搭載した「ガンカメラ」で日本軍との戦闘の様子を克明に記録していた。現在、米国立公文書館などに収蔵されているこれらの動画が撮影された状況を、著者らは検証し特定。零戦をはじめとする戦闘機との空中戦、軍艦への攻撃、大都市への夜間大規模空襲、民間人が乗った機関車や船舶への無差別攻撃…。戦争取材の第一人者で“常夏記者”の異名をとる毎日新聞記者の栗原俊雄が共著者として解説を担当。
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Posted by ブクログ
ガンカメラとは軍事利用される航空機に取り付けられているカメラだ。古くは初めて戦争に航空機が運用された第一次世界大戦時で、イギリス空軍機に設置されたものだ。その後1920年代には多くの軍用機でその運用が一般的になり、日本の軍用機にもカメラが取り付けられていたようである。これは戦果の確認や、パイロットの教育用として映像が利用されたが、その多くは永年保管する運用になかった事で、現存する撮影物は非常に貴重なものである。なお、第二次世界大戦時には機銃操作と連動して撮影がされるなど、技術面でも進化がみられていたようである。
本書はそうしたガンカメラ映像の新たに発見されたものを中心に、主には空から見た太平洋戦争といった内容になる。タイトルも「米軍戦闘機から見た太平洋戦争」、サブタイトルは「ガンカメラが捉えた空戦•空襲」となっている。前述したように、機銃操作との連動性から、写真の多くに、戦闘機が射出した弾丸が(主に左下あたりに)映り込んでいるものが多い。
本書はそうした写真群が中心ではあるものの、太平洋戦争開始当初からの、戦争の経緯や背景が時系列で説明されている。視点がアメリカ側であることは、当初は優位に戦線を拡大した日本が、サイパン陥落以降に徐々にアメリカに制空権を奪われ、更に後半に進むにつれて空襲被害写真がアメリカの優位を示すかの如く多くなっていく構成である。読み進める読者は空襲そして原爆投下などにより日本が確実にそして、避けられない敗戦に向けて衰退していく様を空から眺めることになる。単なる文章からだけでは伝わりにくい日本の被災の状況を写真から視覚的に認識する意味は何か。その意味を一枚一枚の写真から考えていくことには大きな意味があるものだと感じる。これまで多数の太平洋戦争関連書籍を読んできたが、私にとっては、文章を読みながら想像してきたイメージを更に上回る悲惨な状況として、改めて認識することができた。しかしそれは上空=上から眺めた優勢な攻撃側視点であり、その遥か下、地上には逃げ惑う民衆の姿がある。下から見上げた戦闘機の恐怖を本書の写真を見ながら同時に感じなければ、戦争は理解できない。
一枚ずつ写真を隅々まで眺めてみて、戦争が何を世界にもたらすのかを改めて考えてみたい。そうした意味では、後半に戦後のアメリカによる原水爆実験の写真を掲載した筆者の意図が何であったのか、読者は十分に考える必要があるだろう。