【感想・ネタバレ】日本海軍 失敗の本質のレビュー

戸髙一成

慢心、隠蔽、虚偽の報告……。太平洋戦争において日本海軍が抱えていた「本質的な問題」とは何か。大和ミュージアムの館長であり、菊池寛賞も受賞した海軍史研究家が後世に残す、戦後80年の総決算！ 本邦初公開の写真も収録。（目次より）●序章 昭和海軍と太平洋戦争――日本には何が足りなかったか ●1章 〈真珠湾奇襲（昭和16年12月）の舞台裏〉昭和海軍の誤算――なぜ開戦を止められなかったか●2章 〈セイロン沖海戦（昭和17年4月）〉敗北の序章――英国艦隊に完勝の陰で看過された「失敗」 ●3章 〈珊瑚海海戦（昭和17年5月）〉見落とされた海戦――この「失敗」を戦訓にできなかった昭和海軍 ●4章 〈ミッドウェー海戦（昭和17年6月）〉隠され続けた事実――日本海軍大敗の要因は何か ●5章 〈蒼海に眠った異質の司令官〉山口多聞と日本海軍――なぜその進言は「ノイズ」となったか ●6章 〈連合艦隊司令長官の光と影〉山本五十六と昭和海軍――活かされなかった軍政家としての能力 ●7章 〈ルンガ沖夜戦（昭和17年11月）〉日本海軍の体質――完勝の裏側に見てとれる負の側面 ●8章 〈マリアナ沖海戦（昭和19年6月）〉打ち消された「絶対国防圏の死守」――問われるべき三つの敗因 ●9章 〈敗北の司令官の実像〉小沢治三郎と昭和海軍――マリアナ沖海戦の指揮をどう評価すべきか ●10章 〈レイテ沖海戦（昭和19年10月）〉史上最大にして最後の海戦――「負け方」を知らなかった日本の敗北 ●11章 〈沖縄特攻（昭和20年4月）〉昭和海軍「最後の汚点」――戦艦大和はどう使われるべきだったか ほか

[ブクログ · ★★★★☆]

太平洋戦争において陸軍の悪いイメージが先行するが、海軍に至っても開戦当初は良かったものの研究不足で情けない状態。 作戦、人事、配備、運用において従来型の慣例に当てはめて考えてばかり。 珊瑚海海戦の反省もなく、ミッドウェーでは驕り高ぶった意識のため簡単に敗北。アメリカ軍にすべての面で圧倒され続け、最後に沖縄特攻で大和が撃沈され日本海軍主要艦艇は消え去る。 負けるべくして負けとした言いようがない状態。机上の空論でカタログスペックだけで考えていては戦闘に勝てるわけがない。そして誰も責任を取らないのは今と同じ。

[ブクログ · ★★★☆☆]

日本は周囲を海に囲まれる。陸地を接する他国が存在しないことは、他国が日本へ攻め込む際には必ず海を渡ってくる。当たり前のことではあるが、これがかつて日本が海軍大国として世界に君臨し、なおかつイギリス、アメリカと建艦数で争う一因になった。日本は日英同盟を活かして海外から購入した戦艦でありながらも、その海軍で大国ロシアを撃破し、一躍世界で存在感を大きくした経緯がある。白人しか人権がなく、有色人種に対する致命的なほどの優越意識、有色人種を劣等民族と決めつけ、猿や獣同様に扱った世界に於いて唯一、世界の西欧列強と肩を並べるに至った過去を持つ。その一因はやはり、日露戦争の勝敗を決した海軍力も大きかったはずだ。そして、元来専守防衛に徹するべき海軍は、世界への侵略を企てる日本の戦闘力の象徴として、その後の太平洋戦争の火蓋を切る役割も担っていく（実際は陸軍によるマレー方面の作戦が先に開始されているが）。
本書は戦後80年の節目の年に、改めて旧帝国海軍の主要な海戦記録を追いながら、如何にして日本が、そして日本海軍が先の大戦で犯してしまった失敗を振り返る内容となっている。それは良識派として米英の力量を冷静に見る見識を持ちながら、政治に介入せずの姿勢を極端なまでに貫き通し、日米開戦に反対できなかった態度に始まる。真珠湾攻撃を担った山本五十六や、当時の海軍大臣だった及川古志郎などは戦争突入を踏みとどまらせるチャンスを逃した。そして始まってしまった真珠湾攻撃。南雲中将の中途半端と言われても致し方ない、敵空母を撃滅出来なかった事や、エネルギー施設への攻撃不徹底などは、戦略目標の達成を結果的には無視した事になり、その後の敗戦へと連なる道のりの一端が既に見え始めていると言える。緒戦こそセイロン沖でのイギリス海軍の撃滅など、航空戦力を重視する「新しい」攻撃方法が功を奏したが、相手が慣れて対応してきても、同じ成功経験だけの戦術を採り続ける国民性。そして珊瑚海海鮮やソロモン沖海戦でも、大小様々な失敗を積み重ねながら戦い続けた日本。決して現場の戦闘員や艦隊指揮官だけに責任は押し付けられず、寧ろ戦闘中の緊迫した状況、生死を分ける瀬戸際の精神状態、そして敵が見えない状況に於ける難しい判断。こうした現場の人間よりも、中央の戦略に大きな問題があったことは、最終的に戦争に負けた事が大きな証明となっているだろう。
日本の敗戦に向けたターニングポイントと言われるミッドウェイ海戦では、将来有望な山口多聞を失う。これは指揮官の性格や経歴までをも研究していたアメリカを勢いづける要因にもなる。山本五十六亡き後の日本に山口も居なければ、有能な指揮官が戦場に出てくる事がないというアメリカ側の安心感。その後出てくる小沢治三郎も有能ではあったが、年功序列を善とする海軍の伝統からは、まだまだ先の話である。そして、レイテや沖縄への戦艦大和の特攻で完全に幕を下ろした日本海軍。
こうして見ると、後世の歴史家の間には「失敗」の2文字を中心とした戦後評価が多くなされるのは致し方ない事だが、その失敗の本質に迫り、更なる研究の必要性を訴えるのが本書の大きな主張でもある。何故なら失敗は最大の教訓•教科書として学ぶべきでありながら、まだまだレイテの謎の反転（栗田健男中将）や、沖縄特攻を受け入れた伊藤整一中将が本心として、どう考えてどの様にして結果を生み出したのか、結果が生まれたのかについては、研究の余地があるからだ。そして何より後世の我々がそれをどの様に分析し、解釈し、何を教訓として今と将来を過ごすかは我々自身が考えなければならない。それが同じ過ちを繰り返さない為の、失敗の本質の解釈であるからだ。
本書は大和ミュージアム館長の戸髙一成氏の著作であるが、氏は繰り返し大和や海軍を中心とした書籍を出版しながら、繰り返しこの教訓の大切さを訴えている。それは平和な世を当たり前の様に生きてしまっている、我々戦後世代が、かつての大戦の失敗を忘れ学びを怠ったことから来る平和の崩壊を防ぐ為ではないだろうか。国政に於ける各省の予算請求額をニュースで見た。確かに防衛費は円安影響もあるからだろうが、8兆円を超える巨大なものとなっている。果たしてそれは、国防に繋がり他国が侵略を諦める為の軍備強化に使われるのだろうか。それとも…。ロシアがウクライナを攻め、イスラエルがガザを砲撃する。そして中国が虎視眈々と台湾ばかりか、沖縄までも視野に入れて軍備拡張を続ける現在。なおも日本が海に囲まれる状況は変わらない。本書は日本の海軍の過去を眺め、将来の平和への貢献を海軍力という一つの視点から考える良い機会になるのではないだろうか。