あらすじ
クーデターとは非合法的な政権奪取である。
国際秩序の変動期に「避けられない悪」として頻発するが、昨今またその兆候が著しい。
本書は昭和の動乱期から21世紀のグローバルサウスまで、未遂や失敗例も含め幅広く検証。行動原理や成功要因を解明し、民主主義vs.権威主義vs.イスラム主義、SNSの影響、資源争奪、ワグネルの暗躍など現代の特徴に切り込む。
当事国の民政移管や治安部門改革への支援など、日本の役割も問う。
はじめに
第1章 クーデターとは何か――一撃による非合法の権力奪取
革命との違い/内戦との違い/暴動との違い/テロとの違い/世直しクーデター/第二次世界大戦前――歴史を動かしたクーデター/第二次世界大戦後――クーデター多発の時代/米ソ冷戦後――民主化の遠い道のり/第1章のまとめ
第2章 発生要因と成功条件――成功の見込みと軍の決意
現政権への不満/一般民衆からの支持/権力奪取の見込み/成功条件/軍全体が関与する場合/軍の一派が主導する場合/決起を成功させるための手配/ロシア――鍵を握る諜報機関/北朝鮮――軍の分割統治と二元指揮制度/中国――ポスト習近平をめぐる権力闘争/第2章のまとめ
第3章 21世紀の権力奪取――五つの特徴
民主化運動の軍による横取り/新しいイデオロギー対立の萌芽/携帯電話とSNSの発達/新たな資源争奪戦/民間軍事会社の暗躍/第3章のまとめ
第4章 クーデター抑止策――多角的アプローチの必要性
エリートへ利益を分配する/民衆の不満を抑制する/民主的な政権交代を実現する/政権交代を制度化する/紳士協定を法制化する/軍を分割統治し相互に牽制させる/文民統制を確立する/人事を通じて軍を掌握する/外国軍・平和維持軍の存在を活かす/国際承認と制裁を活用する/新しい抑止策/第4章のまとめ
第5章 決起後の課題――暫定政権の樹立から民政移管へ
秩序回復時の権力の濫用/暫定政権の危うさ/民政移管の失敗例/民政移管の成功例/タイ政治における軍の役割/政軍関係の諸理論/軍に対する文民統制/インドネシアにおける文民統制/フィリピンにおける文民統制/ミャンマーにおける文民統制/民主化における軍の役割/東アジアの事例――韓国と台湾/東南アジアの事例――インドネシアとフィリピン/第5章のまとめ
第6章 治安部門改革――クーデター抑止のメカニズム
治安部門改革の成功例と失敗例/主要な取り組み/クーデター抑止策との関連性/軍の分割統治と相互牽制/法制度整備による文民統制の確立/軍の非政治化/人事権の行使/台湾における文民統制確立の歩み/改革の限界と課題/第6章のまとめ
第7章 2・26事件――歴史から学ぶ教訓
2・26事件とは何か――世界最大規模のクーデター未遂/決起の背景――なぜ事件は起きたのか/決起成功の見込み/敗因①――昭和天皇の決意/敗因②――木戸幸一の輔弼/敗因③――要人拘束の失敗/敗因④――帷幄上奏の失敗/敗因⑤――天皇型政治文化の存在/敗因⑥――政治工作の失敗/敗因⑦――報道・情報操作の失敗/カウンター・クーデターの動き/人事を通じた抑止策/戒厳令の二面性――クーデター抑止か誘発か/現代における戒厳令と緊急事態宣言/21世紀の戒厳令――韓国「12・3」非常戒厳との比較/日本への教訓/第7章のまとめ
第8章 日本外交の支援策――クーデターをなくすために
治安部門改革支援の実績/民主化支援の実績/東アジア人的交流と育成の重要性/東南アジア――軍事交流と民主化支援の強化/アフリカ――技術支援に留まる現状/インド太平洋――クーデター抑止も価値観外交の一つ/グローバルサウス――気がかりなBRICSの動向/第8章のまとめ
終 章 ク ーデターの可能性と限界――民主化への道か混乱か
クーデターのパラドックス(二面性)/世直しクーデター/アフリカのジレンマ――断ち切られぬクーデターの連鎖/日本への示唆現代の私たちへの教訓
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
著者は冒頭で「クーデター」は政権の権力者を一撃で交代させる行為で、それを担うのは支配階層に属する一派だという。革命、内戦、暴動、テロなど、クーデターと似ている行為は、どの点が共通して、どの点で異なるのかをいくつかあげ、実際に起きた世界各国のクーデターの例を本書で紹介する。またクーデターが成功する条件と阻止するための要因を指摘して、21世紀の政治のあり方を模索する。これらの内容は、日本も他人事ではなく、クーデターを阻止するために、日本の外交において他国を支援する重要性を本書で強調されている。
Posted by ブクログ
なんとなく手に取ったが、とてもよかった。こうした新知識との出会いがあるから新書は好きだ。なんとなくつかうクーデターという言葉。革命との違いにまず驚き、その発生要件、抑止策、これまでの事例ととても筋立てがわかりやすい。理論を学んだ後に世界最大クラスのクーデター未遂のニ・ニ六事件を眺めるとただの知識を越えた理解が広がる。
現代のクーデターは、「市民社会が関与する21世紀型に移行しつつある」という最終章の言葉が印象的である。
Posted by ブクログ
クーデターについてよくもこんなに縦横無尽に語れるものだと感心しかない。クーデターの発生要因から防止策まで広範な議論を読ませてくれた。個々のクーデターの事例について深掘りした次回作があれば読んでみたい。
Posted by ブクログ
クーデターのメカニズムから対策・予防策に至るまでを、具体例を交えながら解説した書籍。日本に住んでいる以上クーデターは身近でなく遠い存在であったが、本書に登場する具体例の多さに驚かされた。
本書で興味深かった箇所に現代日本のクーデター可能性と、日本の支援による他国のクーデター予防が挙げられる。民主主義の価値観を守るためにも日本の支援は大切だと感じられた。
Posted by ブクログ
20世紀以降に生じた世界のクーデターを解析し、クーデターの発生要因、成功したクーデターの要件、またクーデターを抑止するための施策を考察する。
恥ずかしながらクーデターと革命の違いを初めて知った。日本でのクーデターの例として226事件が取り上げられているけど、「軍服を着た百姓一揆」とも評される同事件はクーデターとは違うような気がする。もっとも誰か青年将校たちを踊らせた人間がいるなら別だけど…
Posted by ブクログ
筆者が述べているように、根本的に社会を安定させることこそが肝要である。
また、軍の分権化だけではなく、究極的に支配関係を解消していくといった平等・分権化についても議論すべき課題ではないか。
Posted by ブクログ
クーデターとは非合法に政権をうばう行為であり、一撃で行われるものと定義し、それを詳細に分析する。似たものに革命、内戦、暴動、テロがある。
クーデターの分析、成功条件、最近の特徴、抑止策、奪取後などいろいろな面からの記述は興味深い。
尤も、どれもそうだらうねと納得できるが、意外性や驚きはなかった。
クーデター=悪ではない、独裁や暴政を倒すクーデター、民政移管につながるものも挙げられているが、合法的なプーチン政権や北朝鮮を見ていれば、合法性が善に繋がるわけではないことは明らかだ。
つまり、クーデターは軍という危険な刃物が持ち主に危害を加え、取って代わるものであり、それ自体で善悪を言えるものではないのだろう。
幸い近代日本ではクーデターが成功した例はなく、日本人は欧米同様にクーデターにいい印象を持っていないが、開戦前に東条政権にクーデターが起こり、対米戦を避けていれば戦死者にとって善であったであろう。
結局、政治は結果責任であり、クーデターも政治の手段として結果次第ではないのか。