【感想・ネタバレ】行先は未定ですのレビュー

あらすじ

「生きることはわかったような気がするんだけど、死ぬっていうのはどういう感じなのかな」
谷川俊太郎さんは、亡くなる2週間前まで語ってくれました。

「いきる」「はなす」「あいする」「きく」「つながる」「しぬ」とは?
詩人が語った111の言葉を、書き残した44の作品と一緒に構成する「ことば+詩集」です。

ぽつりとおかしく、ぽつりと鋭い、谷川さんが置いていった言葉たち。

92歳でこの世を去るまで、新しい作品を生み出し続けた谷川さん。
「答えのない人生」を生きた谷川俊太郎さんの宇宙が見えてきます。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「行き先は未定です」と聞いたとき、どんな気持ちでしょうか?期待か、それとも、少し不安になるでしょうか。言葉の受け取り方は、そのときの心の状態や、未来に対する考え方によって変わりますが、未来を「可能性」として捉えたとき、「未定」は自由で希望に満ちた言葉になります。でも、先が見えないことに不安を感じやすいときには、「未定」は落ち着かない、心細い状態を表すものにもなります。「未定」という言葉が希望にも不安にもなるのは、読み手自身の「心の地図」が関係していると思います。
谷川俊太郎さんの作品はやさしさと同時に、どこか「しんどさ」を感じることがあります。偉大な詩人であると分かってはいますが、同時に苦手な詩人になることがあります。それは、時に彼の詩が沈黙や死、孤独といった深いテーマを、静かに、でも確かに浮かび上がらせるからです。ある評論で、谷川さんの詩には「言葉の意味から滲み出すものを沈黙に探る」姿勢があると語られています。読む人は、ただ言葉を追うだけでなく、自分の内面と向き合うことになる。その時間が、少し苦しくもあり、でもどこか心に残ると思えてなりません。この詩集のタイトルを聞いたとき、やっぱり谷川さんらしいタイトルだと思えました。
少し話がそれますが、一部収録の詩集『二十億光年の孤独』は、宇宙の広がりと人間の孤独を重ね合わせるような作品です。勝手なイメージですが中島敦の『山月記』や梶井基次郎の『檸檬』、太宰治の『人間失格』など、孤独や葛藤を描いた文学にも同時に惹かれるような気がします。これらの作品に共通するのは、「孤独を静かに、美しく描く」という点です。登場人物の姿を通して、自分自身の心の奥にある感情と向き合っているのかなと思うことがあります。
さて、この詩集の構成は、「いきる」「はなす」「あいする」「きく」「つながる」「しぬ」という章で、人生の旅を詩でたどるような流れになっています。晩年の谷川さんは、「生きることはわかったような気がするんだけど/死ぬっていうのはどういう感じなのかな」と語りました。この言葉には、死を恐れるのではなく、未知のものとして静かに受け入れようとする姿勢が感じられます。
また、谷川さんは「沈黙は私にとって切実な主題です」とも語ります。詩は、ただ言葉を並べるものではなく、人の奥深くにある静けさとつながるもの。晩年の作品では、意味よりも「響き」や「気配」を大切にし、読む人が自由に感じ取れるような余白を持った言葉を目指していたようです。同時に、詩と音楽の関係にも深い関心を持っていました。「詩はなくても生きていけるけれど、音楽はなくちゃ生きていけない」と語り、音楽を生きるうえで欠かせないものと捉えていました。朗読とピアノを組み合わせた作品『聴くと聞こえる』では、言葉が“話される音”として自然に響いていました。「いい音楽には、自分がない。そういう言葉を書けたらいいな」という言葉には、自己を消して、ただ響きとして存在する詩への憧れが込められています。詩や音楽は、意味を押しつけるのではなく、聴く人・読む人の心にそっと寄り添うものです。
詩集を読んだ後、タイトル「行き先は未定です」は改めて心に静かに問いかけてきます。未来が決まっていないことを、恐れるのではなく、受け入れてみる。そこに、谷川さんの詩が教えてくれる、やわらかくて深いまなざしがあるように思います。寂しさはありますが、新しい旅路への白地図を示してくれたような気がします。

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2025年11月05日

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