あらすじ
凄まじい破壊力はどこから生まれるのか?
終戦80年、ロングセラーの最新決定版。
核分裂の発見から原爆投下まで、わずか6年8ヵ月──。
物理学の探究はなぜ、核兵器の開発へと変質したのか?
「永遠不変」と信じられていた原子核が、実は分裂する。
しかも、莫大なエネルギーを放出しながら──。
1938年にこの事実がわかった瞬間から、おぞましい兵器の誕生は運命づけられていたのだろうか。
物質の根源を探究し、原子と原子核をめぐる謎を解き明かすため、切磋琢磨しながら奔走する日・米・欧の科学者たち。
多数のノーベル賞受賞者を含む人類の叡智はなぜ、究極の「一瞬無差別大量殺戮」兵器を生み出してしまったのか。
近代物理学の輝かしい発展と表裏をなす原爆の開発・製造過程を、予備知識なしでも理解できるよう詳しく解説する。
〈原子爆弾はなぜ、同じ国の二つの都市に投下されなければならなかったのか?
世界唯一の被爆国である日本は、たとえ明快な答えが得られなくとも、これらの疑問を永遠に問い続け、世界に訴え続ける責務を負っている。原爆投下の事実は、決して歴史上の過去の出来事として片付けるわけにはいかないからである──。(「はじめに」より)〉
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Posted by ブクログ
ロシア・ウクライナ戦争、イランの核施設への攻撃など、核兵器を巡るきな臭い報道が増加しています。”核兵器廃絶”を主張するとしても、まずはその”しくみ”を理解することで”なぜあのような凄まじい威力が発生するのか”、”通常の爆弾とは異なりなぜ放射線の被害が出るのか”を知ることができるように、本書は丁寧に執筆されています。
本書前半は核兵器の威力の根源となる”核分裂”について、科学者がどのように理解を進めて行ったのかを辿ります。原子核の構造(陽子、電子、中性子の発見など)、そして核分裂現象の発見などを数式などを全く使わず、出来るだけ平易に、かつ簡略化しすぎないように解説しています。
本書は新書で500ページを超える分厚さですが、この前半部分がほぼ300ページ超もあって、「核分裂の仕組みを理解して欲しい」という著者の気持ちが伝わって来ます。
そして本書後半部分は、それら科学的知見をもとに原子爆弾を開発する過程、技術的なハードルについて解説しています。
本書前半部については高校で物理を履修した人にとっては懐かしい内容に感じられるのでは。登場する科学者の名前(ボーア、ハイゼンベルク、コンプトン、フェルミ、ラザフォード等々)は聞き覚えがあるのではと思います。”平易に”とはいえ、そこはブルーバックスだけにかなり踏み込んだ内容に思いました。
原子力発電も原爆も核分裂を利用しているのは共通でも、その反応が”ゆっくり持続的”なのか、”一瞬で爆発的に”なのかで全く異なる設計が必要であること、なぜアメリカは広島と長崎に異なるタイプの原爆を開発したのか(広島に落とされた原爆の材料はウラン、長崎に落とされた原爆の材料はプルトニウム)等々、私自身が疑問に思っていたことについて、腑に落ちる解説がされていて非常に参考になりました。
本書は核兵器保有に関する政治的な問題には力点をおいていません。それらを考える際に、核分裂=原子力エネルギーに関する知識をより多くの人に知っておいてもらいたい、という願いの元に執筆されている本だという事を承知の上で読まれる事をお勧めします。
2025年6月にアメリカはイランのウラン濃縮施設への空爆を実施しましたが、ウラン濃縮が原爆の製造の工程でどういう位置づけなのかが理解できると、なぜアメリカがそこまでしたのか、ということも容易に理解できます。原発に関するニュースにしても、核兵器に関するニュースにしても、技術的な知識があればより深く理解できるように思います。
Posted by ブクログ
世界史上唯一の原爆投下国である日本。
「妥当な判断だった」
「過剰な攻撃だった」
アメリカでも二分する原爆被害は、人道的な攻撃手段ではなかったと、少なくとも疑問視するだけの大量殺戮破壊兵器であることには、世界中が同意すると思います。
それゆえに、『抑止力』などという口実で、核を保有する国もある。そう言う国では、電気の供給が当然止まった時、勝手に爆発しない、発射しない制御を考えていない。ミサイルに搭載していない物については安全だろうけれども、原子力発電や発射台に入った物については、対処を考えていないとのこと。
小松左京の「復活の日」のように、核弾頭が勝手に発射する、メルトダウンを起こして臨界反応中の放射性物質が漏れ出すなど、実は明日は我が身だったりします。
「原子は中性子の衝突で崩壊する。」
「崩壊後の原子は同質量の原子とは異なる性質を持つ」
この二つだけで、臨界の恐ろしさが分かる。
火力発電に頼った発電には限界がある。それは分かる。ただ、原子力を人類はまだ制御できているとは言えないのではないだろうか。なんなら、制御なんて不可能なのではないだろうか、と思います。
マリーキュリーが白血病の病床で言った言葉、
「神の力に触れてしまった罰なのかしら」
彼女の病の原因は、約8トンものウラン鉱石からラジウムやポロニウムを検出した時に、加重被曝によって罹患したものです。
最後に、マンハッタン計画で、ロシア(共産主義)へのスパイ容疑を掛けられたオッペンハイマーは、日本に落とした核分裂方式の核爆弾を作った人だが、アメリカ軍が水素爆弾(核融合方式)に着手しようとした際、猛反発したことで、セキュリティクリアランスを剥奪されました。事実上の更迭です。
核の利権。人類がもっとも金を掛ける神の炎。
本自体はめちゃくちゃ大味ですし、文量も半端じゃないですが、面白いブルーバックスでした。
Posted by ブクログ
原子爆弾はなぜとてつもない威力があるのか、どのような仕組みになっているのか、U-235やPu-239をどのようにして得たのかが丁寧に書かれている。そして、それらの理解に必要な原子核の物理や歴史的いきさつが説明されている。大学で原子核物理や放射化学を学んだ人は、途中から読むことができる。
初めての人にも分かるように丁寧に工夫しながら書かれているが、文章で説明するよりも式や図を使って説明した方が、イメージしやすく理解が進むと思うところが、間々見受けられた。更にいえば、同じことが繰り返して説明されるので、焦ったいところもあった。
著者は米国で修士課程で原子炉理論を学んだというから、この分野のことはよくお分かりである。内容をよくイメージしながら読むと、原子兵器の開発が、巨大な国家プロジェクトなことが分かる。
内容が分散しているのと重複が多いので、星みっつ。