あらすじ
故郷から逃れた訳アリの搭乗員・谷藤十郎(たにとうじゅうろう)と、孤高の偵察員・緒方伊魚(おがたいお)。新鋭機≪彗星≫を駆るペアが、終戦後に辿った軌跡とは──生い立ちから藤十郎との出会い、ペアを誓うまでの伊魚の回想録、復興の中新しく家を建て、二人暮らしで愛を育む春夏秋冬の日々。ペアの証に指輪を交換して赴く新婚旅行──。番いとして生きる男たちのなにげなくも愛おしい日常を、糖度高めに綴る番外編集第二弾!! 『彩雲の城』後日譚など全25編収録!! ※口絵・イラスト収録あり
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
尾上さんの後書きを読んで、どびっくり。
タイトル通りヘルブック=エロ本を目指して敢えてそういう風に構成されたのだそうですが…
いやいや、これは恋愛文学ですよ。確かにヒュンしないアレは盛り沢山だけど想像よりは少なかった気が。
復刻前の表紙を知っていたので、もう全編アレかも知れないと思っていたからなのか、私が麻痺して来ているのか…(エロ本ばっかり読んでる人みたいな言い方)
これならば、腐女子の友人が貸してくれたBL作品の方が本編なのに余程エロ本だった(彼女はあけすけな腐女子なので、私に「あんたは攻めか受けか未だに悩みあぐねている」と言ってくる。どちらでも良いから授業中に言ってくるのはやめて欲しい)
さて、前置きが長くなりました。
BL界の山本周五郎賞、1945シリーズ『彩雲の城』の番外編でございます。
今回も元々は同人誌として発表されたものや、掌編を纏めて下さったお馴染みの復刻版です。
ありがたい。
本編で彗星が墜落し、漂流を経て命からがら生きて日本に戻った2人。本作の舞台は復興目覚しい日本です。
藤十郎は紡績会社に就職、伊魚は数学教師として働いています。
2人の新婚生活(もうこれ、新婚ですよね?5年以上もずっとラブラブだけど)も見ていて嬉しかったのですが、それと同じ位に焼け野原だった日本がどんどん立ち直って行く情景に何だか胸が熱くなりました。
逞しいなあ…。
作中で、内地で伊魚の姿を見たことのある椎名という帰還兵が出て来ます。彼も現在社会人として生活を立て直し平和に暮らしているのですが、キャバレーなどが立ち並ぶ銃後の日本の中で、ふと現実感が分からなくなり伊魚の事を思い出し、思いを馳せてしまうという話なのですが、これが体験した事もないのにそうなるだろうなあと妙に説得力があったんです。
恐らく尾上さんは体験者の方にも取材をされていると思うのでその体験談の1つなのかな。しかも伊魚の内地にいた時の話と見事に融和させてる。
流石はBL界の山本周五郎賞。番外編まで読者の心を揺さぶるのか。エロ本なのに!!
そう、本作を語るにはアレ抜きでは語れませんよね。(一部の界隈から悲鳴が聞こえて来ますが)
BLを読む度に思うのですが、よくまあこんなに色々なバリエーションのアレを思い付きますよね。
それぞれのキャラによってその時に交わされる睦言も変わって来るし、アレのスタイルも変わってくる。
褥でしか見せない可愛げ等もちゃんと見せてくる。
キャラの深堀りも捗りますし、勿論、腐女子さん方には萌えも提供してくれる。
ただただ感心して読んでしまう。(こんな目線で読むのは合っているのだろうか…?)
おびのりさんの伊魚…こんな可愛いツンデレだったのか。
本編でもモールス信号でキュンとさせてくれましたが、またもや…!これは狡いな。尾上さん、やりよる!!
痴話喧嘩の激しいアレ、仲直りの甘いアレと様々ありますが、総じて思う事は、本当に2人で生きて帰ってくれて良かった…。
本編ではハッピーエンドだと分かっていても、落ち着いてアレを見守る事が出来なかったですからね。
1番好きだったエピソードは『一と超ジュラルミン』
伊魚の可愛い独占欲が堪能できる。ちなみにノーアレ。
彗星の一部を持って帰って2人の約束の指輪にすれば良かったという藤十郎の発想がやけに好きなのですが、このシリーズならではの2人の絆が現れていますよね。
中々帰って来ない藤十郎を心配する伊魚も可愛かった。
当時は携帯なんかありませんから、何かあれば電報しか連絡手段が無いんですよね。
これが非常に良い!!携帯が無いからこそ、こんな切ないすれ違いが起こって美しい心情描写に繋がるのです。
この辺もこのシリーズの素敵な所。
毎回、番外編はご褒美として頂いておりますが、本作はボリュームもあって、その後の2人の幸せをこんなに知る事が出来て本当の意味で『彩雲の城』を読み終えた気持ちになりました。
これからも2人には布団を何回も洗いつつ、仲睦まじく暮らして行って欲しい。
2人で勝ち取った命なんだから、それはもう布団を年1回買い換える勢いで良い。
今から本編をお読みになる方には、是非とも番外編までをセットでお読み頂きたいです。戦場でハラハラした我々への本当にご褒美です。
1作品を覗いては…。
本作を読み終えて次に控えている『蒼穹のローレライ』の番外編『海鷲に告げよ』が読む前から切なくなってくる私…。
もうあの2人にはこんなその後の幸せは無いんだよな…三上…涙。