あらすじ
初小説にして芥川賞候補作となった『いなくなくならなくならないで』に続く、向坂くじらの小説第二弾! 幼い頃から納得できないことがあると「割れる」アンノは、愛に疑念を抱いていて――
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Posted by ブクログ
アンノと葉山の掛け合いは特に印象的だった。アンノの好奇心は世界を広く知りたいだけではなく、「自分が生きていける場所」や「生きていてもいいと思える世界」を探る動きに見えた。その時期、葉山の隣にいることがそれを保証していたのかもしれない。だから二人の会話は軽口でも戯れでもなく、生き延びるための確かめ合いのように響いた。
向坂くじらさんの文体は、物語全体に重さと陰影を与えている。その重さは不幸を演出するためではなく、痛みや執着の描写に倫理と敬意を保つためのものだと思う。どの登場人物にも血の巡りを感じたのは、向坂さんが彼らの歪みに最後まで寄り添っていたからだと思う。
アンノは踊りから離れていたのではなく、ただ踊らないまま生きていただけだと思う。身体は忘れない。筋肉も呼吸も、視界の端の光の取り込み方さえ、踊っていた頃の「瞬間」を記憶している。だからアンノは踊っていないように見えても、ずっと踊りと隣り合わせにいた。本人が気づかないまま踊っている場面すらあったのではないかと感じた。
タイトルについては、「自分に向けられている言葉」として受け取った。劇中でアンノは「踊って」と求められていたけれど、「生きて」ということかも、と解釈する。「愛より痛いほうへ」とは死を選べという意味ではないはずだ。むしろ、生きること自体が痛い。痛みを引き受けたまま生き続けることを肯定している。物語には決別も死別もあったが、その中でアンノは生きる側に残り続けている。
Posted by ブクログ
愛情がおぞましい、鬱陶しいと感じつつも、無意識にそれに縋ってしまっているように思えた。
抵抗していても、望んでいなくても、その愛情のもとに帰ってきてしまう。
抜け出すことができない。
アンノがテントで暮らしていることも、私にはそう見えた。
家を出ることにしたアンノは、両親に「わたしはもう、旅に出たんだと思ってください」と伝え、実家の庭にテントを設置して生活していた。
アンノ自身は親に頼らない生活をしているつもりかもしれない。
しかし実家の敷地内で暮らしていることは、アンノ自身が親から逃れられていない、自立できていないことを表しているようだった。
あーちゃん(元彼の祖母)とアンノの関係はとても興味深かった。
家族の愛情から切り離された(と思っている)二人は、友情を育んでいるように見えてそうではなく、ただこのときを一緒にやり過ごしているだけのような関係に見えた。
ともに過ごした時間は多かったかもしれないが、二人の間に愛情はなかったように思う。
アンノのバレエが忙しいしお金がないからと、アンノの母親は生まれるはずだった子どもを堕した。
その来るはずだった妹を、アンノがあーちゃんと弔う場面がとても好きだった。
遺影の代わりに自身の幼少期の写真を置いたアンノは、まるで昔の自分と決別しようとしているように見えた。
アンノの“頭が割れる”場面が、強く印象に残っている。
自分ではどうにもできないような感情が溢れ、激しく揺さぶられ、割れているから外のものが簡単に入ってきてしまう。
そのどうしようもない激情がよく表れていて好きだった。
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そのとき、足もとからふたりを見上げていたアンノの頭は、もともとそうなることが準備されていたみたいに、てっぺんからパカっと割れた。ひび割れからは脳がもりもりあふれだし、アンノは思った。ぜんぶ出ちゃう。そうしたらたいへんなことになる。だから、力のこもったお母さんの手を、それでも力いっぱいふりほどいて、あふれるままにしゃべった。
(P7)
Posted by ブクログ
芥川賞ノミネート作ということで、興味を持ち、読んでみた1冊。
納得できないことがあると「割れる」という表現が「どういう意味なんだろう?」と、気になって読み始めた。
母親、葉山くん、明宏、あーちゃん。
それぞれからアンノは愛されていたように思える。
しかし、主人公のアンノは生きづらさを感じていたように思える。
家族、恋愛、自分の生き方について考えさせられる作品です。
これは、結末が分かったあとに、もう1度読み直したいと思うお話しでした。
是非、オススメです!
Posted by ブクログ
愛すということは、それ以外を愛さないということ この考え方に対して、ある種誠実で純粋な主人公だった。アンノと居るときのあーちゃんと、家族と居るときのあーちゃんが違うのは、それはそうなんだけど、切なかった。
コンビニ人間の主人公と近いのかなと思ったが、アンノの考え方はそれとは別だった。一見人間らしさがないような、異常者のような印象を受けるが、それさえ俯瞰している。共感もありつつ新鮮な主人公だった。