あらすじ
「都市集中」は人類の必然なのか?
「このままでは歴史ある自然豊かな土地が打ち捨てられ、都市にしか住めない未来がやってくる……」
突如、著者を襲った直感は、専門を越えた仲間との7年にわたる膨大な検討を経て、壮大なビジョンと化した。
自然(森)、インフラ、エネルギー、ヘルスケア、教育、食と農……これらをゼロベースで問い直したときに見えてきた、オルタナティブな世界とは。
数十年では到底終わらない運動のはじまりを告げる圧巻の一冊。
『イシューからはじめよ』の著者が
人生をかけて挑む
解くべき課題〈イシュー〉。
▼目次
第Ⅰ部 風の谷とは何か
第1章 問題意識と構想
第2章 人類の2大課題
第3章 マインドセットとアプローチ
第Ⅱ部 解くべき4つの課題
第4章 エコノミクス
第5章 レジリエンス
第6章 求心力と三絶
第7章 文化・価値創造
第Ⅲ部 谷をつくる6つの領域
第8章 人間と自然を調和させる──森、流域、田園
第9章 空間構造の基盤:インフラ──道、水、ごみ
第10章 人間の活動を支えるエネルギー
第11章 ヘルスケア──肉体的・精神的・社会的健康
第12章 谷をつくる人をつくる
第13章 食と農──育てる、加工する、食べる
第Ⅳ部 実現に向けて
第14章 谷の空間をデザインする
第15章 風の谷という系を育む
※本書で語られる「風の谷」とは、自然豊かな疎な空間を、都市に頼らずとも人が住み続けられる“もう一つの未来”として再構築する構想の呼び名です。都市を否定するものではなく、都市と自然、両方を生かす空間デザインの試みとして提案されます。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
2段組み984ページの大著を読み切った。著者も7年半もの時間と、その長期間に渡り膨大な量と質の思考を投入して完成された作品を一冊の本として読むことができる幸せに感謝したい。それだけの大作だけに論点は多岐に渡り、その全てにおいて深い問いの投げかけを感じたが、結局のメッセージは極めてシンプルで「私たちは未来に何を残すのか」ということに収斂される。プロローグに書かれた2130年の風景は未来は自分の目で確認することはできない未来だが、その見ることのない未来に何を残すか。その時にこの本を読んだ私たちが残した「風の谷」に生きる人は何を考え、どのような風景を見ているのか。
錚々たる識者の叡智の結晶であるこの本を読んだ私たちの責任は重い。「未来に何を残すか」「残すに値する未来をつくる」これらのことを楽しく振り返りながら、誰かと、できることなら安宅さんご本人と語ってみたい。
Posted by ブクログ
残すに値する未来のために、最新の知見がまとめ上げられた一冊。少しずつ読んでいて、読むのに2ヶ月かかりました。
生活とは働く人によって支えられており、自分もまたその1人。未来は過去の価値観では作られず、新しい諸課題に対応する新しい価値観にアップデートしていかなければならない。それが「風の谷」をはじめとした谷をつくる言葉として言語化されており、体系化されている。
現在進行形の活動に自分のフィールドで寄与できることをやっていきたいと思いました。
Posted by ブクログ
子どもの教育など部分的な疎開をすることへの理想追求や、組織論の中での動的な意思決定プロセスの扱い方について思考を巡らせている中で出会えて良かった、重厚長大な一冊でした。
Posted by ブクログ
まずは著書の分厚さにびっくりする。読み始めると今までにない規模で生活空間を検討しており、さらにびっくりする。地球、人の共存。便利さ、商業、と自然の豊かさの共存などあらゆる観点で分析がされている。今までこんな本があっただろうか。
風の谷が実現すれば、都市部、山間部、農村部の良さがミックスされた新しい居住空間が生まれることだろう。
日本の新しい姿を想像することができ、ワクワクすることができた。まだまだ希望がある。このプロジェクトを応援したい。
この本を馬鹿にする人はよっぽどの天才かよっぽどの愚か者であろう。
新しい日本の形を想像したいという方はぜひご一読いただきたい。
Posted by ブクログ
この本は壮大な「絵に描いた餅」である。恐らくは現在生きている世代が目にすることのない理想像を様々な視点から言語化しており、持続可能な暮らしを「風の谷」というエリアから実現していく動きをまとめている。
幕末期にイギリス人が日本を訪れた際に、この国は急峻かつ多様な国土や気候のなかに戦闘力の高い民族が各地に分散しているので、植民地には向かないと判断したという。むしろある程度の工業化を経て経済力を上げさせて自国の物産を購入してもらおうと薩長を後押しして開国維新を実現させた歴史的経緯がある。
このイギリス人から見た日本の印象からすると、東京をはじめとした大都市圏に人口が集中し、大衆消費に影響された画一的な価値観の下で海外からの資源に依存して暮らす大多数の日本人の姿は奇異に映るだろう。この「過密」状態の現在に対して、「開疎」という概念を提唱して日本各地に風の谷と呼ばれる分散型の創造拠点を形成していく運動論をこの本では説明している。
日本の大多数の地方は“疎”であるが開かれてはいない。堅固な共同体意識によって外からの影響力を排除してきた歴史があり、この著者のような先進的な考え方を持つ都市住民は受け容れられない場面を私自身も数多く経験してきた。中央政府や大企業との接続から逃れ、自給自足かつ「絶景・絶快・絶生」が待つ風の谷に希望があるというのは、都市住民にこそ刺さる内容だと思う。
そして従来型の地方創生や自然回帰といった、主に政府主導の税収再分配を原資にした地域活性化の取組みの大半が上手くいかないのも、このようなビジョンが欠落しているところに、対症療法的に成功事例の横展開や都市化を望む住民の圧力といった陳腐化するプロセスを経ているためだろう。
イギリス人がどうして日本人を恐れたのか。たたら製鉄という砂鉄から錬成した日本刀のような工芸的にも優れた武器を創り上げ、それらが野鍛冶のような存在によって各村々に農具として普及し、集落が生産性を上げていくプロセスをそれぞれ持っていたからだろう。大半の日本人には、この百姓たちの創造的なDNAが埋め込まれている。風の谷を形成して地域としてのレジリエンスを高め、より良い景観を残しながら美味いものを食べて美しい生活を送ることは、子孫たちに対して残すべき未来なのだ。
Posted by ブクログ
全体を統合して一冊にしたことに価値を置いている本。個別項目を見て、その手の詳しい人なら少し物足りなく思う点もあるだろう。けれど、どれも蛸壺構造の中俯瞰した議論は思った以上になされていない。これを通じて各部分のブラッシュアップは日本人得意だと思うのでそれぞれ更新されていくと良くなりそうな予感がある。
何より国土交通省と農林水産省、環境省、厚労省、文科省、総務省、資源エネ庁など官僚やゼネコンらにはぜひ熟読してほしい中身。
インフラ(通信、教育、医療含む)の話がセットでないと、経済や利便性うんぬんたげでなく暮らせないのよ疎地域は。
Posted by ブクログ
『「風の谷」という希望 残すに値する未来をつくる』を、分厚さに少し構えつつも、気になるところを拾い読みしました。それでも、「風の谷」というコンセプトにはかなり惹かれました。都市か地方か、便利か不便か、という分け方ではなく、「自分が心地よく生きられる場所をどう選び、どう育てていくか」という視点で語られている本だと感じます。全部を精読したというよりは、自分の関心のあるところを行ったり来たりしながら読んだのですが、それでもところどころに「これはメモしておきたいな」と思うフレーズがたくさんありました。
僕自身、いまも自然の豊かな地方に住んでいます。まちの環境としては水道や電気が不便だと感じることはありません。ショッピングモールあるようなまちです。
まちから山がよく見え、四季の移ろいがはっきり分かる日々は、とても豊かな時間です。本の中で語られる「自然との共生」や「自分に合った場所で暮らす」という話を読んでいると、その日常の感覚がところどころで重なりました。
個人的に刺さったのは、森やトレイルの話と、「Joy of Life(JOL)」や「ピンピンコロリ」といったキーワードです。ただ長く生きるのではなく、自分らしく、楽しさや役割を持ちながら暮らし続けること。そのイメージを、まちや暮らしの設計と結びつけて考えようとしている点に共感しました。コミュニティについての視点も印象的で、「ひとりでがんばる」のではなく、ゆるくつながりながら場を育てていくイメージが描かれています。
移住に興味がある人や、すでに地方・自然の近くで暮らしている人、都市にいながら自然との距離感にもやっとしている人など、それぞれどこかに引っかかるフレーズが見つかる本だと思いました。
自分のこれからの暮らし方を、少し未来の視点から見直してみたくなる一冊です。