あらすじ
旧ジャニーズ事務所の性加害問題で批判を浴びた、元社長・藤島ジュリー景子とはどんな人物なのか? 彼女はいま何を思うのか? 国民的アイドル「嵐」との出会いと活動終了、叔父・ジャニー喜多川との関係、母・メリーとの確執、ファンとタレントたちへの思い、事務所廃業――。一人の小説家に、はじめて胸の内を明かした。
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Posted by ブクログ
インタビューは全てジュリーと早見との会話形式で綴られています。
一般的には地の文でインタビュアーの主観が入ります。「彼女の様子には緊張が見えた」とか、「沈んだ表情だった」とか「何かを思い出すように目線を上げた」とか。それが一切ない。なので、読み進める読者としては二人の会話、書かれている言葉こそが全てなんです。小説家・早見和真がなぜ藤島ジュリー景子のインタビューを担ったのか。それはこの、語られる言葉を記す力にあるのだと思いました。もちろん、引き受けた経緯は本書の中にじゅうぶん記されています。それとは別に、早見のインタビューには“率直さ“があると感じました。それは本書を読んで感じた、ジュリーの印象と合致します。
そして、早見には「ジュリーのインタビューで何かを成し遂げよう」という打算や野心はないだろうと思えました。少なくとも仕事上の利害関係者ではありますが、興味関心と好奇心ぐらいしか覗かせなかった点が、インタビューを読み進める上でノイズを減らしてくれています。
内容について触れるとすれば、ジュリーの感情が揺れる場面が二つあったと思います。実の母であるメリーが亡くなったときのこと、自身の退任を機にSMILE-UP.社長となった東山紀之について語るときのこと。それまで端的に質問に答え続けていたので、ここがとても印象的でした。
ジャニー喜多川の本当の人となりは何だったのか。メリーがジャニーの加害について知っていたのか。それはもう分かりませんが、被害者への補償を完了させ、すべての裁判が決着するのを見守っています。
また、これが呼び水となって語る人が現れたらとも思います。竹宮惠子と萩尾望都のように。
そして私自身のことを書けば、初稿を読み返したジュリーさんと同じように、娘さんの大学入学式まで見送ったという櫻井くんの話で少し泣けてしまいました。