あらすじ
何度も作り直せばいい。器を焼くことは、心に明かりを灯すようなもの。
テレビ局の放送作家の仕事を突然辞めるはめになった30歳のジョンミンは、何ヵ月も抜け殻のようになり家に引きこもっていた。
ある日久しぶりに外に出て、歩いているうち、彼女はカフェと間違えて陶芸工房の扉を開ける。突然現れたジョンミンに、工房の主ジョヒは珈琲をふるまう。コーヒーのおいしさのわけは器にある、自分で作ってみない? というジョヒの誘いを受け、ジョンミンは陶芸教室に通い始める。
土の匂い、手を動かしてものを作る喜び、人懐こい猫、年代も悩みもさまざまな仲間たち。自分に向き合い、人生を見つけていくということ……。工房を舞台に繰り広げられる癒しと希望の物語。
手を動かすこと食べること。それが、力をくれる。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
1年前の夏、テレビ局の放送作家のジョンミンは、ソウルから電車で約1時間ほどの所にあるパムカシ村と呼ばれる静かな町の第四団地にあるアパートに一目惚れして住み始めます。
そこは、高台にあってヨーロッパの家を思わせる建物で、アイボリーの外壁にオレンジ色のアーチ窓のバルコニーが付いています。
301号室に居を定め、自分が住む家を初めて好きだと思ったジョンミンでしたが、その秋、突然に仕事の契約を解除され、失意のために引きこもり生活に陥ってしまいます。
何かをしなければと思いながらも、夏を迎えてしまったジョンミンは、ある日、衝動的に外出します。
すぐに厳しい暑さにまいってしまい、コーヒーを飲もうとカフェっぽい店に入りますが、そこはカフェではなくソヨという名の陶芸工房でした。
これまでに飲んだことのない美味しいコーヒーを味わったジョンミンは、工房のオーナーらしき女性に豆の種類を尋ねますが、味の秘密は豆ではなくカップにあるという答えが返ってきました。
1,250度の窯で焼いた頑丈な焼き物の表面とコーヒーの成分が化学反応を起こして、味ではなく「風味」が変わると言うではありませんか。
オーナーらしき女性(実は陶芸の先生)の「自分でつくってみたら」という言葉から、ジョンミンは週2回、工房に通うことになりました。。。
さあ、陶芸はジョンミンに何をもたらすでしょうか?
「失敗しても何度も作り直せばいい。
器を焼くことは心に明かりを灯すようなもの。」
ジョンミン、そして陶芸工房に通う人たちが、それぞれの心の傷や葛藤、悩みを抱えながら、陶芸を通して気づかぬうちに慰め合い、支え合う。
この癒しと再生の物語に、きっとあなたも元気をもらえると思います♡
最近、陶芸に惹かれていたわたし(みのり)は、この物語との出会いで、より気持ちを強くしました。
作り直す=再生、ということを改めて肝に銘じます♡
仕事も生活も丁寧にしなやかにしていこう!
たくさん勉強して、良い仕事しよう!
暑いけど窯の前ほどじゃない!
きっとまだまだ出来ることがある!
ガンバロ!
陶芸、バンザイ♡
《目次》
夏より熱いもの
六十パーセントだけ
土が器になる瞬間
再会
遅い梅雨と猫
一日体験クラスの復活
中心を出す
コバルト油の青い花瓶
陶芸家の妻とフローリストの夫
悲しい伝説
方向
洞窟から出る方法
初雪
言いたいこと
クリスマスのフリーマーケット
よりによってパムカシ村
緑色の海
著者の言葉
訳者あとがき
Posted by ブクログ
表紙に惹かれて購入
人生につまづいた主人公が偶然辿り着いた陶芸工房で陶芸を学び、陶芸と工房の仲間たちを通して自分の中の引っ掛かりと向き合っていく小説。
私は20代前半だが、人が怖くて一歩踏み出す勇気が出ずにずっと1人で安全地帯でビクビクしているような人生を送っている。そんな私とこの小説の主人公はあまり似ていないと思うが、暗くて憂鬱な日々からゆっくり抜け出してる様子を見て勇気をもらえた。いつも勇気が出なくて何もしてこなかった大学生活だけど、この夏から一歩踏み出してみようという勇気を貰った。
今まで読書をしてこなかったせいで登場人物の心情などはいまいち理解できなかったので、また再読してみようと思う。
Posted by ブクログ
何度も作り直せばいい。器を焼くことは、心に明かりを灯すようなもの。手を動かすこと食べること。それが、力をくれる。
帯に書かれたこの言葉は、陶芸から出た言葉だとは思いますが、この作品を読んで、まさに人生を語っているように思えました。
今回翻訳された3作品のうち、2作品はテーマこそ理解できるものの、十分に理解できたと自信を持って言えるほどではなく、私にとっては難解な作品が続きました。しかし、この作品は庶民的で、すんなりと自分の中に入り込んできました。
主人公のジョンミンは一人っ子で(私と同じです)、少し癖のある父親と、そんな夫に遠慮している母親を持つため、「家族から愛されている」という肯定感を持てない子供時代を過ごします。そんなジョンミンがソヨ陶芸工房の主人ジョヒに「根が明るい」と初めて言われ、抜け殻のようになっていた心が前進できる気がして、陶芸と向き合うようになります。
実はジョンミンだけでなく、工房の生徒もそれぞれに悩みを抱えています。
ソヨ工房は、
「美しさ、悲しみ、少しの謎。
普通はあまり組み合わされないものが集まって作り出された空間」 本文p156
であり、彼らが自分たちの心を整理していく様子が素敵で、工房の良さでもあります。
舞台となっているパムカン村は実在する場所で、この作品の著者もその村で実際に陶芸を実践していたそうです。そのため、工房の描写や、器が作られる過程も丁寧に描かれており、そこも本作の魅力です。
今、私がとても気になっているのは、本作に登場する千鏡子の絵のコレクションに描かれた言葉です。
「私の全身の隅々には拒否できない宿命的な女性の恨みが隠れています。どれだけ足掻いても、私の悲しい伝説の話は消えません。」千鏡子、自画像「私の悲しい伝説の22ページ」(1977年)
現物の作品を見てみたいです。
「焼き物を焼くことは、心を焼くことと同じ……うまく説明できないですけど、いい言葉ですね」「説明できない言葉のほうが強く心に響くこともあるわね」
本文p194
このジョンミンとジョヒの会話が、この作品の全てを語っているように感じます。心温まる作品が好きです。