【感想・ネタバレ】なぜ若者は保守化するのか 反転する現実と願望のレビュー

あらすじ

仕事がない。結婚できない。将来に希望が描けない――若者をここまで追い込んでしまった社会に未来はあるのか。家族社会学を専門とする著者独自の視点から解決の処方箋を提言。
【主な内容】
序 論 若者の「失われた20年」/第I部 若者が危ない/第II部 先送りされる格差・少子化問題/終わりに 民主党政権は、追い詰められた若者を救えるか?

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Posted by ブクログ

ネタバレ

私は、『希望格差社会』の中で、アメリカの社会心理学者(ランドルフ・ネッセ)の「努力が報われたと思えば希望が生じ、努力しても無駄だと思えば絶望が生じる」という定義を応用して考察を行った。
為政者がなすべきことは、すべての人に希望がもてる環境、つまり、努力すれば報われると思える環境を整えることにある。努力しなくても報われるケースが増えれば、閉塞感が社会を覆い、人々はやる気をなくす。これは、いわゆる既得権と呼ばれるものである。また、努力しても報われないと思う人々が増えれば、絶望感が広がり、社会が荒廃する。それゆえ、努力すれば報われるという環境を整えるためには、①努力しなくても報われるというケース、つまり既得権を排除し、②努力しても報われない人々を救い出す必要がある。(p25-p26)

「絶望」という感情でさえ個体が生き残るために発達してきたという議論を行ったのが、ランドルフ・ネッセという社会心理学者である。(p50)

内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」の調査結果が示しているのは、若い女性の分裂である。女性の間で、二極化が生じ、仕事と家庭の両立を目指し男女平等を目指すグループと、仕事は男性に任せて個人生活を楽しみたいという女性が増えていると解釈できるのだ。
それはなぜだろうか。私は、日本社会では、男女共同参画の流れと新しい経済による「非正規化」の流れが、ほぼ同時に来てしまったからだと考えている。(p72)

日本の最低賃金が今に始まったことではない。10年前でも、いや20年前でも、先進国の中ではアメリカ並みに低く、生活保護額と大差ない水準であった。なぜ今さら問題にするのだと思っている人もいるかもしれない。
それは日本では最低賃金は、その額で生活する人が存在しないことを前提に決められていたからである。現在、問題になっているのは、最低賃金で生活する人が「構造的」に発生してきたからだ。(p76)

正社員は、仕事量や仕事の責任からくるストレスにさらされている。誰でも自分の雇用や収入が心配であれば、他人との協調性が疎かになる。成果主義が導入されると、自分の仕事を犠牲にしてまで他人の仕事を手伝おうとする人は徐々にいなくなる。結果的に仕事の責任を一人で背負う人が多くなり、押し潰される人が出てくるのだ。(p84)

成果主義の中で「他人との協調」を評価するシステムを作ることが有効である。単に個人成績ではなく、他人の仕事を手伝う、他人の失敗をカバーするといった努力を評価するシステムを意識的に作る必要があるだろう。終身雇用時代は、このような努力は長期的に評価されていたが、今は、非正社員にも「協調行為」にインセンティブをつける必要が出てきたのだ。(p85)

■「信頼関係」を壊すケータイ
私が懸念するのは、この事態が続くと人間の間での「信頼関係」が徐々に損なわれることである。正確に言えば、「信頼関係」を築きにくくなるのだ。
なぜなら、ケータイの普及により「守れないかもしれない約束」を気軽にするようになるからである。約束をしても、相手が本気で守ろうとしているのか、気が向いたら行くという程度で約束したのか、わからない。キャンセルされても、本当にやむをえない事情なのか、行くのが面倒になっただけなのか判断できない。
昔は、待ち合わせをするのには互いの信頼が前提にあった。約束の時間に行くことによって、信頼関係があることを確かめ合ったのだ。待ち合わせたら必ずその場に定時に行き、守れない約束はしない、守れなかったら罪の意識を感じるという形で互いの関係を縛り合ったのだ。(p98)

政府の役割は、国民の「希望」をつなぐことだと思っている。
政府の役目は既得権を削減し、努力をすれば報われる環境を整えることだと私は思っている。(p130-p131)

オランダでは、どんな立場の労働者であろうと安心して失業できる。それは、単に貧困を防ぐという意味だけではない。労働者の立場を強くするのに役立っている。悪い条件で無理に就職する必要がないからだ。目の前の生活に困れば、条件が悪くても企業の言うなりの雇用形態、賃金、労働時間で働くしかない。よい条件での再就職が難しいと知っているから、正社員は長時間労働やサービス残業も甘受している。日本の労働者は、仕事を選ぶ権利が実質ないのだ。
(中略)
つまり、すべての労働者の社会保障を強化することが、結果的に個々の労働者の経営者に対する交渉力を高め、不本意な仕事で長時間労働を強いられることを防いでいる。(p136-p137)

日本では、働かなくても食べられるだけの社会保障があれば、怠ける人が増えるという前提で制度が構築されている。失業給付や生活保護の受給に厳しい制限がついているのもそのせいである。政府は、国民をムチがないと働かない怠け者とみなしているのである。オランダのように、政府が国民を信頼していれば、失業者に手厚い生活保護をしても問題は起きないはずだ。先の例に見るように、失業給付で生活しながらボランティアで社会に貢献する人が出てきてもよいとオランダ政府は考えているのだ。(p138)

男性が育児休業を現実的に取得できるのは、夫婦とも正社員(公務員)として働き、夫の収入が3割になっても経済的にやっていける家庭に限られる。厚生労働省は庶民の経済事情をまったく考慮せずに、男性の育児休業率アップと言っているに違いない。(p143)

日本の育児休業制度は、夫婦とも正社員として働いていることを前提とした制度となっている。これでは、非正規化の進む現状に、まったく当てはまっていない。男性の育児休業率をアップさせるために、そして、育児休業の制度外で出産する女性をサポートするために、育児休業を雇用保険の枠組みから切り離し、ヨーロッパ型の普遍的な制度に作り替えることが必要となっている。(p144)

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2014年09月01日

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