あらすじ
《みなさんの感情や意見には一切口出ししません。手紙の書き方、つまり文章の書き方を教えるのがわたしの役割です》北フランスのリールで書店を営むエステルは、亡くなった父を偲んで手紙教室を開くことにした。参加者を募る新聞広告を出すと、5人から応募があった。孤独な老婦人、重度の産後うつに苦しむ夫婦、仕事にやりがいを見いだせないビジネスマン、そして進路に悩む青年。性別も年齢も異なる参加者とエステルは、手紙のやりとりを通して新しい言葉との出会いに飛び込んでゆく。言葉の力を賛美した小説。"Le Prix Du Roman Qui Fait Du Bien"(癒やしの小説賞)を受賞。
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Posted by ブクログ
個性豊かな登場人物たちが、産後うつや家族の死、動物愛護といった重いテーマを率直に綴っているにもかかわらず、物語全体には不思議な軽やかさが漂っている。読後にはむしろ爽やかささえ感じられ、複雑な感情が心地よく浄化されていくような稀有な読書体験だった。
Posted by ブクログ
こんなに心地の良い読書は久しぶりだった。秋に読む一冊としてお勧めしたいし、実写化したら絶対に鑑賞したい。
フランス北部の街リールで書店を営むエステルは、ふと思い立って「手紙の書き方教室」の講座を始める。(エステルは自分に正直な人だから、講座開設の動機も「ふと思い立った」ように思えた) 集まった参加者は男女6名で、当然ながら書き方を学ぶ理由も様々。参加者同士(エステル相手でも可)で文通し、各内容をエステルが添削する形式で講座は進められる。
やがて、参加者全員の心境に変化が見られ出して…
「封筒の中に収められたメッセージには、メールなんかよりもずっと重みがある。ゆっくりと時間をかけて、道筋を残す行為だ」(P 31)
数年前から祖母宛に、誕生日やクリスマスカード・手紙を送るようになった。
用紙をデコるのも楽しみの一つだったりするけど、手書きで文章を書くという行為の方がずっと自由自在でいられる気がする。電話だと、発言や声色など、何かと遠慮しちゃうからかな。
著者自身も10代の頃はしょっちゅう手紙を書かれていたのに、大人になってからは全く書かなくなった。私がそうだったように、彼女も久々に手紙の返事を書いて、書くことの喜びを再認識したという。
気になる登場人物らの「書き方」だが、今回少しだけ常識を覆された。
その常識というのが、「欧米人は結論から先に書く説」だ。もちろんビジネスマンのジャンみたく、(講座への参加動機など)早くに結論を書く人もいる。しかし大抵の参加者は、自分の身に起きた内容や感じたこと等をひたすら書き連ねていて、日本人の読者ですらもどかしく感じるほどだった。
よく知らない相手だからこそ、赤裸々に語れる。それは自由自在でいられる手紙でしか、実現できないことかもしれない。
それにみんな、遠慮なく質問を投げかけている。
相手から問われることで、当人の人生や悩みが深奥まで明らかになっていく…。そこまで踏み込めない日本人では、決して起こり得なかった流れではないだろうか。
感情の表し方も欧米ならではだった。
ジャンやエステル、特にニコラ(ミシュランを獲得したレストランのシェフ)なんかは、手紙の冒頭でいきなり「あんたって最低な人間だな」と物申しちゃっている。何だかんだで丸く収まったからいいけど、「自由自在とはいえ手紙内でケンカ!?」と、何度も(そう、何度も!)ヒヤヒヤさせられたよ…。
「欲しいものを手に入れるには、時には勇気を振り絞り、大胆にならなければならない。あなたはもうそれを知っている。光の中で、まっすぐ立っていてほしい」(P 262)
一番好きなのは、老婦人ジャンヌとティーンエイジャー サミュエルとのやり取りかな。兄を亡くし、両親と上手くいっていないサミュエルに対する彼女の眼差しに、私も安らぎを得ていた。だから最後の手紙は、彼女への感謝状にも見てとれた。
また、エステルが出した課題のひとつに「会話文を手紙に導入する」というものがある。ラストに程近いP 278、読者が最も聞きたいであろう人たちの会話文が記されているのも、個人的胸アツポイントだった。(あれは最も感動的な導入例と言える…!)
どことなくうら寂しい秋季には、本書とレターセット、そして切手のご準備を。
Posted by ブクログ
しばらく積読本になっていた。このタイミングでこの本を読めたことは今の私には大きな意味がある。とても心が温まり、浄化される本だった。それぞれ人生の苦難にいる人々が偶然に集まり、手紙教室で文通を始める。たった3ヶ月の文通だが、それぞれ大きく変わる3ヶ月となる。所々に日本が出てくるところも読んでいて、おっ、とサプライズ的な喜び。そして、最後には風の電話が出てくる。そうか、フランス人には死者が生者の生活に入り込む余地はなく、死者を感じることは怖いとの認識なんだ、と改めて死生観の違いを知る。最後は涙を堪えながら読んだ。ジュリエットとニコラの関係、サミュエルと家族、風の電話の件、そして最後までどうなることかヒヤヒヤしたジャンのこと。何気に1番心配なのがジャンヌ。怒れる未亡人で、始めは頼もしく思っていたけれど、徐々にその脆さというか弱さ、虚勢が垣間見えると心配になってきた。久々にいい小説を読んだなぁとしみじみと思わせてくれる本だった。
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感想。本屋を営むエステルは手紙教室を開こうと思い立つ。集まった5人の受講者にお互いに手紙を書いてやり取りしてもらい、自分はその手紙の書き方について指導する(内容についてはノーコメントで。あくまでも書き方について)。ある受講者に手紙の相手に選ばれ、結局6人のメンバーが手紙をやり取りする。
見知らぬ他人だったからこそ、手紙だったからこそ語れる痛み苦しみ。家族の喪失、孤独、鬱、パートナーとの確執、そうした一人一人が抱える問題に手紙の相手も敬意を持って返事を書き、自らも辛さを告白する。そんな3ヶ月の手紙のやりとりを終了後エステルが本にした、というのがこの本。
リアルな事を言えば全員が全員こんな風に心をオープンに誰かに話すような教室になるのはなかなかに難しいだろうとは思う。どれ程頑張っても曝け出すなんてと頑なになる人や、やり取りの途中で相手の荒ばかり見えてくることとかあるだろうから。だけど、手紙のやりとりで一人一人が癒されていく過程がじっくりと染み入るようで、そしてそれを手紙の相手もわかっていてまたそれに返事を返すそのやり取りが見ているこちらも暖かな気持ちになる。
書くという事はとても良い。日記なら自分に、手紙なら相手に、SNSなら不特定多数に、それでも書き記す時人は必ず自分と向かい合う。伝えたい人が→ 確定してる場合も確定していない場合も、一番最初の読み手は今そこに文字を記した自分自身で書いた瞬間に人は変容するし、手紙であればそれを読む相手を想像し、届く返事を想像し、そしてその返事によってまた変容する。コミュニケーションの形は多様だとは言えやはり手紙の持つ力は何千年も変わらない。
そして文中に出てきた、「読み返した」という話。物語の中には6人が過去にやり取りした手紙の話が出てくるシーンがあるのだけれど、「読み返す」事が容易なのも手紙の素晴らしさ。しかも紙は経年劣化する。同じ文章でも同じものではなくなるその味わい。
素晴らしい小説を読みました。
Posted by ブクログ
年齢も性別も立場も考え方すら違う6人が「手紙」を通して心を通わせながら次第に相手を思いやり、親密になっていく様子が読んでいて少しずつ分かってくるのが楽しい。
みんなが心にどこか喪失を抱えていて、初めは「こんなこと続けていて何か意味があるのか」と思っていても、前に進みたい気持ちが同じで、それを応援したくなる。
翻訳がとても軽快で読み易い。
日本が登場するシーンもあって、嬉しい演出も良かったです。
Posted by ブクログ
これはノンフィクションに近い小説、ってことで良いのだろうか?
エステルの募集した手紙教室には、年代も性格も違う人たちが集まった。
見知らぬ人と手紙をやり取りするので、どうしても自分の状況を説明してしまう。正直な気持ちを告白する。当然、それぞれ抱えているものが違う。
誰かに、どこかに、「自分と同じだ。」と共感する立場やセリフを見つけるだろう。
大槌町 風の電話 で終わるのが嬉しい。
「あなたの父親は子どもじゃないのよ。言いたいことがあれば、息子の口を借りなくても自分で言えます。余計な口出しをしないで。」
「そんなにカリカリしてどうしたのよ!ジャン、あなた、何かあったの?お願いだから、親に対してもう少し敬意ある話し方をしてちょうだい。」
全く同じ台詞を頻繁に聞く(-.-;)y-~
Posted by ブクログ
フランスの書店員が選ぶ「癒しの小説賞」を受賞した本。
癒しの小説とは、どんな内容なのだろう?と気になって購入。
産後うつに悩む女性、若くして兄が癌で亡くなり親とギクシャクしてる青年など、悩みを抱える人達が手紙教室に参加している。
参加者同士で文通を始め、悩みや葛藤を手紙で綴っていく。手紙だからこそ素直に話せた内容、身近な人ではないからこそ寄り添えた気持ちなど、全体を通して、思いやりや優しさを感じる事のできるストーリーでした。
ふんわり温かい気持ちになれるのは、まさに癒しの小説。