あらすじ
「わたし、殺しました、生みたての赤ちゃんを」──震災から7年の地で、身元不明の幼子をめぐり、4人の女たちの運命が、いま、動き出す。各紙誌絶賛! デビュー18年、著者最高傑作。
「これほどの強度の小説は滅多にないし、ここには真の意味での熊がいる。」──古川日出男
「いつかこんな夢の中に自分もいたような気がする。止まらない余震のような小説。」──斎藤真理子
生きるためにもがく者、
死ぬための場所を探す者──
暴力から逃れた女を匿う山奥の家に暮らす、リツとアイ。
津波ですべてを失ったサキと、災後の移住者であるヒロ。
震災から7年の地で、身元不明の幼子をめぐり、4人の女たちの運命が、いま、動き出す。
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
どんな感想を抱けばいいのか、悩む小説だった。
虐げられた女性のための家に住むリツとアイ、
キッチンカフェで出会った(程度の関係しかなかった)サキとヒロ。
2組の女性どうしの暮らしの中に、それぞれ現れた赤ちゃん。
アイが夜の公衆トイレで発見した赤ちゃんは、リツとアイ、家主である「先生」に囲まれて育っていく。
ヒロに助けを求めたサキが腕に抱いていたのは赤ちゃん…と同じくらいの大きさのバスタオルの包み…。
命を繋いだ男の赤ちゃんは「ユキ」と名づけられるが、男性を恐れるリツのもと、女の子の服を着せられて中性的に育てられる。
ある日その子は、住み慣れた家を逃げ出して保護される。
女たちは、拾って育てた子を「自分達が育てている子です」と言い出すことができず、その動向を見守るしかなく…
多くの登場人物が性被害をトラウマとして持っている。特に、若い頃に性被害を受けてから男性を病的に憎むリツ。男性性を抑えられて女の子のように育てられつつ、性被害を受けた男の子ユキ。
直接は語られないが、自宅の離れで一人で出産し、その赤ちゃんを殺すしか、ほかに頼るところがなかったサキ。
しかし、被害者が被害者だけで収まらないというか。リツなどは明確に、他の同居女性をいびって追い出すようなところがあったりする。
それぞれの登場人物が、多面的な顔を持っているな、と。一概に「かわいそう」「悪いやつ」など、誰も言い切れない。
ユキは、自分が受けていた性的な接触に気づいていたんだろうか。
それに復讐しようと、再訪したんではないんだろうか。
それとも、やはり気づいていなかったのだろうか。
ドアのノックの音に聞こえたのは、熊だったのだろうか。
宙ぶらりんで終わった。
Posted by ブクログ
読書家のお友達におすすめされて読んでみました。フェミニズム小説なのかと思ったら、「男も女も女が嫌い」、、、のお話でした。作中に挟まれるカントリーライフはとてもリアルで魅力的でもあるし、怖い。狩猟をして獲物をさばく描写は強烈でした。女として生きること、自分より弱い生き物を育むということ、出産にまつわるあれこれ、、、ドロッとした読書体験でした。
Posted by ブクログ
過去に性被害にあったリツ、リツと暮らすアイ、アイが拾ってきたユキがメインで描かれている。
男性嫌いのリツに気を使いながらも、たまたま一晩泊めた男性に対し「男女」を意識するアイ。
過去の経験から潔癖なまでに男を嫌いながらも、幼いユキを「男」として意識し、その身体的接触の中で自分にも女性としての本能を感じてしまったリツ。
アイにもリツにも官能的な描写があるが、それぞれ何かに後ろめたさを感じているようで、なんだか歪んでいる感じがした。
特にリツは、自分が過去に受けた性被害を、今度は自分が加害者としてユキにやってしまっているという側面もあるからなぁ。
山での暮らしが慎ましやかでありながら豊かで、一方それと対比してアイやリツの「性」への渇望やユキへの歪んだ愛情が生々しく感じられ、すごく重いパンチを一撃くらわされるような小説だった。
Posted by ブクログ
山奥にあり、行き場のない女性たちを匿うためのシェルター「丘の家」。
そこで共同生活をしている先生と、古株で気難しいリツと、アイの三人は、捨てられていた赤子を下界から拾ってきて、ユキと名づけ隠れて育てるようになる。
リツとアイ、産みの親であるサキ、サキに協力したヒロも含め、合計四人の視点をわたり歩くかたちで話は進んでいく。
彼女たちはそれぞれに張り詰めた日々を生きていて、つねにどこか危うさ漂う空気で満ちている。
ユキは男児で、すこやかかつどこまでも無垢でありながら、彼女たちにとっては闖入者でもある。
静かで穏やかだった時間がかきみだされていく様子は、微笑ましくあると同時に不穏でもあった。
ジェンダーレスに育てられるユキであったが、やがて熊に興味をもつようになり、ついにはシェルターから脱走してしまう。
熊は、決して童話の中にいるような愛らしいだけの存在ではない。実はすぐ近くに潜んでいて、油断した私たちを引き摺りだして脅かす。
〈ひとりで勝手に坂を降りたら駄目、森へ入るのも駄目、とこの家のだれよりも厳しく、折に触れ言い聞かせてきた。丘の周りは、森はもちろん、だれも住まなくなった家の陰にも大きくて悪い熊たちがいる。ひとりでいるのを見つかったら、ぜったいに捕まえて骨ごとばりばりと噛み砕き食べてしまうよ。とっても、痛い痛い、だよ〉
それでも好奇心を抱いてしまうのは、やはり愚かだろうか?