あらすじ
通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元妻から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが……。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。 (講談社文庫)
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Posted by ブクログ
今回も考えさせられる内容だった。もう少し登場人物の背景描写が欲しくなるぐらい、深く読みたくなる本。
自分にとって大事な人が殺されて、『加害者が心神喪失により責任能力なし』と言われたら、誰にこの怒り悲しみ絶望を当てればよいのか、何をしても大事な人は戻ってこないのに...と思ってしまうだろう。もしそんなことが起きたらと考えるだけで胸が詰まるし、精神病に罹った人とかかっていない人、見分けられるか確認したくなるだろう。でもこの展開には驚いた。
統合失調症も、鬱も誰だってなりうる病であり、望んでなる訳ではない。しかし、心神喪失であるからと『自分じゃなくなるか』は難しいところではないだろうか。だからと言って罪を償わないのは、罪を犯した者も宙ぶらりんでツラくないだろうか。だから悲劇はまた起きようとしたのではないかと思った。
ユキのパートは、精神疾患をもつ者や知的能力症をもつ者への理解のなさが招いた二次障害について問題提起していると感じた。
解離性遁走は、虐待や酷い虐めなどを受けた人が現実を忘れないと生きていけないから自身を切り離すことで症状となって現れる。守りたかった者を殺して自分も死のうとするツラさは計り知れない。
こういった方々を救うために、罪を犯させないために何ができるか、司法は被害者遺族をどのように助けるかを考えさせられた。
Posted by ブクログ
どの視点が患者のものなのか推測しながら進めるのが面白かった。オチも推察できなかったので楽しめた。事件が辛いのが嫌だけど、それがないとこの話し自体がなりたたないので、しょうがない。
Posted by ブクログ
人は自分の目に映るものだけを信じ、真実だと思い込む。
それに飲み込まれるもの、利用するもの、惑わされるもの。
それぞれの視点から心神喪失、刑法39条について描いていて、全く飽きることなく最後まで読めた。
私だって、自分の目にうつっているのなら、皆がそれを幻だと言おうと信じないだろう。
またこの物語を読んで、例え親しい人の話が到底理解できなかったとしても、頭ごなしには否定すると更に追い詰めてしまうと感じた。
佐和子について、あまりにも心神喪失の描写が生々しかったので、最後の手紙で彼女の心情を知った時、驚きとともに少し安心してしまった。
ゆきについて、私には彼女の苦しみを推し量る事はできない。それほど、彼女の過去は重くて傷は深い。彼女の弟への愛情を痛いほど知っているから、彼女が真実と向き合った時に命を絶ってしまわないか。治療の通過点として避けられないことだとしても、このまま知らずに生きて欲しい。
私も、三上や坂本のように痛みを抱える人から目を背けてしまったことがある。
自分に降りかかる災いにしか終始目を向けていなかった坂本は確かに読者の目線だと非常に自分勝手に映るが、とても現実的だし、口には出さないが誰もが思ってしまうことを代弁しているようなキャラだと思う。
三上のように身を削るのはそれも共倒れの危険がある気もするが、「先生」のように話を善悪の判断をせずに聞き、必要な時に手を差し伸べる、そんな人間のあたたかさを、忘れずに持っていようと思う。
Posted by ブクログ
2025.07.17
うーん。
登場人物がみなさんご病気で現実とは異なる世界に生きているということでよいでしょうか。
このシナリオによるどんでん返しはちょっと掟破りのように思えてならない。
Posted by ブクログ
佐和子が約4年も精神障害者と思われるように行動していたことに驚いた。
単純に事件解決して終わりっていう作品なのかと思って手に取ったけれど、物語を通して読んだ人に刑法39条について考えさせる本だった。被害者や加害者、その周囲の人の苦悩がよく書かれていて、現実にあった話を本にしたのではないかと思った。
今も刑法39条が絡む事件を目にするので多くの人に読んでもらいたい作品だと思った。