あらすじ
江戸幕府を倒し、新しい「日本」の形を模索した明治維新。水面下では、言葉をめぐって「もう一つの闘い」が繰り広げられていた。迫りくる西洋列強と外国語で交渉できなければ植民地にされかねない。まともな教科書も辞書もない時代、サムライたちは必死に西洋語を学び、欧米に密航留学した。漢学、蘭学に加え、英語、独語、仏語が乱立する中、なぜ英語が新しい国家を創る原動力となりえたのか? 英語教育史の第一人者が、これまで語られてこなかった視点から幕末・明治に光を当てる。
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Posted by ブクログ
幕末から明治維新、近代国家日本を作っていく歴史を外国語の習得という観点で再考する。
ちょうど自分の興味関心と完全に合致してることもあって、めちゃくちゃ面白かった。
「明治維新」 教科書の上では、黒船来航を契機に鎖国体制が解かれ明治政府が樹立、文明開化によって外国語が盛んに取り入れられました、というようなストーリーで語られるイメージがあるけど、この時代の変遷をつぶさに見ていくと、ペリー来航以前から外国船は日本に来ており、幕府諸藩も欧米文化を取り入れようと外国語を学んでいたことが分かる。当時のエリートたちはみんな英語を学んでいた。体系化された辞書や文法書の類いも無いなかで、列強に対抗する知識を得るツールとして外国語を苦心して学ぶエピソードが豊富で面白い。密航というかたちで留学をしてまで英語を勉強していたとは、本当に頭が下がる。
この時代に急速に欧米語が取り入れられたことにより、良くも悪くも、日本語としての話し言葉・書き言葉や物の考え方そのものにも影響が及んでいく。そしてそれは現代を生きる我々にも地続きの問題となり得る。歴史のスケールの大きさ、奥深さを感じる。
Posted by ブクログ
英語教育史の第一人者である江利川春雄氏の、『英語と日本人』に続くちくま新書第二弾。前作が、「日本における英語受容とその教育の歴史」を鳥瞰する、いかにも入門書といった様相の著作だったが、今回は「幕末と明治時代」に時代を絞って――蘭語と仏語と独語にも目を配りつつ――英語が明治維新に与えた影響について考察・解説している。
巷間では「90年代以降グローバル化の波が〜〜」といった言説が多く見受けられるが、そもそも幕末いや大航海時代以降から、既に「グローバル化」は始まっていたわけで、ずっと鎖国体制だった江戸日本は、その世界的な趨勢とは無縁で牧歌的な無風帯に居た。ところが、作者が喝破しているように、その幕末の日本の眠りを覚ます相次ぐ外国船の襲来と、欧米列強による商魂たくましい経済的覇権が、幕末と明治の日本に否応なくglobalizationへの参入・対応を迫ってきたのだ。
そこから話は、当時の歴史的偉人(福沢諭吉・伊藤博文・大隈重信・森有礼ら)が、こうした「英語(もしくは、それが代表する英語圏ひいては近代西洋)」とどのように格闘してきたのかに及ぶ。本書の肝である、この「新しい波に対峙する彼らの苦悩と苦闘」をつぶさに見るにつけ、偉大な先人たちの並々ならぬ努力と取り組みに感謝の念が湧くと同時に、ちょくちょく作者が当時の愚策にツッコミを入れるのに笑いを禁じ得ない(そのユーモラスな突っ込みは大抵、あえて短い文で表現されており、緩急の付け方が絶妙)。
個人的には、江利川氏の単行本『受験英語と日本人』の方が興味深かったし、英独仏蘭以外の言語(ロシア語・ポルトガル語・イタリア語)の受容に関しても軽くで良いので知りたかった(むしろ、何故あえて英語に絞らず、仏語と独語にも触れたのだろう?確かに近代日本は、英独仏のトロイカ体制(by鈴木孝夫)だったとはいえ…)ので、星4つとさせて頂きます。