あらすじ
時は1993年。若き政治学者・木村幹(27歳)は、愛媛大学法文学部に助手として採用された。「雇用の安定した国立大学に就職し、研究に集中したい」という夢が早々に叶い、これで韓国の政治文化研究に打ち込めると思いきや、国立大学の置かれた状況は刻一刻と悪化していく。神戸大学に移るも、2004年の独立行政法人化により研究費も人員も削減され、予算獲得のための仕事が日々の研究を圧迫する。昇進しても、小さいパイの取り合いで疲弊するばかりだ。還暦間近のとある部局長が見つめた、おかしくも哀しい国立大学の30年。
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Posted by ブクログ
「国立大学教授って〇〇でしょう」
とよくいう人がいるが、それはどこから得た情報なのか、という問いに対する答えの本。
どの仕事もやってみないと、なってみないとわからない部分は大いにあると改めて思わされた。
一言で言うと、大学教授は非常に多忙。
教授の本来の仕事である研究まで手が回らないのでは、と思われるほど(実際手が回っていないのかも)
業務量が多すぎ。
これは今、話題になっている教員の多忙化とも通じるところがあると思った。
2004年の独立行政法人化により、
人件費・研究費の予算が削減され、
大学組織としての仕事(〇〇委員会とかが多すぎる!)
さらに学歴と授業の厳格化が求められて
とにかく読んでいて
「忙しすぎる」
と思う場面が多々あり。
・大学教授は労働裁量制
9時から5時まで大学にいなくてはいけない、
と言うわけではないが、
そのフレキシブルさが良くも悪くも。
子育て・介護などでは時間の融通がきくというメリットはあるが、
転勤によりキャリアが積み上げにくい、
特に女性は働きづらい
・とにかくやることが多忙
自分の研究を後回しに
授業準備
(人件費削減で、アシスタントもつかなくなってしまった。そのため教授の仕事が増える。セッティングなどもする)
高校生へのキャンパス説明会
(学生獲得のために)
日本語と英語で授業するために両方の準備準備
留学生対応
学会の仕事
教授会、大学運営のための人選
・著者はお人柄がとても良い方な印象がある
特に自分のできることを考えると、若い人を育てることも大切と考えているのが印象的
そのため、研究会などで人脈をつくったり、申請書を書いたりと、とにかく「そんなことまで…」と思うことも。
・個人的には、最後に書かれていたDXについて明るい見解をもっていたのが印象的だった。
生成AIも含めて、新たに登場したツールをうまく使えば良い、論文なども電子的に瞬時に検索できるなど好印象を抱いているのが心に残った
Posted by ブクログ
本書は、主に国立大学での大学教員の仕事・業務を詳らかに紹介する一冊。この本の著者経歴によると、作者は現在、神戸大学大学院国際協力研究科という部局で、比較政治学・朝鮮半島地域研究を専門的に探究されている教授とのこと。本書で紹介されている、より詳細なアカデミックキャリアとしては、京都大学の大学院博士課程で学んだ後、すぐに愛媛大学で助手→専任講師のポストを得て、その後に神戸大に助教授(今だと准教授)として迎えられ、順調に今の地位に就いたという経歴の持ち主。
この「大学教員の仕事/大学の裏側」を明かす趣旨の本は、意外と数が少ない。というのも、そもそも世間の人が一番興味を持つであろう「大学入試」の裏側に関しては、教員たちには「守秘義務」があり、就職の業務契約の際に、誓約書まで書かされるらしいので、これについては寡黙になるのは当然なのだ。さらに、「教員の仕事内容を明かす」ことに対しても、同僚や同業者からの抵抗や妬みが怖いのか、意外と教職員の皆さんは躊躇する傾向にある。そんな中にあって、ここまで仔細に仕事内容を語り、それに関する所感を腹蔵なく記述している本は珍しいかも。
本書を読んで印象的だったのは次の二点。1つ目は、作者自身も何度も認めているように、90年代前半以前の大学の世界は、非常に平和で牧歌的だったということ(その証拠に、作者自身の上記の経歴でも分かるように、かつては博士号を取得せずとも、博士課程3年を終えればすぐに職にありつけられる人が多かった)。それ以後の大学は、予算がひどく切り詰められた結果、教員個人の研究費・経費がキツくなっただけでなく、学科や研究科の組織全体にとっても予算が少なくなったために、その科(部局)が雇うことの出来る教員数も少なくなってしまった。構造的な玉突き事故である。このくだりを読んで、そもそも教員を雇うための人件費が、大学全体ではなく、各部局の予算(運営交付金)によって賄われているという事実に驚いた。そのため、主たる外部予算である「科研費」も、今や「期限付き(「3年分」等)」が主流になりつつあるために、結果として、若手教員の雇用も「任期付きポスト」になってしまっているという事実も非常に恐ろしかった(筆者の言葉の端々から、そんな苦境にあるポスドク・オーバードク達に対する申し訳無さのようなニュアンスが時折感じられた)。
2点目は、数少ない類書の中でも、本書は比較的、「大学組織のあり方」と「教員たちの大学内外での営業」について、かなり多くのページを割いている点。教員らの大学内での「委員会」や「役職」等について、ここまで詳しく論じられているのは珍しいし――「教授」・「准教授」・「専任講師」等の職階の区別についての説明はよく見かける――、また「科研費の応募」や「教え子の世話」、「出張授業」を含めた大学内外での「営業活動」に関しても、その委曲をここまで解説している本は珍しいかもしれない(どうしても「営業」の話になると、「金銭」がつきまとうので、筆者は何度も「またお金の話になって申し訳ないが…」と断りを入れており、その箇所に思わずクスッとしてしまった)。
本書を通読すると、作者の「研究や教育への献身ぶり」、「大学業務への真摯さ」そして「職員や学生への親切さ」が――所々にユーモアを交えながらも――垣間見えて、この本が単なる「象牙の塔の内奥を開陳する暴露本」といった感じにはなっておらず、むしろ「今の大学を取り巻く厳しい環境に対する警鐘」のように映じる。すごく責任感のある優しい先生だとお見受けした(笑)ので(加えて、大学の苦境が少しでも改善されることを祈って)、星5つ満点。
Posted by ブクログ
東大京大などの国内トップ校でもなく、私立大学でもない筆者の教授としての仕事の全容が明かされる。研究に時間が避けない話などはほかでもよく見るが、教育者としての側面は当然として、公私における営業の部分など、個人事業主とも一会社員とも違う生業としてのあり方だが、恨みつらみの多い内部者の大学論に比べるとポジティブな感はある。
Posted by ブクログ
自分自身、2年前まで地方国立大学で教員をしていたので、本書で書かれていることは痛いほど理解できる。ただ、著者が勤務している大学は国立大の中でも大規模であり、予算規模も大きいはずなのだが、それでもこのような状況であることには驚いた。自分の前任校もそうだったが、より小規模な地方国立大はもっと苦しい。
自分が地方国立から関東の私大へ移籍したのと同じタイミングで、関東のとある有力国立大の一部局の教員が一気に複数名、私大へ転出したことを耳にした。その分野では国内でも最高レベルの大学の1つであるため、ちょっと耳を疑ったが、本書を読むとそれも納得がいく。
Posted by ブクログ
私はこの著者のような部局の長などではなく、組織の端っこの一員でしばらく過ごしていたのだけど、そんな私ですら書かれている中身はとても分かりやすく実感を伴って読むことができた。他業種の方々に読んでもらって(国立だけでなく)大学教員の仕事ってこんなのなのね、と知ってもらうことができるよい読み物だったと思うけど、本当に読んで欲しいのは本省・国の人たちなんだけどなぁ…(分かってるって、分かった上で絞ってんのよ、と言われそうだけど)。「やりがい」のところは改めてこの仕事の大切さ、楽しさを分からせてもらった感じがある。