あらすじ
読書猿絶賛!『ファスト&スロー』『利己的な遺伝子』の原点となる、認知心理学の伝説の名著が復刊! 私たち人間は本当に、遺伝子の乗り物=生存機械(サバイバルマシン)に過ぎないのか?『AIの時代にこそ読みたい一冊。
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Posted by ブクログ
なんとも啓発された。分厚く、学術用語が多用されるが、訳注が本文見開き内にまとめられており、親切設計。ちゃんと読めば理解できるつくりで、ありがたい。
人間の心が、遺伝子由来の自律的な反応である、システム1 (TASS:The Autonomous Set of Systems、自律的システム群)と、理性的で分析的なシステム2という2つのタイプの認知に分けられるという、「二重プロセス理論」は、『ファスト&スロー』などの行動経済学や進化心理学の本で知ってはいた。
この本で新鮮だったのは、そのシステム1には遺伝子だけでなく、ミームも関係するということ。ある種のミームもまた、そのミーム自身が複製され、生き延びることを最優先し、乗り物である人間の利益を無視することがある。それ故、個人が自分の利益を損なうことにも気づかず、ミームの利益にかなう行動をとることがある(例:喫煙、カルト宗教)。
著者は人間らしさの条件として「メタ合理性」の必要性を主張する。遺伝子やミーム由来の狭い合理性を、価値観や倫理的選好を考慮した別の合理性で批判検証する必要がある。それができて初めて、「人間(個人)の自律」が可能になる。
言い換えると、狭い合理性は手段に関わる。ある目的を達成するために無駄を省き効率的に機能するシステム。実のところそれは機械やアナバチなどの昆虫にもできる。というか人間よりもよほど合理的といえる。
広い合理性は、目的に関わる。今ここだけではなく、未来の自分や、周囲の人々、直接関わらない社会の構成員や自然環境、そういったものの利益を考慮した「合理的」な目的こそ、人間が考えるべきこと。
本書には言及がないが、AIとの付き合い方に思いが至る。AIがどれだけ賢く、早く効率的に答えを出せても、目標設定が邪悪ならどうか?より早く、より広範囲に人を騙し、社会に害を与えることができる。例えばつい最近、chatGPTに相談していた若者が自殺したというニュースを聞いた。
AI時代に人が目指すべきは、より高い知能ではなく、適切な合理的思考能力ではないか?
「第8章 謎なき魂」では、認知心理学の成果を踏まえて、哲学の領域に踏み込んでいく。心の神秘が全て明かされたとしても、人間がほかの動物とは異なる価値や尊厳を持てるとしたら、「人間にのみ独自の方法-すなわち、合理的な自己決定-により、自らの生をコントロールする力」こそがそれを可能にするのだろう。