あらすじ
吉田久、命がけで東條英機と闘った裁判官――。政府に非協力的な国会議員を排除する意図があったとされる「翼賛選挙」では、聖戦遂行の美名の下、国民の投票の自由を実質的に奪う露骨な選挙妨害が行われた。他の選挙無効の訴えが退けられる中、吉田は特高の監視や政府からの圧力に負けず、戦時中に唯一の「選挙無効」判決を下す。これまでほとんど知られることのなかった気骨ある判決と孤高の裁判官の生涯を追う。
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Posted by ブクログ
とてもたくさんのことを考えさせられる作品だった。例えば、翼賛選挙に協力した人たちが口にした「戦争に勝つために挙国一致体制を推進することの何がいけないのか」という言葉が印象的だった。戦時中には戦争に勝つという絶対的な目的がある中で、強引で非人道的な手段がとられることも多々ある。そして、そういった行為は「お国のために」という言葉で正当化され、美化される。しかし、当事者の人々、特に一般の国民はそれが良いことであると信じて行っており、一方的に悪いことだと決めつけることもできないため、私の中で考えがまとまらずにいた。そんな中で終盤に吉田久が述べた「世が混乱している時にこそ毅然と法律を示すのが法律家の仕事」という言葉がとても腑に落ちた。世の中の状況がどうであれ、そして判決後の再選挙で結果が変わらなかったとしても、事案を法律に照らして正しく判断するという姿勢を示していくことが大切で、そうしてこそ国民一人一人が少しでも安心して、希望をもって生きられると感じた。