あらすじ
12歳の少年テッドは、姉のカットといとこのサリムとともに、巨大な観覧車ロンドン・アイに乗りに出かけた。チケット売り場の長い行列に並んでいたところ、見知らぬ男がチケットを1枚だけくれたので、サリムだけがたくさんの乗客に交じって、観覧車のカプセルに乗りこんだ。だが一周して降りてきたカプセルにサリムの姿はなかった。閉ざされた場所からなぜ、どうやって消えてしまったのか?──「ほかの人とはちがう」頭脳で大人顔負けの推理を駆使する少年テッドが謎解きに挑む! カーネギー賞受賞作家が贈る、清々しく胸を打つ長編ミステリ。/解説=千街晶之
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Posted by ブクログ
■普通に面白い
ヤングアダルト向けの作品を得意とし、賞を取りまくっている作者による唯一の本格ミステリ、とのことだが、普通に面白い。
文章は読みやすく、登場人物も少なく覚えやすく、キャラクターも立っており、状況もプロットも超シンプル。それでいてしっかりヒントや伏線がちりばめられ、無駄な描写もなく、1日で読めてしまう。
こういう作品は普通に好み。
■古典
現代作品であるにも関わらず、そのトリックは古典そのもの。「変装(して出てきた)」というのは、もはや古典のパターンであり、現代作品でもそれが踏襲されているのを見ると嬉しくなる。
「超シンプルなプロット=観覧車に乗って消えた」というのは本作を読む前から情報として知っているため、何か全く思いつかないような解法なのか!?という事前の楽しみがあったが、そうでなかったのは残念でもあり、かといって古典の踏襲だから嬉しくもある。
調査や証言によって、ちゃんと「2周以上したわけではない」「座席の下などに隠れていたわけではない」「実は最初から乗っていなかった、というのでもない」ということが示される。
Posted by ブクログ
「ロンドン・アイの謎」を読み終えた。短時間でさっと読めて、満足感も高い良書だった。
作者は本書の刊行後に亡くなっているため、ほかの作品を読むことが難しいのが残念だが、本書の物語を別の作家が書き継いだものがあるらしいので、そちらも読んでみたい。
本書の最大の魅力はキャラクターにある。
登場人物をむやみに増やさずに絞り、それぞれに異なる個性を与えている。
とりわけ自閉症スペクトラムを抱える主人公の特性を、ラベルとして示すだけでなく思考様式まで描写しており、その点が見事だ。
この描写がどれほど現実的かは分からないが、物語を読み進めるうえで十分な説得力があった。
ミステリーとしての構成も丁寧で、謎解きの過程は読者を引き込む。
トリック自体はそれほど目を見張るものではなかったという印象だが、主人公たちが一歩ずつ手がかりを追っていく筋立てが面白い。
また、登場人物を別の視点から捉えたときに見える人間性も興味深い。世間から奇異の目で見られている人物が、主人公にとっては真摯に話を聞いてくれる存在であったりする。
子どもであり障害も抱える主人公自身も、周囲から正当に評価されず苦労する場面があるため、視点が変われば印象も変わるという主題が物語全体に通奏低音のように流れているように感じた。
総じて、手がかりを丁寧に示すミステリーとして好感が持て、キャラクターの行動や発言にも十分な説得力があった。全体的に無駄が少なく、文章運びが巧みな作家だと感じた。