【感想・ネタバレ】一九八四年[新訳版]のレビュー

「戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり」
〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する近未来では、ありとあらゆることに統制が加えられる超全体主義的な社会が成立していた。真理省記録局で歴史の改竄に従事していた主人公・ウィンストン・スミスは、奔放な美女ジュリアとの出会いを契機に、反政府地下運動に惹かれるようになっていく…。

先の見えない不安な時代に売れると言われる本作品。トランプ大統領が就任した際、アメリカ国内での売上ランキングで1位となり話題になりました。また、ノルウェー・ブック・クラブの「世界最高の文学100冊」にも選ばれ、世界中で高い評価を得ています。こんな社会はありえないだろう…とページをめくっていくうちに、『一九八四年』的未来はSFにとどまらないのかもしれない…と考えはじめてしまうでしょう。現代を生きる我々に警鐘を鳴らす一冊です。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

1949年に刊行されたイギリスの作家ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説。主人公ウィンストン・スミスは国家によって徹底的に監視・統制された社会で、歴史の改竄をする従順な役人として暮らしながらも、社会に対する疑問を強く意識するようになっていく。

巻末のトマス・ピンチョンによる解説は鋭く要点をついていて、この救いのない物語の理解に大いに助けになった。
殆ど予備知識なく、監視社会が舞台のSF小説くらいの軽い気持ちで読みはじめたので、ここまで重い内容だとは思ってもみなかった。それでも最後まで興味深く読めたのは、この小説が単なる反全体主義、反共産主義のSF小説ではなく(未来の予言でも断じてなく)、人間の弱さや脆さ、人間社会の残酷さなどの根本を描いているからだろう。名作が時代を超えて読まれるのは普遍性があるからだが、この小説が持つ肉体的な痛みや快楽、圧倒的な暴力は、なかなか古びることはなさそうに思う。

普段我々が眼にするような娯楽作品は映画にしろ小説しろ何かしらの救いが示されているものだが、この小説は完膚なきまでにそんなご都合主義を叩き潰してくれる(一応、巻末の付録の部分がこの狂った世界が過去のものになったことを暗に示してくれてはいるが)。途中で兄弟同盟が助けにくるのでは?という読者の期待は最後まで叶わない。完全なる個人の敗北。ここまでやる必要がなぜあったのか考えさせられる。

書かれた時代も戦後すぐで著者が社会主義でリベラルということ、結核を患っており(執筆を9ヶ月休まなければならないほど)、著者にとっても精神的にも肉体的にも辛い時期だったと思う。肉体的な痛みが精神にどう影響するかは、実際に感じながら執筆していたのではないか。特に第3部は恐ろしい執着心を感じる。もしかしたら自らの生への執着に、自分でも驚いたのではないだろうか。戦争のあまりの悲惨さに、暴力の前ではどんな思想も志も無力だと悟ったのだろうか。それとも口では平和を謳い、体は権力争いをする政治家の二枚舌、『二重思考』に対する激しい怒りだろうか。

何度も登場する童謡の歌詞、党のスローガン、テレスクリーンから流れるプロパガンダは、読者に催眠をかけるようでもある。また美しいものと醜いものが、善と悪にそのまま書き分けられているのもあまりにも意図的すぎる。あくまでこの小説はフィクションであり、『動物農場』のように構造をわかりやすくした寓話的小説として描かれたように思う。

解説に書かれていたように、この小説が共産主義への憎悪を掻き立てる“あの本”的に利用されているのは皮肉だ。政治的な単純な構造として読まれてしまうのは、かなり勿体無く感じる。読み方次第では薬にもなる毒だと思う。近年の政治家の発言や、IT技術などを予言しているという見方は、分かりやすい構図ではあるが適切ではない。もっと大きな視野を持った、人が生きるとは何かの切実な問いだと思う。

徹底的な残酷さを描いたうえで、どう生きるかを問いかけてくる。物質的に破壊されるよりも、文化的に破壊される方が恐ろしい。生活は効率ではない。豊かさは生産性ではない。

どんな理想的な国家でも一度戦争が起こり、銃を持った兵士が侵略しにくるとなったら、撃ち返さざるをえない。昨日まで平和主義だった民衆は銃をとって強力な指導者を求める。ウクライナの報道から感じる虚無感。人間の弱さは変えられない。それでも諦める訳にはいかない。別にウィンストンのように心まで破壊された訳ではないのだから、どんな時代になっても何とか正気を保って生きなければならないなと思わされた。

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2024年04月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

監視社会、全体主義の管理社会のなかでのディストピアを描く。主人公は最後の人間(自分の意志で考える人)であり、この社会においてとても危険思想の持ち主である。その思想がこの社会にばれたら?
自由思想を奪われ洗脳されることが正しい社会って自分が知らないだけで本当にあると思う。もし自分がその国の住人だったら?いままで考えたことがない想像ができた。

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2024年02月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

名著ということで読んでみた。ものすごく重厚で読み応えがあった。ここに書かれている世界の恐ろしさや違和感を一言で言ってしまえば「気持ち悪い」なのだけれど、それが現代にもうっすらと繋がっているであろうことに恐ろしさを
覚えずにはいられない。洗脳の過程、そして降伏。後味も悪い。ディストピア小説だから致し方ないのだけれどただただ重い気持ちになった。

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2023年12月19日

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