あらすじ
人類は火星へ火星へと寄せ波のように押し寄せ、やがて地球人の村ができ、町ができ、哀れな火星人たちは、その廃墟からしだいに姿を消していった……抒情と幻想の詩人が、オムニバス中・短篇によって紡ぎあげた、SF文学史上に燦然と輝く永遠の記念碑。新たな序文と二短篇を加えた〔新版〕を底本とする電子書籍版登場。
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Posted by ブクログ
新版で再読。旧版では年代が1999~2026年だったが、新版は2030~2057年、31年スライドしている。むかし読んだ時に感じた、SFなのに懐かしい感覚、既知感と未知感の綯い交ぜがよみがえる。
前書きで、ブラッドベリは一種の「種明かし」もしている。12歳の時から、週1作のショートストーリーのノルマを自分に課していたが、これだと長編には至らない。24歳の時に、シャーウッド・アンダーソンの掌篇集『ワインズバーグ、オハイオ』に出会い、そうかこれだと思ったという。オハイオを火星に変えて、掌篇たちを年代順に並べる。すると、アメリカ中西部のエピソードの集合が火星の植民・開拓・消滅のクロニクルになる! さあ、あとは持ち前のイマジネーションと詩的感性の発揮のしどころ。
でも、火星人とはいったいだれのことなのか。それが読者の宿題として残される。
Posted by ブクログ
『地球からの三度にわたる探検隊はひとりも戻らなかった。火星人が彼らなりのやり方でもてなしたからだ。』(内容紹介もカッコいいです)
それでも押し寄せる地球人と地球の常識の埒外にある火星人の物語を年代ごとに短編でつないだお話し。
難解なSFに疲れた時にこの叙情的なSFは心にしみます。
ラストの火星人はどこにいるのか?のやり取りも皮肉が効いてて良いです(´▽`)
Posted by ブクログ
最初どうしてもイメージできない描写がひたすらに続き、これ読み切れるかなと心配していたのだが年代が進むにつれて加速度的に読みやすくなる。でも文明のうつろいを描写で感じることになるとは……。
「優しく雨ぞ降りしきる」のスピード感と「火の玉」における信仰対象への解釈の話がいっとう好き。こういう話、自分で思いつきたかった!というタイプの面白さ。
私にはまだ言語化が難しいところがたくさんあるのだが、先に同作者の華氏451度を読んでいたのでこの辺りは作者のテーマなのかなと思った。たまに殴りかかるような風刺が飛んでくるのでまったく油断できない。
ホラーっぽいなこれ…という描写もちょくちょくあったが、巻末の解説にある掲載誌の話を見て納得した。
Posted by ブクログ
火星がどんな風に侵略されたか、地球はどんな状況なのか、地球人は何を考え火星へやってきたか、それらをいくつもの短編を読んでいくことで把握できるようになっているのが面白かった。喉元にナイフを突きつけられたような恐怖を味わう話もあったし、心を押しつぶしてくるような話や、詩的で美しい話もある。
目線が変われば見えてくるものも違っていて、それぞれの立場で真実を見せてくれるのが良い。これが一人の主人公の語りであれば偏った情報しか得られないからだ。
いくつか印象的な短編があった。第三探検隊が懐かしさの中で殺された話。地球人の愚かさに抗おうとしたスペンダーの話。火の玉に出会った神父たちの話。死んだ家族を造った男の話。火星人になった話。どれも忘れがたい。きっとこうやって争いや悲しみはひとつひとつ積み上がって、戻れないところまで来てしまうのだなと思った。
ラストの水面を眺めるシーンはゾッとさせられたけれど、それ以降の年代記も読んでみたい。
Posted by ブクログ
地球の人間が火星を訪れ、人間のための世界を作り、去っていく経過を描いた連作短編集。そしてブラッドベリやっぱりすごい、登場人物は皆生き生きと動き回り、情景がくっきり浮かんでくる語り口。時にファンタジー、時にホラー、時にコメディ。滑稽であったり、無常感を纏っていたり、とにかく生々しく感情の色々な部分を揺さぶってくる短編の数々。
特に良かったのは穏やかな夏の夜を楽しむ火星人たちが人間の到来を知らずの間に知覚してしまう『夏の夜』、火星に到着した探検隊の夜を描く『月は今でも明るいが』、大焚書であらゆる本が焼かれた地球を抜け出してきた男が、火星にポーの作品に出てくる陰鬱な館をこしらえる『第二のアッシャー邸』、老夫婦のもとに地球で死んだはずの息子が現れる『火星の人』。あと傑作集に収録されていた『優しく雨ぞ降りしきる』もやっぱり好きでした。でも実際のところ、全編良かったです。良かった。
Posted by ブクログ
話自体は他のSF作品に比べて地味だけど、表現力がすごくて読みやすいし想像しやすくて面白い。
SFは目新しさが重要だと思ってたけど考えが少し変わった。
Posted by ブクログ
いろいろ寄り道しながらも、ここ最近でいちばん夢中になれた本。
ラストが
ラストが!
なーるーほーどー!
手法としてはもう在り来りなのかもしれないけど、怖〜。
最初は、謎系のSF感がとても面白くて読ませます。星新一さんみたいに。
なかなか火星から地球に帰ってこない地球人。だのに、翌月も、また夏にも、地球人たちは火星目指してやって来て…
メンタルを損なわれそうなファンタジーが少しずつ短編として連なっていく。
途中私には難解になったり、すごく腑におちたり、バイロン卿の詩が現れたり。。
神父たちが、火星には新しい罪があるのではないかと、ロケットにのっていってしまうという…シュールで詩的な画が浮かぶ、2033年11月「火の玉」は、急に面白くて、なんなんだろう??
解説を読むと、新版でいくつか短編が差し替えられたりしているそうなので、あとで納得できたけれど。
2036年の、「第2のアッシャー邸」も怖くて面白かった。アッシャー邸を作ったのは、スタンダール氏、
地球人の政治が本を焼き、「むかしむかし は、二度とこんなことは起こらない になってしまった!」と地球の社会学社たち、有名な人物たちを第2のアッシャー邸に招待して…
狂った地球人のせいで、火星人もだんだん絶滅していく。。
時々訳が分からなくなると、「たんぽぽのお酒」を開いて自分を励ましながら、
怖く、面白く、読み耽りました。
地球は、核戦争により自滅する!
SFって、本当に予言に満ちているんですね。
Posted by ブクログ
これは……さすが名作、と言わざるを得ない。
わたしが生まれるずっと前に書かれてたのか……。すごい。
だけど地球人って平和ボケしてるというか何というか……歓迎されると信じ切ってるところがヌケてるというか。
火星人の方が大分上手だ。
Posted by ブクログ
80年前に書かれたという作品。まだ火星というものが詳しく知られなかった頃に書かれたと思われるので、実際の火星をイメージして読むと混乱してしまう。ただしそれ以外はかなり面白く、人間のあらゆる側面が面白おかしく、そして少しだけ悲しく描かれている。個人的にだけれども、作者本人のキリスト教の、キリスト自身に対する解釈が凄く面白かった。
Posted by ブクログ
レイ・ブラッドベリで最初に手に取ったのが「とうに夜半を過ぎて」で、それはうまく良さを掴みきれず挫折してしまったのですがこれは面白く読めました。
著者はこの作品がSFと言われるのは疑問だと序文で書いているとおり、火星を舞台にした哲学的なファンタジーと言われるとこの小説の雰囲気にしっくりくる。
でもこの幻想的で詩的な中に人間のリアリティがしっかりとある。宇宙旅行が自由になり人間たちは火星へそれぞれ色々な目的で旅行や移住するようになる。その結果、火星の元からあった文明はすべて破壊され、さらに地球では核戦争が起こり火星も地球をも壊してしまうという人間の悲しい罪深さが描かれている。
この小説の核となる7章目の「月は今でも明るいが」はとてもメッセージ性が強く心に残る話だった。
話の中で火星人が、「なぜ生きるのか」という疑問について“考えても答えが得られず、忘れることにした。動物は生に疑問を持ったりしない。生きている理由が生そのものであり、生そのものが答えである。”とあって、私の中で何か腑に落ちた感じがする。
小説の中で、 夏、夜、月、シェリー酒という単語がとても多く出てくる。著者の好きなものなんだろうな
「パパはね、地球人の倫理や、常識や、良い政治や、平和や、責任というものを探していたんだよ」
「それ、みんな地球にあったの?」
「いや、見つからなかった。もう、地球には、そんなものはなくなってしまったんだ。たぶん、二度と、地球には現れないだろうよ。あるなんて思っていたのが、馬鹿げていたのかもしれないな」
ブラッドベリの小説を何作か読んで思ったのは詩的な表現が多すぎてストーリーの輪郭がぼやけていること。恐らく原文では意味が二重にかかっていたり韻を踏んでいそうなところが多々あり、翻訳がかかると良さが活かしきれていないんじゃないかと思う。全ての翻訳小説にはそのデメリットがあると思うが、ブラッドベリの場合は特にそんな風に感じる。
それを味わいと受け取れるか、分かりにくくて読みづらいと受け取るか。私自身何作かは読みづらくて挫折したものもあるけどこの作品はまた読み返したいと思える比較的初心者にも親しみやすい作品だと思う。
Posted by ブクログ
「とやかくいわないでください。知りたいとは思いませんから」って、この本の冒頭の作者自身のけっこう長い“まえがき”。
自分的には“童話的SF”または“SF的童話”なんだけど。
確かに、グリムもアンデルセンも擬人化してるんだから、火星を地球化したからといって“サイエンス・フィクション”であるかどうかが議論されることは、ナンセンスだよねって、思うし。
それにしても、長めも短め(たった1ページのもある)もごちゃごちゃなんだけど、なんとなく時系列であることがわかり、且つ、つながっているんだなぁって、感じる。
前半の火星人とのやりとりも良いけど、特に、この短編集のなかではやや長めの「月は今でも明るいが」と「長の年月」、ラストの「100万年ピクニック」で、しっかりとメッセージもあって、やっぱり「ブラッドベリ的」に面白かった。
満足です。
Posted by ブクログ
レイ・ブラッドベリ(1920~2012年)は、米イリノイ州生まれ、高校卒業後に新聞の販売をしていたときに書いた作品(共作)でプロ作家となったが、1950年の『火星年代記』で名声を得、1953年に代表作『華氏451度』を発表した。作品にはファンタジックな雰囲気の短編集が多く、幻想作家として不動の地位を築いた。
『火星年代記』は、米国のSF関連雑誌「ウィアード・テイルズ」等に発表された短編群に、書き下ろし作品を加えた、26の独立した短編を連ねて一つの長編とした作品である。年代記の題名の通り、1950年出版のものは、個々の短編に1999年1月から2026年10月までの年月が付され、その順の構成になっていたが、1997年に発表された改訂版では、前書きを新たに書き下ろし、いくつかの短編を入れ替えた上で、全ての短編を31年遅らせて2030年1月から2057年10月の年月が付されている。
大まかなストーリーは以下である。
火星には既に火星人が文明を築いており、地球から派遣された当初の調査隊は全滅させられてしまうが、第4次調査隊が到着したときには、火星人は地球人が持ち込んだ感染症で絶滅していた。その後、地球人は続々と移住していくが、彼らは過去の火星人の文明には全く関心を示さず、地球・アメリカと同じ街を作り、同じ生活を送った。一方、地球では核戦争が勃発し、それを火星から眺めていた人々は、大半が地球に戻り、ほんの一部が火星に残ったが、地球は滅亡し、火星に残った人々も消滅する。そうした中で、僅か二つの家族だけが地球を脱出することに成功し、誰もいなくなった火星で、新たな火星人としての一歩を踏み出す。
私は最近まで、いわゆるSF(&ファンタジー)はほとんど読まなかったが(ディストピア小説でもある『華氏451度』は随分前に読んだ)、最近、有名な作品はひと通り触れておこうと思い立ち、『星を継ぐもの』、『渚にて』、『火星の人』、『あなたの人生の物語』等を読み、本書もその流れで手に取った。
それらを次々に読んでみてわかるのは(今さらだが)、一口にSFと言っても様々な作風があることだが、本書は、科学的根拠を重視するハードSFとは一線を画す、メッセージ性が強い寓話的な作品である。
ストーリー全体を、地球を旧世界(ヨーロッパのような)に、火星を新世界(アメリカのような)に置き換えて読めば、人類(主として西洋人)の歴史と現状を強烈に風刺しており、更に、我々の未来に強い警鐘を鳴らしていることは明らかなのだ。
本書が書かれたのは第二次世界大戦直後で、それから既に70年以上が過ぎている。しかし、今読んでも古さは感じられないのだが、それは、裏を返せば、70年を経てなお人間も社会も文明も大きくは変わっておらず、本書のメッセージが引き続き有効だということなのだ。我々は滅亡・消滅を免れることができるのか(或いは、我々が「新たな火星人」になることができるのか)、今一度考えるきっかけにしたい作品と思う。
(2024年6月了)
Posted by ブクログ
火星への移住を試み、実際に移住し、最終的に手放すまでの時代を生きた人達の心情に寄り添ったオムニバスストーリー。なんですが、本作の火星は呼吸もでき、地球からの物資持ち込みも容易な設定なので(設定というよりは当時はそういう場所として想像されていたんだと思いますが)、当時の欧米から見た、地球上にある未開の地との交流といった体で読んだ方が楽しめるかもしれません。
どれも詩的な表現に富んだ素晴らしい短編ばかりでしたが、中でもお気に入りは「第二のアッシャー邸」「火星の人」「長の年月」の3編。特に「火星の人」は居なくなった人を求める人間の心情を繊細に描きながら、ラストの「かんぬきをかけた」という言葉で締める表現があまりに綺麗で、そのやるせなさに心が震えました。
Posted by ブクログ
ブラッドベリ初読みでした〜。
地球から火星への植民という、作品全体を貫くひとつの設定。それを繰り広げられるSF連作短編集。
いちおうSFだけれど、人間模様や風景の描き方がかなり幻想的で詩的で叙情的。幻想小説といった方がしっくり来る。
火星人も出てくるのだけれど、そのイメージが序盤と終盤ではけっこう違う。後半では火星人は、エルフや何か人外の架空生物のよう。
年代を追うごとに火星や地球人を取り巻く状況が変化してゆくので、続きが気になりつい読んじゃう。
【ネタバレあり】
全体の大きな破滅の中にも一縷の希望があるという終わり方が『華氏451度』を彷彿とさせる。といっても、原作は未読で映画だけ観て抱いた印象なので、積んである原作も読みたい!
時代とともに改変されたとのことなので、旧版もいつか読みたい(別宅にある)。元は1999年から始まる設定だったらしい。時代が作品を追い越してしまうというのはSF作品の宿命だよなあと思う。どれくらい先を「未来」と考えるか、だね。
途中で聖職者が出てくるのが、いかにもアメリカSFという印象。SFは私は原作を読んだ数より映像作品を観た数の方が多いんだけど、必ず神父さんや牧師さんが出てきて、未知の現象への彼らの解釈を拠り所にする人々が描かれるよね。日本に置き換えてみると坊さんとか神主さん的存在なんだよなと思うと不思議な気がしちゃうよね。
噂に違わぬ詩的で叙情的な世界観でした〜。もっと読みたい!!次はやっぱり『華氏451度』かなあ
Posted by ブクログ
・あらすじ
2030年代の火星に地球から探検隊がやってくる。
地球からの移住者、火星人たちの文明と滅亡が書かれた火星が舞台の短編オムニバス小説。
・感想
海外SF小説が好きなYouTuberさんがレイブラッドベリを紹介した動画をみて興味を惹かれ購入。
超超有名なディストピア小説「華氏451度」はずっと読んでみたいと思いつつ未読なんだけど、この作品から読んでみようと思い手に取った。
あまり事前情報を仕入れずに読み始めたので「詩的な文章」という私がもっとも苦手とする表現が多く、抽象的というか想像力が必要な作品で序盤は雰囲気を掴むのにちょっと手こずってしまった。
でも「第3探検隊」からの「月は今でも明るいが」が良すぎて、そこからはブラッドベリの魅力を堪能しながら読むことができた。
特に「月は今でも明るいが」がよかったなーー。
「生きるとは」「なぜ生きているのか」という思春期に誰しもが持つ純粋で普遍的、根源的な哲学的な問いと火星人たちの結論。
科学と宗教と芸術の哲学が生活にどのように染み渡っているか〜的な解釈が好きだった。
物質至上主義の地球人と、執着や即物的な欲望から肉体を捨て去ることで脱却し精神世界に全振りすることで解き放たれた火星人の対比。
先住民族の文明・文化を壊し開拓する人間の傲慢さも描かれてるけど、そういう性質は何年経っても変わらないものなんだな。
のちに第3探検隊の面子が出て来た時と彼らの行く末も退廃的で好き。
最後の短編「百万年ピクニック」が綺麗にこの作品を締めくくってて良かった。
Posted by ブクログ
小説って芸術だなぁと思った。なかなか分かり合えない地球人と火星人にもどかしさを感じたり、地球人同士もそもそも分かり合えないもんねと落胆したり。スペンダーとワイルダー船長のくだりが素晴らしく哲学的な流れにいくのかと思いきや、大きな流れに抗えない人間らしさ。終わりはまたアダムとイブ的な未来を想像するけどどうなることか。物語の始まりは2030年、終わりは2057年。なんだかその頃の地球ではリアルにこんなことが起きてそうと思ってしまった…
Posted by ブクログ
読んだのが数年前なのでうろ覚えな部分もあるのですが…。
この作品が書かれた当時は、核兵器というものがともかく驚異(今もそれには変わりませんが)だったのだなという感想を読んだ当時は強く感じました。けれど、緊急事態宣言が出ている今は、火星人が絶滅した原因が感染症だったことの方が気になります。私達もSFの世界だけでなく、病原体を宇宙にばらまいているのかもしれません…。まさに、小松左京のあの小説のような驚異を、異星人に与えるかも。このSFの物語が現実になりませんよう。
また、火星人は悲しい最期を迎えてしまうのですが、彼らの文化がなんだか美しくて好きでした。
Posted by ブクログ
ほぼほぼ独立した叙情的な短編から構成されるが、タイトルの通り、火星(と地球)をめぐる小史といった流れ。
別々に見ると毛色が違う作品群であるが、話の筋は通っており、随所に差し込まれる衝撃的な展開を動力に一気に読んでしまった。
私が特に面白かったのは、
『夜の邂逅』『荒野』
いずれもイメージが美しい。
散文ファンタジー
不意にSF小説が読みたくなり、おすすめをググった結果出会った一冊。散文形式と、あまりに科学考証が乏しいので、読み出してすぐにどうしたものかと悩みましたが、一応読破。そんな読者にとって、SFとはスペース・ファンタジーなのだと思い至らされた一冊でした。架空の世界で、書きたい主題を取り扱うのに、「考証」がどれだけ必要なのか? 必要ありませんよね。
人類に対する悲観的で、不信感をまとった話の運びのなかに、理由はないけど、ヒトはそれでも生き残るのだという、不思議な万能感を示した一冊。
イーロン・マスクは本当に火星を目指すのか??
Posted by ブクログ
SF小説の名作で、ブラッドベリの代表作がこの『火星年代記』です。
その名の通り、火星での様子・出来事を年代順に語る様式の作品。
短編はおおむねそれぞれが独立した形でありながら繋がっていたりもし、
連作短編SF小説と言えそうです。
ネタバレになるので、中身に触れないように説明するのは難しいのですが、
いろいろな要素が詰まった、つまり、いろいろなジャンルの話がありながらも、
どれも火星を舞台にしていて、その時系列で話が進んでいくことによる
統一感、筋の通った感じのある短編集。
僕の読んだバージョンは「定本」というもののようで、
この作品は発刊された時には1999年から始まった物語だったそうなのですが、
2030年から始まっています。つまり、31年、未来に話がずれたようです。
それは、このSF小説が今後も読めれていくための修正です。
内容は変わっていないようで、もしかすると、2030年くらいになったときの
この世界のテクノロジーや社会の進歩具合によっては、さらにまだ「生きている作品」
としての寿命が延びる可能性もありますね。2060年とかにずらしたりして。
それで、この「定本・火星年代記」は2010年発刊のものです。
そして、作者のレイ・ブラッドベリが亡くなったのが2012年だそうです。
92歳だったそうですが、亡くなる間際まで現役だったとか。
生命力の強い人だったのかもしれないですね。
本作でいえば、もしかすると、ウォルター・グリップのような人かもしれない。
さて、その『火星年代記』で描かれた世界は、
ユートピア的であったか、ディストピア的であったか。
それは読者だけが知りうることです。よかったら読んでみてください。
SFは、架空の未来世界に人類を置いてみて、そこでどう考え、反応するかという
思考実験的な初体験を、未来が来る前に体験してみようという趣旨があります。
そして、そこが面白味だったりする。
通常の人生では得られない、読書上ではあるけれど、新しい体験をSF小説で
してみてください。
Posted by ブクログ
SF入門企画で紹介されていたので手に取った一冊。
色々と考える所が有りました。
本作での"火星"は言わずもがな、アメリカ人に取ってのアメリカ大陸、火星人はインディアンのメタファーですね。
けっこう早い段階で火星人は滅ぼされてほぼ死滅します。その原因が地球人がもたらした細菌によって、と言うもの。これはヨーロッパ大陸特有の伝染病をもたらした移住者達、と言う構造です。
短編集と言う形を取っていながらもどちらかと言うと連作短編と言うイメージで、火星で移住者達の中で起きたエピソードを時系列順に描きます。
個々のエピソードは個人間の諍いとか家族の話なのですが、背景にある地球-火星の間での出来事(例えば核戦争とか)を絡ませるので、構造的に知る造りです。
科学考証が厳密にあると言う訳でもなく、スター・ウォーズみたいにワクワクする感じの作品では無いのだけれど読んで損は無いと思います。
Posted by ブクログ
シャーウッド・アンダーソンの『ワインズバーグ・オハイオ』はオハイオの架空の町、ワインズバーグのことを短編小説の連なりから、どんな町なのか浮かび上がってくるという作品だった。
『火星年代記』は序文にも書かれている通り、レイ・ブラッドベリが『ワインズバーグ・オハイオ』から影響を受けて、そのやり方を踏襲、舞台を火星に移した作品だ。
だが描かれている世界はレイ・ブラッドベリらしく非常に幻想的で、不思議な儚さがあった。
時代を感じさせる部分も確かにあるのだが、地球人と火星人という異種族に対する偏見や差別感なども描かれていて、今読んでも強度を感じる部分もある。
個人的な好みとしてはいささか物足りなさも感じるが、名作なのは間違いないだろう。
Posted by ブクログ
ブラッドベリ3冊目。前作の林檎で感じた違和感を、この直前にイーガンを読んでいたからか、更に明確に感じる部分が多々あり、それが本作にハマりきれずにいた要因です...。一部いいなって思うエピソードも勿論あったし(「火星の人」「百万年ピクニック」)、好きな華氏を彷彿とさせるエピソードも良かったんだけどな(「第二のアッシャー邸」)。やはりアメリカ中心な感じが苦手、、
Posted by ブクログ
タイトルから想像するような火星をテラフォーミングしていって、そこで色んな事件が起きていく・・・というような話ではない。
どちらかというと、幻想小説であり科学的な描写は現代の視点から観ると殆どないと言ってよい。
短編集だが、全ての話は火星が舞台で繋がりがある。全編を通して死の匂いが通底している。刊行当時(1950年)のアメリカという国の皮肉な批評として書かれたのだろうが、70年経った現代でも十分に批評として機能してしまうのはそれこそ皮肉な話かもしれない。
個人的には「沈黙の町」が一番好きだ。奇しくも日本で人気なセカイ系や終末もののカウンターになっているからである。
Posted by ブクログ
火星を舞台にした短編集で、それぞれ雰囲気はさまざまだけれど、時間的つながりのある作り。どこか文学的というか、叙情的というか。またメタファー的表現も多々。
Posted by ブクログ
SF。連作短編集。
ブラッドベリのSFはどこか幻想的。
全体的な印象として、序盤は面白く、中盤は退屈で、終盤はまた面白い。
「地球の人々」での火星人とのコンタクトの結末は、とてもユニーク。
「第三探検隊」も、そう来たか!、という結末の切れ味。
「月は今でも明るいが」では、スペンダーの思考に考えさせられる。
終盤は、「オフ・シーズン」から面白かったと感じる。
「沈黙の町」は、火星に残された人間の哀れな希望が悲しい。
「長の年月」はセンチメンタル。これがベストか。
「優しく雨ぞ降りしきる」は、無人の廃墟で健気に働く機械が虚しい。
「百万年ピクニック」では、最後に僅かな希望があって、少しだけ救われる。