あらすじ
他者との関係を作ることができず、会社も辞めた「僕」は、ひとり東北の町に逃げる。そこで「僕」は、架空の鉄道路線を妄想の中で造ることに熱中する。緻密な計算と実地見聞を繰りかえし、理想の鉄道が出来上がったとき、思いもよらぬ出来事が町を襲う……。
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Posted by ブクログ
終着は終着、これ以上なにかを求めて逃げることも戻ることもない。
主人公は家族も職も失って、東北の沿岸に逃げてきた男性。遺産と貯金をたよりに、ただ人生の期限だけを定めてその街に住み着いた。
絶望することにも退屈した彼が、暇つぶしに思いついたのは"架空の路線を走らせること"。どう路線図を引くべきか、駅間の運転には何分を要するか、ダイヤをどう組むか。彼自身が<架空列車>となって、来る日も来る日も自転車に乗って街を駆ける。
やがて彼は欲や執着が出てくる。なんの対価も得られない遊びへの白けた気持ちに蓋をするが、そんな日々を突如ぶち壊したのが、東日本大震災だった。
すでに何もかもを失った彼を同士とみなし接する<津波によって失った>人々を、彼は穏便に拒絶する。「本来なら持っていたはずのもの」への執着が喪失感を生み、疎外を生む。ならば、はじめから手放せばいい。
もう人生の実運行に戻ることはないと周囲と再び壁を作って、彼は架空列車に戻る。
震災で家族や財産を失った人へ、それも架空なんだよと心の内でささやく主人公。
<疎外感>によって気が狂うよりも、いっそ手放すほうが精神が健全でいられるのかもしれない。
でも、煩わしい人間関係を維持する努力をして、家族や仕事や財産を持って暮らす、そういう人々がいるから、社会は、暮らしは続いてゆくのだ。
そして彼はその恩恵にフリーライドしているに過ぎない。だからこそ、彼はいつまでも「架空列車」のままでいるしかないのだし、それを自覚しているから自ら<疎外>を選ぶんだろう、と思った。
Posted by ブクログ
最後、自分は変わらず架空列車として走り続ける、とある。けれど道路整備や伝達をして小さなことだけど誰かの役に立てていたことに気づくことができない主人公だから、何か本人が気づかないうちに彼は変わっていくこともあるんじゃないかと、私には希望が持てる終わりでした。
Posted by ブクログ
昨年(2012年)の群像新人賞受賞作品。
理系の准教授が書いた、というおたくな世界だけれど、後半の3.11のところからがよかった。
最後の結論(?)はどうかなと思ったけれど、僕(主人公)の世界の完結という意味ではいいかなとも思う。
全体的に(架空の路線をつくり、電車を走らせるのも)興味深く読めた。