あらすじ
小学6年生のダニエルは、戦争時代の話をきくためにアンナおばあちゃんを訪ねた。
——第二次世界大戦中、12歳のアンナはドイツでのユダヤ人迫害をのがれ、「キンダートランスポート」(イギリスをはじめ各国の家庭がユダヤ人の子どもを受け入れた活動)でイギリスへ避難することになった。列車の発車寸前、どさくさにまぎれて若い母親からかごを渡される。中には赤ちゃんが! アンナはイギリスに着くまで、その子の面倒をみる。
無事に田舎の農場についたアンナ。ドイツにいる両親を心配しながら、英語を学び、里親のもとで新しい生活になじもうと努力する。
ある日、農場の姉弟といっしょに、納屋でけがをした兵士をみつける。イギリス兵だと名乗ったが、アンナは、男がドイツ語をつぶやいたのに気づく。男はドイツのスパイだったのだ。イギリス兵だと信じるふりをして水や食べ物を運んでいると、手紙の投函をたのまれる。アンナはそれをイギリス軍の大佐に知らせ、男を見はる。こっそり男のあとをつけるアンナだが、みつかってピンチに!——
話をきいたダニエルは、アンナおばあちゃんの誕生日に贈るサプライズプレゼントを思いつく。
ナチによるユダヤ人迫害や、1万人もの子どもたちを救ったキンダートランスポートの活動などの史実をふまえ、緊張感いっぱいに描かれたフィクション。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
児童書なので読みやすいのもあるけれど、話の展開が気になって一気に読んでしまった。
ヒトラーが政権を握ってから比較的早い段階で、この物語の主人公アンナはドイツからイギリスへ脱出する。このキンダートランスポートという救出システムのことはよく知らなかったが、イギリスの民間の救援団体が組織的にユダヤ人の子どもたちをヨーロッパからイギリスの家庭に送り込む活動のことで、実際に約一万人の子供たちを受け入れたのだそうだ。
このような全くの善意の行動があったことにまず驚かされる。
アンナはその極く一部の幸運な子どもだったけれど、頭の回転の速さと勇敢な行動によってある重大な事件を未然に防ぐことになる。でも、アンナは勇敢とは言えまだ12才で、いつもドイツに残った両親の安否を心配しては夜な夜な悪夢にうなされ、精神的にもギリギリの状態だ。不安な気持ちは頭の中の箱にしまって鍵をかけ考えないようにしているけれど、時折り不吉な予感に押しつぶされそうにもなる。その気持ちの表現が物語に上手く織り込まれているので、ハラハラする展開の中でもただの「冒険もの」にはならないで、奥行きのある小説になっていると思う。
事件のあとのアンナのその後も描かれている。
両親はアウシュヴィッツで亡くなり、パウルおじさんは生き残っていた。アンナは思慮深い子だから、自分の立場もよくわかっていて、罪悪感に苛まれる。そんな葛藤もあり、最終章は感動的だった。
小中学生にもぜひ読んでもらいたい。
ところで、リヴァーズさんとはどうなったんだろう?私も気になる。
Posted by ブクログ
第2次世界大戦の児童書もたくさんあって、いろいろ読んだけれど、キンダートランスポートの話は初めて。
いい話で「こんなにうまくいかなよ」ってこともいっぱいあるけど、12歳の子の体験することとしては大変すぎて、二度とないように願わずにはいられない。
「なにが起きても、パパの明るく勇敢な娘でいるんだよ」
「幸せになるように努力しなさい。いつも人にやさしくね。あたえられた機会はすべて、最大限に生かすのよ」
2度と会えないかもしれない12歳の娘に最後に言った両親の言葉に打たれる。
キンダートランスポートで助かった子どもが1万人、命を失った子どもが150万人という事実は重い。
Posted by ブクログ
児童文学の域を超えた衝撃的な物語。
若干10歳の少女の分かりやすく素直な言葉で
紡がれているからこそ、情景が鮮やかに浮かんだ&
抜けがちな観点が自然と血肉化された。
この種のテーマに関心のある人はぜひ!
Posted by ブクログ
「いつでもパパの明るく勇敢な娘でいなさい」「幸せになる努力を。人にやさしく。与えられた機会は最大限に生かすのよ」。この両親の言葉の重さに心がふるえる。
Posted by ブクログ
実際に、この作品で描かれたような「冒険譚」を経験した少女がいたのかどうか、はわかりません。どちらかというと、
「YA文学」としてのエンタメ性を持たせるために創り出された物語なのかもしれません。
とはいえ、そのことは本書の魅力を減じるものではなく、ナチスの支配するドイツからイギリスへ亡命するためのキンダートランスポートに助けられる場面、イギリスにわたってからの疎開生活での苦労、両親への想い、次第にイギリスへと迫るナチスへの恐怖など、当時の少女が抱いたであろう心情がとても精緻に描かれています。
現実は救いがない結末となることも少なくありませんが、本書で語り手(アンナの孫)が「ぼくは、どうしてもパウルおじさんにハッピーエンドがほしかった。」と述懐する場面は、まさに読者の気持ちを代弁していると感じました。
この本の主人公、アンナはキンダートランスポートで命を救われましたが、実際には命を救われた子どもたちは1万人、一方でホロコーストの犠牲になった子供たちは150万人にも及ぶと言われています。両親の犠牲の上で生き残ったことに罪悪感を抱くアンナに叔父が語った言葉は、ホロコーストを生き延びたすべての人々に対するメッセージなのかもしれません。さらに広げて考えれば、戦争という行為やそれに付随する不幸の犠牲になったすべての方々への追悼とともに、今(=戦争の後に続く歴史)を生きる私たち全員が、心にとどめておくべき言葉であるかもしれません。
Posted by ブクログ
キンダートランスポートについては、以前読んだ児童書の登場人物を通して少しだけ知っていた。
本書では主人公のアンナが、キンダートランスポートによってドイツからイギリスへ渡り、
慣れない環境の中里親家族のもとで成長していく。
ドイツからイギリスへの列車の旅も決して安全なものではなかった。
親と別れ大きな不安を抱えながらも子ども同士年上の子が年下の子の面倒を見て支えあう姿に、戦争というものの残忍さを感じずにはいられない。
アンナは同級生の偏見や里親家族の姉弟とのぎくしゃくする関係など、辛いことも両親との約束を思い出し乗り越えていく。
村にナチスが潜伏していることを発見し、ドイツにいた頃のトラウマに苦しみながらも大きな役割を果たす。
戦争は、いつでも弱い立場の者が犠牲になる。
平和であれば経験する必要もなかった苦しみや憎しみに襲われる。
授業で味見読書をする機会があれば、ぜひリストに加えてほしい一冊だ。
夏休み前には戦争に関する本を薦めるようにしている。
2023
Posted by ブクログ
戦争の悲惨さを伝えるだけではなく、ドキドキする展開でお話としてとても面白かった。
キンダートランスポートの幸運に恵まれてイギリスに渡れた子供たち1万人、そうなれなかった子供たち150万人。
列車に乗れた子供たちも、親御さんの想いや子供たちの心細さ、寂しさを想うと胸に迫るものがありました。
Posted by ブクログ
キンダートランスポートってなんだろう?と疑問に思いながら手に取り、帯の「なにが起きても、パパの明るく勇敢な娘でいるんだよ」の言葉にひかれて購入した。
我が子を助けるためにキンダートランスポートを利用し、子どもだけをドイツからイギリスに移住させること。親元を離れ、異国の地で見ず知らずの里親たちと暮らすこと。どちらの立場で考えてみても想像を絶するつらさだ。でも、それすら叶わなかった子どもや大人がたくさんたくさんいた。そのことを忘れてはならないし、決して他人事ではなく誰にでも起こりうることだという認識をもっていなければと思った。
また、物語としてもたいへんおもしろく、ドキドキワクワクしながら読むことができた。子どもたちにはもちろん、大人にもぜひ読んでもらいたい。
Posted by ブクログ
本書は児童書(YA向け)です。が、
これがなかなか侮れない内容なんです。
本書の主人公アンナはドイツでユダヤ人迫害が強まり、キンダートランスポートでイギリスに逃れ、里親のもとで疎開生活を送ります。
この「キンダートランスポート」私も始めて聞く言葉なんだけど、イギリスの民間救援団体が
ユダヤ人の子供達を救出して列車と船でイギリスに送る大作戦で、なんと一万人の子供達がイギリスの里親のもとへ無事受け入れられました。
この作戦の凄いところは政府公認にもかかわらず、資金は団体や個人で賄われていたことと、善意と親切心だけをたよりに遂行された綱渡りのような計画だったということです。
日本だったらどうなんだろう?
隣国の危機に命の危険があるかもしれないのに参加する人っているのかな?
里親になるのも経済的な問題もあるし…
また「キンダートランスポート」で送り出す側の親の気持ちを考えると言葉かでない。
もう二度と会えないかもしれないという気持ちを抑えて子供達を安心させるために後から自分達も行くからと…。
この後、多数のユダヤ人は死の工場といわれる収容所へ行くことになってしまうのだろう。
そして戦後、ホロコーストの全貌が明るみになる。
子供達、親達を思うと胸が詰まる思いです。
イギリスでの疎開生活は寂しさ不安との戦い。
寂しさ、不安は頭のなかの箱に鍵をかけ考えないようにするアンナの強い心が逆に切なく感じる。まだ12才なのに…
クラスメイトの言葉が印象的です。
「ドイツ人の女の子が学校に通いながらヒトラーに情報を流している。パパが言ってた」
大人が子供へ偏見や差別の心を植え付けないように意識的、無意識な発言に気を付けなければなければいけないと改めて感じた。
イギリスへ行くまでの前半は実際の子供達の手記、史実に基づいて描かれ、後半は『アンネの日記』で有名なアンネ・フランクが、もしイギリスに逃れたらと著者が想像をふくらませ作られたフィクションです。
特に後半は「スパイ小説」を読んでいるいるような緊迫感たっぷりでハラハラドキドキさせられます。
こういった善意の活動が1万人の小さな命を救ったのは本当に素晴らしいことだと思う。
その反面歴史から何を学んだのか未だに世界のどこかで戦争が行われアンナののような子供がいるのも事実。
表紙のまっすぐ前を向くアンナの表情、目にどきっとします。
未来を見据えたようなアンナの目には現代の世界はどのように写っているのだろうか?
Posted by ブクログ
高学年向け。
ドイツからキンダートランスポートでイギリスの家庭に送られる事になったユダヤ人少女の物語。
どんな過酷な環境であろうと、両親の言葉を胸に前を向き続けるアンナの姿に勇気付けられる。
後半、侵入したドイツ兵を相手に戦うなど冒険物要素もあり、戦争児童文学としても珍しい展開がある。
Posted by ブクログ
限りなく5。
キンダートランスポートは、初めて聞く。
英国で、国の事業では有る物の、実質は民間によって、ユダヤ人の子ども達を英国の里親へと紹介、養育するというプロジェクトだったそうだ。
孫息子が戦争についてのレポを書くため、祖母に尋ね、その昔語りを聞くという体。
アンナは、ドイツで、出版社の3代目の父のもと、裕福な家で何不自由なく育ったものの・・・
このプロジェクトでケント州の農家の家庭へ。
ベッドルームが2つしかない、決して豊かとは言えない家庭が、里親に名乗り出て、精一杯の愛情を注ぐ。
ついにドイツと英国も戦争状態になり・・・
そして戦局を左右しかねない大きな事件が・・・
というお話。
あとがきで、訳者も言っていたように、友情もの、成長ものであり、スパイものであり、ホロコーストものであるという、さまざまな要素がてんこ盛り。
それでも、ぜんぜん破綻していないのが素晴らしい。
一気読み確実。
アンナは孫がいるくらいなのだから、無事に曲面を乗り切ったことはわかっているのにねw
アンナの姿勢、とにかく命あることに感謝し、全力投球する姿勢は、シニアになった私も励まされる。
できることなら少女の頃に出会いたかったな。
著者は小学校の教師を務め、その中でキンダートランスポートの女性に出会い、着想を得たという。
フィクションながら、キンダートランスポートの当事者の手記などを使たとか。
英国へ向かう車内での出来事が、事実だということには、驚かされた。
Posted by ブクログ
キンダートランスポートとして死ぬ運命から逃れられたユダヤ人の少女アンナの物語。大好きな両親から離れてイギリスの里親のもとへ。無事にイギリスに着けるのか?いきなり預けられた赤子はどうなるのか?里親はいい人たちか?イギリスで迫害されないか?納屋で見つけたスパイとの攻防は?戦争ものであり自分の家に住めないつらさ、両親と引き離されるつらさ、戦争のおろかさに加えてこれらが気になりページを繰る手が止まらなかった。幸せになる努力をしたアンナ、それが一番両親への恩返しになっただろう…
Posted by ブクログ
小学生新聞の書評欄で子が気になったもの。内容は難しくないけど、活字に親しんでなければちょっとしんどい分量。裏を返せば大人でも読み応えのある物語。世界大戦開戦直前のドイツから始まり、辛くもイギリスに避難出来た少女が主人公。でもその避難先では、敵国出身ってことによるすったもんだがあって、という風で進んでいくんだけど、同じ敷地内で負傷ドイツ兵と偶然遭遇したあたりから、グッとスリリングな展開に。フィクションならではのこのあたりの展開を楽しみました。