あらすじ
きみは
どんなときも
けして
忘れてはいけない
貴く生きることも
大事だが
君が生きている
そのこと自体が
貴いんだ
──「固有な実在」より
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生きていくために、言葉が必要だった。そんな思いを持つ人にこの詩集を捧げる。
NHK「100分de名著」人気講師がつむぐ、見知らぬ誰かに宛てられた、たましいからの手紙。
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【目次】
目次
告白
秘密のことば
桜葉
ことばの光
意味の光
孤独1
孤独2
隠れた勇者
美しい心
独裁者
郵便配達夫
詩の公理
言葉のことわり
光源
空気1
空気2
自己探究
人生の扉
見えないものを探すためにぼくらは生まれた
死者からの便り
叡知の人
評論家
寂の世界
固有な実在
未来の詩人
小さな定義集
詩の教え
詩のおきて
詩人追放
書く理由
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Posted by ブクログ
若松英輔さんの第八詩集。
以下に心を撃たれた詩を三篇載せます。
おそらく若松さんは奥様のことを想って書かれたのだと思いますが、私は認知症を患う母を想いながら拝読しました。
先日、主治医の先生に「最後は娘さんのことが誰かわからなくなりますから」と言われました。
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桜葉
いっしょに
散歩をしているときは
満開の
花にしか
気が付けなかった
でも 今は
緋色や黄や
茶色になった
さくらの葉に
見惚れています
二人で過ごした ひとつ
ひとつの時を
ゆっくりと
想い出しながら
誰も
気が付かないうちに
色を変え
風に身をあずけ
いつとも知れず
散ってゆく
一枚
一枚の葉を
愛しくさえ
感じています
空気 1
行きたい場所に
旅もしたし
欲しいものだって
買った
でも
こころに
橙の灯が
ともらない
さまざまな場所に
いろんなものに
幸せへの扉を探したけど
見つからない
でも あなたと
いっしょにいたときは
幸せになりたいなんて
考えたこともなかった
未来は見えなかったけど
今だけは
ちゃんと
感じられていた
本当のしあわせは
大切な人と時を
分かち合うところに生まれる
空気であることも
あなたがいなくなるまで
気がつけなかった
それが
私だった
自己探求
ずっと探しているのは
わたし
あなたと
いっしょにいたときは
私よりも
ずっと近くにいた
わたし
あなたが
あの日から
見えなくしたのも
わたし
あなたと生きているときだけ
咲いていた 目には
見えない 一輪の花