あらすじ
「実はね、見たことがあるの。UFO」。1977年、中学2年生のヒロキは映画館のチケット売り場でひとりの女性と出会う。それは彼にとっての初恋だった。〈イージー・ライダー〉〈ジョーズ〉〈卒業〉そして〈未知との遭遇〉。数々の映画とともに描かれる淡い恋の物語(「宇宙に願いを」)。
久しぶりに故郷の岩国に帰った私は、年も格好も1973年のあの頃のままの親友2人に出会う。夏の日差しの元、釣り竿を持った彼らと錦川の岸辺から狙うのはネラミ(オヤニラミ)だ(「幻夏」)。
1972年、中学1年の夏休み。当時開通したばかりのバイパス道路を40km歩こうと計画を立てたモリケン。親友のノッポとムラマサに加え、不良のモゲも同行したいという。かくして4人での徒歩冒険旅行が始まった(「俺たちのロングウォーク」)。
1970年代の山口県岩国市を舞台にした3編を収録する郷愁あふれる青春小説集。
解説・西上心太(文芸評論家)
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青春の結末はいつだって苦い。それが少年少女たちの成長のステップになっているからだ。
本書に収められた三本の短編はいずれも青春の思い出と上手くいかない現在が詰まっている。
特に表題作は映画ファンなら「おお」となるタイトルがズラリである。映画少年が主人公だから当然と言われれば当然なのだが。
思い出とは面影、だろうか。隣にいた友人の、初恋の人の、いつか忘れてしまう無数の面影。本書に描かれたものはそうしたノスタルジーに溢れている。
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樋口明雄『宇宙に願いを』ヤマケイ文庫。
『風に吹かれて』に続く、樋口明雄の自伝的青春小説。3編の短編を収録。
この歳になると、こういう短編を読むと涙腺が緩み、自分の過去にも思いを馳せてしまう。あの時、こうしていれば良かったと後悔ばかりが先に立つ。
『幻夏』。
ノスタルジックな快作。読みながら、自分の中学校時代の友人はどうしているだろう、昨年末に亡くなった父親とももっと話をしたかったなど、様々な過去への思いが湧き出した。自分の場合は過去への後悔の方が多いのは、そういう人生を送ってきたからだろうか。
前作にも登場したモリケンこと森木健一も65歳となり、作家を生業としていた。ある日、中学校時代の同級生8人との同窓会に参加した森木が浮かない顔をしていると、同級生の西村に気分晴らしに一度故郷の岩国に帰ってみろとアドバイスを受ける。
『俺たちのロングウォーク』。
幼い頃から冒険という言葉に胸をときめかせた記憶がある。作中に登場する『冒険手帳』は自分も読んでいた。自分の中学生時代にも父親がヤクザという同級生が居た。
再び主人公はモリケンこと森木健一。中学時代にモリケンが友達と岩国から徳山までの40キロの道をひたすら歩くという冒険に出掛けた話を大人になったモリケンが娘に話す。
『宇宙に願いを』。
甘酸っぱい初恋の記憶とノスタルジー。自身の力ではどうすることも出来ない悲しい運命。昔の田舎には何故か『オリオン座』という名前の映画館があったように思う。スピルバーグの『未知との遭遇』とは懐かしい。自分は試写会に当選し、いち早く映画館で観た。その後に上映された特別編も映画館で観た記憶がある。
この短編だけは舞台は岩国なのだが、モリケンは登場しない。主人公は中学2年生のヒロキだ。ヒロキはオリオン座の切符売り場に座っていた美しい女性に心を奪われる。名前も訊けずにいたヒロキだが、どういう訳かその年上の女性にデートに誘われる。
定価1,100円
★★★★★
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著者自身の故郷・山口県岩国市を舞台にした短篇集。収録された三作のうち表題作だけ主人公が異なるが、初恋についてのモノローグですぐにわかる通り、どの作品も著者を通して繋がっている。様々な映画が引用される。表題作は、映画館が物語の舞台のひとつなのであたり前だが、他の作品にも、洋画・邦画のあんな作品やこんな作品の要素がちらつく。そもそも、表紙からしてそうだ。でも、映画だけではない。この短編集には、広島、つまり原爆の残像が根っこにある。そして米軍基地。映画も含め、1970年代に、日本から、過去の記憶と傷跡を引きずりつつ、でも仰ぎ見ていた、かつてはたしかに存在した、キラキラして輝いていた(でもその裏側には多くの矛盾と犠牲を抱えていた)アメリカが、背後にどっしりと構えている。