【感想・ネタバレ】論破という病 「分断の時代」の日本人の使命のレビュー

あらすじ

自分と異なる意見を持つ相手を「敵」と認定し、罵りあうだけでは何も解決しない。今必要とされているのは、「メタ正義感覚」だ――。日本に放置されているコミュニケーション不全に対し、対立する色々な立場の間を繋いで成果を出してきた〝経営コンサルタント〟の視点と、さまざまな個人との文通を通じ、社会を複眼的に見てビジョンを作ってきた〝思想家〟の視点を共に駆使し、新しい活路を見いだす。
堀江貴文氏失脚に象徴される日本の「改革」失敗の本質的な理由や、日本アニメの海外人気が示唆するもの……などをひもとくことで、「グローバル」を目指して分断が深まった欧米とは異なる、日本ならではの勝ち筋を見つけ、この20年の停滞を乗り越える方策を提示する。
また、明治神宮外苑再開発問題、再エネvs原発の電力問題、川口市のクルド人問題、歴史認識問題――現代の具体的な課題を元に、解決に向かう考え方を示す。
あらゆる「絶対」が無効化し、混迷が深まる多極化時代の道しるべとなる1冊。

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Posted by ブクログ

ウェブ記事か何かで倉本さんを知り、その考えに触れてみたいと思い、最初に手に取った一冊。結論、読んでみてすごく良かった!

X(旧Twitter)では今日も不毛な「論破」合戦が繰り広げられている。それはもはや「議論」ですらなく、敵認定した相手との口論に勝つためだけの罵り合い。右翼vs左翼、守旧派vs革新派、保守派vsリベラル、ネオリベvsポリコレなど、対立構造はさまざまだが、「政敵」の人格や存在ごと全否定して打ち負かそうとする構図は共通している。そんな景色にうんざりしてXを「そっ閉じ」する人も多いだろう。私もその一人である。

そうした「論破」型の議論ではなく、イデオロギーが異なる相手とも、同じ空間で同じ問題を共有する仲間として協力し合い、「具体的な問題解決」を行う《令和の議論》への転換を目指すのが本書の趣旨だ。そのための道具として、「メタ正義感覚」を提唱する。

「メタ正義感覚」をひとことで言い表すのは難しい。「相手の正義と自分の正義の両方を尊重する感覚」と一応の定義はできるものの、著者自身、「フィジカルなレベルにならないと意味がない」と言っており、「包丁の使い方」を例に出していたが、あまりピンと来なかった。単純に相手の意見と自分の意見の「間を取る」とか「足して2でわる」という事ではなく、相手の意見の「存在意義」を深く理解して、そのニーズを汲み取った提案をする事で、自分のニーズも通すような、「クリエイティブな解決策」を見出すという事らしい。

この部分を読んでいてふと思い出したのが、昔付き合っていた人と同棲を始めたときのエピソードだ。外から帰った際に「服を脱ぎ散らかさないで欲しい」というニーズが私にはあり、一方で、相手には「服を畳んだりハンガーにかけたりするのが面倒だ」という事情があった。そこで、玄関からの動線に脱衣カゴを設置し、服を脱ぎ捨てるならその中にして欲しいとお願いしたところ、彼は律儀にそれを守ったため、部屋に脱ぎ捨てられた衣服が散乱することはなくなった。

そんなことを思い出しながら読み進めると、クライアントの経営者が、倉本さんの本を読むようになってから、冷え切っていた妻との関係が改善したというエピソードが載っており、なるほどこのことかと思った。

本書では、改革派と守旧派の対立を水と油の関係になぞらえ、改革側(グローバル側)を「水の世界」、変化に抵抗する側を「油の世界」と名づけ、どのように「エマルション」させてバターやマヨネーズを作っていくか?を実例を踏まえながら説明する。

ところで、本書の中では「水と油」以外にも、「ドラクエ型とFPS型」の競争のあり方など、実に絶妙な比喩表現が多く用いられている。これらの比喩により、非常に理解がしやすくなり、読んでいる瞬間はわかったような気になるものの、読み終わって思い返すと何の話だったか忘れていることが多々あり、この書評を書くにあたって何度も読み直した。例え話や具体例は、物事の理解を助けはするが、具体と抽象の行き来をサボると、結局本質の理解のためには遠回りになるんだなぁと思った次第だ。

なんて事を考えながら最終章を読むと、以下のようなまとめが書いてあった。

〈以下引用〉
「論破という病」を乗り越えるためには、抽象的な論争のための論争ではなく、現場の細部に入り込んで対立する両者の意見をよく聞き、その上で「対立する“私”」を超える「あたらしい“公”」を生み出す解決策の方向性を考えていく「メタ正義的」解決が必要

マッキンゼー出身の経営コンサルタントだもんね。現場を知ってる人だから、机上の空論じゃなくて現場の現実と向き合えよってことよねとすごく腑に落ちた。

現場で体を張って問題にあたっている社員が、そこに寄り添いもせずに上から理想論ばかり振りかざしてくる上司たちに「あいつらは現場をわかってない」という不満を持つのも当然だろう。しかも大卒の彼らは、末端で働く高卒の自分たちをどこか下に見ているのも伝わってくる。そりゃ暴動も起きるよね、というのが今の欧米だとすると、日本はこれからどんな道を歩んで行ったらいいのか。

会議室で電卓を叩いてるだけじゃ部下は付いてこないんじゃないの?というのがたぶん日本式なんだろうなーと思った。失われた30年は、失われてなんかいなくて、実は冷凍保存されてたのかもしれない。解凍された私たちがどう進むかで、未来は変えられる(気がする)。

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2026年04月13日

Posted by ブクログ

今年一番。ここ数年のリベラルの大敗北や改革の停滞の理由を紐解く本が各方面(訂正可能性の哲学、公正を乗りこなす、企業変革のジレンマ)から出ていますが、より噛み砕いていて実践的で解像度の高い本。水と油のエマルジョン、新しい公の概念を作ろう、ディスっていないでリーンイン。初老ですが自分も諦めずに実践せねばと思いました。

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2025年02月16日

Posted by ブクログ

大居さんから教えてもらった本。
論破と言うことが流行っていて、分断の時代であるが、もっと建設的なことを議論しようよと言う前向きな本。例えばA対Bと言うディベート形式の論法がSNSでは繰り広げられているけれども、AもBも正しいだけど、AもBも間違っている。だから、Cと言う代替案を出そうということが求められている世の中であると言う内容。

なので、一方的に〇〇がダメであると言うことを言うのではなくて、ここは良くないけど、こうしたら良くなるんじゃないかだったり、こういう見方ができるんじゃないかと言うポジティブな面を探そうと言う点で、社会においても会社においても家庭においても、応用が効くような内容であった。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

大体はそうだよなと思う意見だった。
水と油の世界という表現で、いわゆるコミュニティ重視派と個人重視派がどうやって折り合いをつけて、お互いの共通項を見つけていくかということが書かれていて、今のすぐ敵か味方かみたいな二元論にいきがちな世の中に必要な考え方かなと思った。
これは個人レベルでも実践できることもあると思う。

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2025年06月10日

Posted by ブクログ

p25 「我々善人たちの敵」を徹底的に打倒しさえすればすべてうまくいく、という20世紀型の妄想から目を覚ます必要がある そういう議論から脱却し、政敵ではなく「問題そのもの」と向き合うのが21世紀の、”令和”の議論の大選定となります。

p29 今は昭和の議論と平成の議論の両方から遠ざけられ孤立無援になっている、具体的な課題と向き合って解決策を考えている人を真剣に迎えにいき、社会で共有できるようになっていかなければなりません・

p32 イデオロギー的な敵=政敵を論破することではなく、協力し合って具体的な問題解決を行うことこそが、令和の目的となるべきである

p38 相手の言っていることではなく、相手の存在意義と向き合うこと

p42 メタ正義感覚は足して2で割った妥協案ではない

p45 どれだけ相手のニーズを汲み取った提案ができるかの競争

p46 相手の正義を尊重させすれば、自分の側の正義を我慢する必要がなくなる

p47 日本人の組織は、現場レベルの人もある意味で過剰なまでにg当事者意識のあることが多いので、無理やりゴリ押しすると、会社の規模にもよりますが時々「勝手に現場が方針をスルーして実行されない」ということすら起きます。

p61 まず認識自体をメタ正義的な観点で捉え直さなくてはならない

p65 グローバル経済に開かれるとは、格差が拡大し、社会が病むことである

p85 ほっていても頑張れる人というのは世の中に一握りだけであり、ほっておいたら果てしなく堕落しちゃう人を、無理なく一つの目標に向かわせるための有象無象の仕組みが社会には必要

p105 油の世界の価値を全否定しようとすると、今の欧州の極右勢力やアメリカのトランプ派のような形で反撃をうけるようになるには確実です

p106 なんとなくの縁を維持するためのおせっかいをいかに保全するかが、油の世界のパワーを排除しないために大事なこと

p118 競争のやり方が変わってしまった ドラクエ型からエーペックス型へ FPS ファーストパーソンシューティング

ドラクエ型 一か所でとにかく地道にレベル上げをしていれば、そのうち無双できる

FPS型 一瞬で作戦を変更して位置取りを調整しながら次のアクションを起こしていく

日本はドラクエ型ではまだ世界一 自動車、スマホの部品、半導体製造の特殊な機械、化学製品

FPS型 スマホ、ソフトウエア、家電

日本の技術は世界一、できないことはないと無邪気に誇っている状況では徐々になくなっている

p124 うちわで固まって、密度高く延々地道にやっていれば勝てる戦いではなくなってしまった

ドラクエ型できっちり取り組むことが勝利の鍵である分野は残り続けるし、日本としてはそこの強みを崩壊させないようにすることも大事だ

p139 日本の働き手は末端まで、自分の仕事に対する責任感が強すぎて、外部が介入することをとにかく嫌がり、共通したシステムを取り入れて全体として合理性が生まれることに、強烈に必死に命がけで抵抗する傾向があるのです

自前で作ってうまくやったのが、ユニクロ、ヨドバシ

p143 自前で作ってしまう 神奈川県秦野市 老舗旅館 元湯陣屋 陣屋コネクト

p144 ダイニー 飲食店でスマホから注文するアプリ
現場に奉仕する文化で作り込んだシステムを世界に展開する

p167 高杉晋作 人は艱難をともにすることはできるが、富貴は共にできない

p169 単に水の世界のオープンさを称えてそれに反対する存在をばかにするのではなく、水の世界のオープンさを保護し、容認できるだけの揺るぎない油の世界の安定、その2つをどう両立させればいいのかを考えていくことが、日本経済全体の再度の隆盛をもたらす上で避けて通れない課題となるのです

p170 いまのグローバル経済は、オープンなようで、実は特定のタイプのアイディアしかのせられなくなってきているのではないか?

p185 岸田内閣 中堅企業という法的区分を作った

p187 ノーベル賞 コールディン ある程度規模が大きくなり、システム化標準化が行われた業界ほど、男女の給与差はすくなくなることがわかった

p213 日本においては公に対して無理難題をあくまで非妥協的に言い続ける私であることが、なにか妙に高尚であるかのようにイメージされてきてしまった不幸がある

p215 梅田駅北部の再開発 グラングリーン大阪
地域一番の一等地に広々とした自由に座れる緑をつくって剛毅なプランで、賞賛に値する

p234 日本が一番危険だったのは平成中期頃2002年であり、その時期に比べると今の日本はたった1/4になっている。これは主に犯罪を犯しやすい若い人口が減ったことが原因

p249 倉本圭三x橋本直子対談

p251 (移民をできるだけ少なくしたいのであれば)同時に自動運転やロボット導入などの省力化技術への投資を真剣に呼びかけてほしい

p252 少しづつ受け入れ、毎回ちょっとしたズレでも大騒ぎしながら共生策をつんでいくプロセスを丁寧にやっていけば、あるレベルまでの外国人受け入れはメリットの方が大きい

p260 板谷俊彦 日露戦争、資金調達の戦い

p268 3BlueBrown チャンネル 深層学習の仕組み

p280 サステナフォレスト 森の国の守り人たち

p283 ひとつひとつの課題の本当の難しさに向き合い、丁寧にメタ正義的解決の種を育てていかないと、結局正義の私達と、私利私欲のために暴虐を尽くす敵という20世紀型ファンタジーに逃げ込み、アイツラを打倒しさえすれば、という妄想の中で延々とバトルをするだけで、現実的な課題はそのまま放置され続けることになってしまうのです

p286 思考の空中戦に懐疑的でも、実際に現場にへばりついて毎日暮らし、そして一歩でも良い方向に動かしていこうとしている人こそがエライのだという価値観を我々は取り戻さなくてはいけません。
両者の言い分を聞き、現場レベルの詳細な事情を汲み取り、しだいに束ねてメタ正義的解決の種に育てて行くような人々こそが、これからの時代の本当の正義の存在なのです

p288 理想と現実のズレを減らしてゆく、本当のたたかい

p315 タイムマシン経営が徐々に機能しなくなっている

グローバルにまあまあ戦えているのはスマートニュース、time tree

なめらかな社会とその敵 PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論

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2025年02月16日

Posted by ブクログ

異なる正義同士で対立するのではなく、問題解決に向けて協力するための視点として、メタ正義感覚という世界観を紹介する本。

方法論としては、概ねゴールドラットのTOC(対立解消図)を応用したものであり、経営コンサルタントの著者らしいと言える。

興味深いのが、水の世界と油の世界に関する内容。
思想・理論的正しさの論理というべき水の世界と、共同体的価値観の論理というべき油の世界、両者の対立が分断を招いていると著者は主張する。
油の世界のイメージは高校野球や所謂JTC、水の世界のイメージはネオリベやポリコレ。

著者は油の世界が日本の良さを守ってきた側面を強調しているが、ゾス系に入る若者が一定数存在することは、その価値が再認識されたことを表しているのかもしれない。

全体的に興味深い内容で、メタ正義感覚や水と油の世界といった思想的な部分としては、大いに読む価値のある素晴らしい内容だった。
ただ総論はよくても各論には微妙な点もあるのが玉に瑕。

著者は油の世界の「現場の良心さん」に強いシンパシーを寄せる一方で、水の世界ではネオリベに対しては比較的親和的なものの、ポリコレにあたるフェミニストや活動家等の左派にはかなり冷淡な態度を見せており、たまに藁人形論法のように感じられる部分もあった(左派= 親中派と言うが如き274頁の記載など)。

メタ正義感覚の事例を紹介するのはいいのだが、左派が現実課題を十分に認識していない、という批判が強すぎて、著者本人が「論破という病」に陥っているのでは?と感じる時すらあるほどだった。

終章では自民党の政治とカネ問題につき、「選挙にカネがかかる仕組み自体をいかに変えるか」の視点が民主党や国民全体に足りていなかったと述べる。
しかし長らく政権与党を務めている自民党には、その仕組み自体を変えるチャンスがいくらでもあったこと。政党交付金という形で仕組みを変えた過去があること。
この2点に触れておらず、かなりバランスの悪い議論になっている。

また基地問題や原発問題を主張する側を理想を語る水の世界に置いているが、そもそも地元住民の反対運動という油の世界もあるはずだ。
そこを無視して安全保障の論理を国側が押し付けても解決しないからこそ、メタ正義感覚が必要なのではないか。

メタ正義感覚と水と油の世界という発想自体はいいのだが、左派叩きの本になってしまっている印象もあり、この辺りのバランス感覚に問題なければ良い本だったのにな、と感じた。

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2026年02月12日

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