あらすじ
歴史の「洗礼」を受けた土地には、不思議なオーラがある。
たたずまいが微妙にちがうのだ。
考古学の常識をくつがえした岩宿遺跡、平家一門が波間に消えた壇ノ浦、徳川の天下を決した関ヶ原、忠臣蔵の四十七士の故里・赤穂、そして特攻隊が出撃した九州南端の知覧基地――。
好奇心のおもむくまま、由緒ある町を訪ね、古代から近現代まで、自由に時間を旅する。
歴史の魅力を堪能し、思索をめぐらした紀行エッセイ。
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Posted by ブクログ
歴史の洗礼を受けた場所は、不思議なオーラがあるという。
歴史散歩の仕方にはどうも2種類あるようだ。
著者は事前の下調べもなく、フラッと行くタイプで、変な先入観を持たない方が新しい発見があって面白いという。
この真逆が司馬遼太郎のようだ。司馬は事前に徹底的に調べ上げて、現地ではそこの空気を感じるのみ。
どちらが良いのかは各個人の好み次第であるので、何とも言えないが、私を含めて普通の人は池内流が多いのではないだろうか。
とは、言いながら私は大の司馬ファンで「街道をゆく」は愛読書である。
やはり、読むのと実際に行動するのでは、大きな違いが出るようだ。
本書では歴史の裏側の隠れた面も随所で紹介されてゆく。そこにちょっぴりスパイスが効いているのが魅力でもある。
素人の行商人が日本の旧石器時代の歴史を変えた話や、日本初の高層建築である霞が関ビルの誕生の裏には、「郭茂林」という台湾人なしには語れない等。
本書の中では『大東京の相貌を一変した超高層の幕開けは、「世界のタンゲ」としてひろく知られていた丹下健三でもその弟子筋の磯崎新や黒川紀章や槙文彦でもなかった。初期の超高層ビルを軒並み手がけたのは、東大助手という雑用係を15年務めたのちに、ひっそりと独立した無名の台湾人建築家である』とある。
また「永仁の壺事件」では、日本の骨董品の世界のいかがわしさを痛烈に批判している。
このように歴史の裏側で忘れられた人に温かい視線を送り、逆にいかがわしい権威に一太刀浴びせる池内流が冴えわたる。
著者の「東京ひとり散歩」以来、小気味よい作品にヒットしていなかったが、この本でまた再会を果たした。