あらすじ
ロシア人亡命作家を追いかけ
クロアチア移民とおしゃべりし
イディッシュ語教室で人気者に――
一九八〇年代、ロシア文学専攻でありながら米国に学んだ著者。
東欧系移民や亡命作家たちとの交流から得た豊かな体験談を起点に、
亡命者・移民・多言語話者の文学や言葉を縦横に考察。
ロシア・東欧文学から世界文学まで広く論じてきた著者の原点たるエッセイ。
「ハーバード生活から、三つのエピソード」他を新収録。
解説
「いつも身軽に「大事そうなもの」を集めること」奈倉有里
ニューヨークのこんな片隅のしがない食料品店の中でしぶとく生き続ける生粋のスラヴ語が聞けたという事実に嬉しくなったぼくは、つい好奇心にかられて、「いったい何語をしゃべっているんだい、スラヴ語みたいに聞こえるけど」と男の子のほうに脇から話しかけてしまった。
(「ブライトン・ビーチのロシア語街」より抜粋)
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Posted by ブクログ
著者の1980年代のアメリカ留学記だ。
そんな昔の? というなかれ。 冒頭、著者も記すように、
「海外で初めて見聞きする移民の姿やマイナー言語のあり方に心ときめかし、おもしろがった経験が本書には刻印されている。本書を支えているそのような若いころの感動は、古びることは無い」
未体験の生活に好奇心を大いに刺激される日々が瑞々しく描かれていた。
ロシア文学者として斯界の重鎮の著者をして、なぜアメリカ留学? と思うが、
「反体制派のソルジェニーツィンや亡命作家のナボコフやブロツキーはソ連では当時読むことさえできなかったのだ」
と、そんな理由を聞かされると、現代のロシア文学を研究しにアメリカに渡るのも頷ける。
ロシア語を中心とした語学を通じて、周辺諸国の言葉、ユダヤ人のイディッシュ語、エスニック・ジョークなど、様々な話題を振りまき、飽きることなく読める。
特に、今なら、下記の記述で、今年(2025)の米アカデミー賞を席巻した映画『Anora』の舞台背景に思いを馳せることができる。
「1970年代にソビエト政府が国内に住むユダヤ人の一部に出国を認めたために起きた現象で、ソ連を出たユダヤ人の多くが最終的にはニューヨーク近郊に流れ着き、特にブルックリンのブライトン・ビーチBrighton Beachという町を中心に一大コミュニティを形成している。」
映画の中で描かれていたアメリカにおけるロシア人の暮らしが、当時の記録ではあるが、裏どりが出来た気分。
巻末の解説が、奈良倉有里というのも頷ける。というか、連綿たるロシア文学研究の伝統が受け継がれていっているように感じられて、良き。