あらすじ
「私は酒がやめられないのである」「だらしない話である。恥かしい話である」しかし不思議と憎めず愛しい、戦後・昭和の人間模様――。「小生、この度感ずるところあって、酒を止めることにしました。断然止めたいと思います。」「酒を飲むから、仕事が出来ぬ。仕事が出来ぬから、金があんまり入らない。」(「禁酒宣言」)止せばいいのに今日も今日とてふつか酔い、後悔してももう遅い。確かな筆致で人間の生活を描き続けた私小説作家・上林暁の世界から坪内祐三が選りすぐる、ユニークな酒場小説集。解説 青柳いづみこ
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Posted by ブクログ
1999年刊行のちくま文庫が復刊。上林本人はもちろん、編集した坪内祐三(またの名をスタンレー鈴木)も既に亡い。新版解説として青柳いづみこが文章をよせているが(pp328-333)、いつものとおり、おじいさんの青柳瑞穂とその周辺の文士の酒飲み話がダラダラ書かれているだけ。「そんな背景もあってか、上林の『禁酒宣言』は、酒よりもむしろ酒場の女性たちに焦点を当てて読んでみたくなる」(p330)というところまでは同感だけど、いづみこさんは、上林側に立って、酒場の女たちに向ける上林の視線と感情に共感している。青柳瑞穂も上林暁も、坪内祐三も、彼らに共感するいづみこさんも、ほんとうにお酒が好きなのかなあ? と疑問に思う。お酒が好きなんじゃなくて、男と女の、酒を媒介にした関係に酔ってる(た)だけじゃないのかな。上林の娘さんが「うちで飲む方がええ」(p57)と言うように、本当にお酒が好きならば、自分の家に帰って家族の顔を見ながら飲めばいいんだよ。
Posted by ブクログ
上林暁、坪内祐三・編『新版 禁酒宣言 上林暁・酒場小説集』ちくま文庫。
現代に於いては、デカダンスで力のある小説家は最早絶滅危惧種であるに違いない。巷にはラノベ小説やBL小説、エンタメ小説、警察小説が溢れるばかりで、何かを考えさせるような純文学小説などは余り読む機会が無い。これは作家や出版社だけの問題では無く、自分も含めて、読む側に大いに問題がありそうだ。
本作は、そんな希少な作家であり、1980年に逝去した上林暁の酒場にまつわる短編13編を集めた私小説の短編集である。大方の短編の主人公が武智という小説家であり、恐らく自身のことなのだろう。
『女の懸命』。昭和の戦後間も無い頃、女性を囲うというのは珍しく無いことだった。粕取酒が登場するが、庶民は清酒などには手が出せず、粕取なる安酒を口にしていた。流石に粕取酒は飲んだことが無いが、自家製のどぶろくみたいな物だろうか。
『暮夜』。小説家が馴染みではあるが、余り足を向けられない飲み屋の話である。やはり粕取が登場する。酒飲みは幾つか自分の行き付けを持っているものだが、たまには新規開拓もしたくなる。
『禁酒宣言』。酒を止めよう、止めると言いながら、踏み切れない小説家が余りにも滑稽である。夜中の2時、3時まで飲み歩き、次の日二日酔いというのは自分も経験したことがある。朝の5時まで飲んで、会社に直行したこともある。酒を全く飲まなくなった、今思えば、何とも馬鹿なことをしていたと反省しきり。
『いさかい』。酒場で久し振りに遭遇した友人と飲み代を巡る諍いが起きる。金が無くとも何とか飲もうとする意地汚い酒飲み。最初に店に渡した金を河岸を変えるからと割り戻そうとするなど、酒飲みの発想だ。
『春寂寥』。飲み友達が地元に帰り、馴染みの飲み屋も閉店したり、移転したりと孤独を感じながらも、良かった時を思い出す主人公。
『魔の夜』。懇ろになった飲み屋の女主人との別れ話。酒飲みは飲むと何故か女性に惚れやすくなるようだ。
『お竹さんのこと』。飲み屋の女性との儚い恋。
『愉しき昼食』。旦那に囲われた飲み屋の女性と深い仲になった男の話。
『酔態三昧』。『禁酒宣言』に関連するエッセイのような感じで始まったが、やはりの私小説だった。『禁酒宣言』の焼き直しのような話で、酒飲みの小説家が飲み屋の女性に惚れたり、深酒ばかり、娘に服や靴なども買ってやれずに妹に窘められる。
『春浅き宵』。相変わらずの酒飲みの日常。タイトルの高尚さなど無い。
『女の甲斐性』。あちこちと飲み歩き、飲み屋の女性を品定めするような主人公の小説家。小説家と名乗れば、飲み屋でモテるのだろうか。
『たばこ』。脳溢血で酒を止めた主人公の小説家は煙草を止めようとするが、それは酒以上に大変なことだった。
『蹣跚』。酒を止めた主人公の小説家が酒を飲んでいた頃を懐かしむ。
本体価格900円
★★★★