あらすじ
文芸の世界で最も注目を集める作家が挑んだ、言葉の定義をめぐるエッセイ集。
「好きになる」「さびしさ」「つきあう」――。日常で何気なく使っている言葉で私たちは、他人と「本当に」分かり合えているのだろうか。一つ一つの言葉が持つあいまいさや脆さを鋭く見抜き、記憶や経験、痛みや喜びの「手ざわり」からその意味を結び直す。他人や、自分自身や、そのあいだにある関係を観察した日々の、試行錯誤の記録。
【内容】
まえがき
1.「友だち」「遊びと定義」「敬意とあなどり」「やさしさ」「確認」「忘れる」「くさみ」
2.「好きになる」「恋」「ときめき」「性欲」「つきあう」「愛する」
3.あなた「友だち2」「めまいと怒り」「さびしさ」「寝る」「飲むとわかる」「乗る」「観察」
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Posted by ブクログ
何か一つの言葉を定義する、という設定で書かれたエッセイ集。「友だち」「遊び」「やさしさ」「恋」など、いろいろな言葉の定義を試みている。
どの回も一つの言葉に真摯に向き合い、過去の経験に照らして熟考し、ああでもない、こうでもないと頭を悩ませている様子が面白い。それも辞書的な通り一遍の定義ではなく、著者の人生、生き方から導き出された生きた定義だからこそ面白いのだ。
「言葉がわたしの中である意味をむすぶとき、そこにはわたしの記憶や、経験や、痛みや喜びの手ざわりが、どうしょうもなくまとわりつく」
その「言葉にまとわりつく形のないもの」をこそわたしたちは交換したいのではないか、という著者の言葉がすごくいいなと思った。
言葉は人の中でそれぞれ違ったふうに生きている。そしてそれを交換し、飲み込んで、またあたらしい言葉にできる!なんて面白くて素敵な発想なんだろう。
もちろん言葉の違い、交換は面白い、楽しいことばかりではないけれども…。この本を読んでいたって、えっ、その定義はどうなの?と思うこともあるし、さらっと語られる著者の奇行にぎょっとしたりもする。でも、そういった摩擦も言葉の成長には必要なのだろう。
「友だち(訂正)」の、友だちはなるやいなやすぐに不安定な最終地点に立たされる、というのがすごくわかるなと思った。そしてそれを不安に思うあまり、友だちと呼ぶのを恐れることも。痛みを怖がらないでいたい、きちんと怖がりたい、という著者の勇気に元気づけられる気がした。
もう一回、ゆっくり考えながら読んでみたい本。