あらすじ
河合隼雄が,ユング派分析家資格取得論文のテーマであった,日本神話の意味と魅力を,日本人読者に向けわかりやすく語る.太陽神アマテラスはなぜ女性なのか? ツクヨミの日本神話における役割とは? 世界の神話・物語との比較の中で日本人独特の心性の深層にせまるとともに,現代社会の課題を探る.晩年の主著,初の文庫化.(解説=中沢新一)
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Posted by ブクログ
・科学の知は「私は何か、どこから来てどこへ行くのか」という根源的な問いに対して答えてくれるものではない。
・人間は「物語」なしには生きていけず、神話が信じられているところでは人々は安心して死を迎えることができる。
この部分から非常に納得。あまりにも様々な事を知りすぎてしまって、神話や伝承を信じられるわけではなく、けれどもぼんやりと不安で孤独なのが現代人の苦悩なのだろうな、と思う。
・各個人が自分の生活に関わりのある神話的な様相をみつけ、生きる中で自分の物語を作ること。
ナラティブセラピーの物語る事の重要性にもつながるように感じた。
Posted by ブクログ
ゲームやマンガでよく使われる日本神話の神々。彼らに興味を持ち手に取った一冊。日本人たるものストーリーを知ることは大事だと考え、またそれがどのように日本人の心を形成してきたか知りたかった。他国の神話とも対比させ、比較しながらも多くの類似点があったりと興味深かった。
Posted by ブクログ
「中空構造」「揺り戻し」など、なるほどなぁと頷かされる部分がかなりある。すべて納得! とはいかないけれど、他文化に対するときは(ことに、中核のまったく異なるものをみるときは)命がけの姿勢で学ばねばならないという部分は、個人同士の理解においても適応されるように思うし、他の国の神話との対比も面白い。
また、『民話が、普遍的な心のありようを示すものであるのに対し、神話が、土地と国、つまり民族のありようを決定するもの(うろ覚えですが)』という、著者のほかの本のの文を、いま連想的に思い出した。
『命がけで学ぶ』、『民話と神話』。ここに、私がまだ掴みきれてはいないなにかのとっかかりがあるような気がしている。
Posted by ブクログ
日本神話を丁寧にたどって図式的に説明。
古事記、日本書紀を読みなれている人からすれば、真新しいこともない指摘もある。結論がやや早急すぎて強引な気がする。他国の神話も豊富に引用して比較分析されているのはいいが、話が飛んでしまって読みづらい面も。
Posted by ブクログ
日本神話の中に古代から通底する日本人の心のあり方を探った著者晩年の集大成。深層心理学に基づいた視点により神話のそこかしこに調和を第一に重んじる日本的精神が息づいていることが本書では明らかにされていく。一人の日本人として自分のルーツがどんどん鮮明になっていくようで感慨深かった。日本神話に表れている心性が私個人の中でも中心的な地位を占めていることをいたく実感した。科学は分解する力だと言い、それと対比して神話は統合する力であるとして現代における神話の力の重要性を指摘しているのは、現代人の一人として深く同感するところである。ただし著者が序章で言っているように、現代を生きる私たちは日本神話の物語にそのままフリーライドすることはもはやできない。それを拠り所にしつつ自分で物語を築く必要がある。なんと厳しい世の中なことかと思うが、拠り所にすべきものが一つ分かっただけでも私としてはひとまずほっとした気持ちがした。
以上のように私は主に個人のアイデンティティのこととして読んだが、日本人論や日本社会論としてもとても興味深い。というかそちらが本分である。今の日本または日本人が今後目指すべき道について重要なヒントが提示されていると思う。日本人としてのルーツを明確に見直すと共に今後のあり方を考える道筋を示してくれる良書であろう。学術文庫だが、文章は易しく専門的なややこしい話も出てこないので、広く一般の人でも読める。著者もそれを望んでいるという気がする。