【感想・ネタバレ】ルポ 子どもへの性暴力のレビュー

あらすじ

子どもが性暴力に遭う“場面”は身近に潜む。その実態に迫り、大きな反響を呼んだ朝日新聞連載「子どもへの性暴力」の書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは。

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Posted by ブクログ

その日、朝日新聞を広げて1面を見たときは衝撃だった。子どもへの性暴力に関するルポルタージュが大きく掲載され、他の記事よりも先に目に飛び込んできたのだ。だが私の第一印象は「なぜ『今さら』?」だった。そして記事を読み始める前にはこうも思い浮かんだ-「これって昔テレビでやってた『ウイークエンダー』の再現フィルムみたいに、扇情的になるおそれがない?」と。

しかし読み進めれば、取材班キャップの大久保真紀記者の、従来の同種の報道から一歩踏み出そうとする意思はすぐに伝わった。それは記事に一種の“やさしさ”としてにじみ出ていた。新聞記事にはたしか「読んでいてつらくなったら、無理に読まなくてもいいです」という趣旨の断り書きが付けられていたはず。相手に対して断定口調で正論を言い切ることが正しいという風潮がはびこる中で、それに抗うかのようにまず当事者に寄り添おうとする姿勢から、愚直なまでに「あなたは決して悪くない」と言い続けていたのが印象的な連載だった。

しかし大久保さんたちが単に寄り添うだけの受け身ではないこともすぐにわかった。大久保さんたちが目指したのはおそらく、被害に対して様々な形で苦しみを抱える当事者の“恢復”であり、さらに言えば、わたしたちの先入観の撤廃だ。

わたしたちが「子どもへの性暴力」と聞くとき、まず思い浮かべるのは、幼い子どもが見知らぬ人に人気のない所に連れ込まれて受けるという類型だろう。そこで大久保さんは被害と加害の関係を細かく検証することで、性暴力のパターンをこの本で大きく広げて示している。これからこの本を読む人への一助として、長くなるが例示したい。

・父親から娘への性加害。問題の1つは、母親が必ずしも娘の味方になってくれないこと。
・先生から教え子への性加害。問題の1つは、先生が愛情や好意を前面に出して(もちろん保身のための虚偽の場合もある)、教え子がそれを加害だと認識しにくいこと。また、女性の被害だけでなく、男性教員から男性の教え子へ、または女性教員から男性の教え子への加害もあること。
・保育園での性加害。問題の1つは、幼児自身が被害だと認識しにくいことや、被害があってもそれを誰かに伝えるのが難しいこと。
・児童養護施設での神父からの性被害。閉鎖された状況で逃げ場のない年少者をいたわるという表向きで、立場を利用して自己の性欲を満たそうとする行為。元ジャニーズ事務所社長が立場を利用して所属タレントを性的に凌辱していた事例も被害者側の声として出てくる。


例示を試みたものの、所感としてはこの本の事例の10分の1も書けていないと思う。それくらいこの本であげられた性暴力のケースはあまりにも多様で、当事者も様々なパターンが見いだせる。だが一方でこの本がルポを書きつないだだけで、まとまりのないばらけた印象かというと、決してそうではない。
私はその点がなぜかを考えたが、大久保さんが多くの取材を経て、ばらばらと思われるそれぞれの事象に共通する1本の芯というか核を見出したからではと考えた。そしてそこにこそ、性暴力で受けた被害者の心の傷を寛解する要素があるのではないだろうか。単なるルポとしての連載から一歩進み、その点の気づきのヒントにまで迫った大久保さんの仕事は一定の評価をしたい。

他方で、私が気づいた点を書いていく。まず1つめ。性暴力は最近になって急に噴き出した問題ではないこと。ルポでは60歳代や50歳代の方の告白が多くみられる。これは被害当時言わなかったことを、この問題に敏感になった現代に改めて言い始めたのではない。性暴力がもつ複雑な要因によって、年数を経ないと言い出せなかったというこの問題特有の事情が含まれている。
(だから性暴力の被害はなくならずに過去から現在まで起こり続け、被害者の数が積み上がり続けているという意味で、冒頭で私が感じた「今さら」は間違っている。)
つまり問題の解決には、被害者に対して、いかに相手を責めていると思わせずにアプローチをするかが重要となる。これは自分の家族が被害者になった場合を想像すればわかるが、頭では理解していても実際の相手への働きかけ方は極めて難しい。

2つ目は性暴力問題に関するマスメディアのあり方の再確認だ。事件を速報性をもって載せる新聞の役割はわかるが、その一方でジャニーズ問題やマイケル・ジャクソン問題は噂レベルでは世間にも聞こえてきていたのに、新聞などのメディアが性暴力問題として積極的に報道したことはなかったと考えている。つまり大久保さんが真摯な姿勢で問題にあたっているのは理解するが、そもそも新聞社として、大きな権力に対峙して問題に立ち向かう覚悟を横に置いたままでの対応は、本末転倒だと思うのだ。外国メディアが報道するまでジャニーズ事務所の犯罪的行為を見て見ぬふりをしていた記者集団が、後追いで何か言ったところで問題の核心に迫れるのかというもどかしさが正直に言ってある。厳しいようだが私は大久保さんを含めた新聞社員が、結局は自分の記者人生を賭ける手前の安全地帯に身を置いたままチマチマと記事を書いているという、サラリーマンゆえの理想と限界とのギャップも目に入った。

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2025年08月10日

Posted by ブクログ

朝日新聞に連載されたルポ。魂の殺人というだけあって何十年も影響があったり新しく家族を形成してもそちらに影響が出るなど深刻。能力のある方が性暴力を受けた事で未来が閉ざされるのは言語道断だろう。
読んでいくと卑劣の見本市になっており陰鬱になるが教師など立場を利用した性暴力は本人達の言い逃れ(本書での加害者は基本的にこのパターンだけど)は醜悪。障害者への性暴力は回復への道を閉ざさせておりご家族の方の話を読むに辛くなる。
被害者が加害者になるケースもあり、加害者になって初めて認知というかケアされるというのも酷い話だ。
自分は高校生の頃全寮制の学校に行っていたが性暴力を何回か目撃している。止められなかった自分も不甲斐ないが寮も学校も全く黙殺しており本書を読んで思い出した次第である。実名(もちろん仮名でも)で取材に応じた方々の勇気に敬服すると共に癒される事を願う。

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2025年06月28日

Posted by ブクログ

新聞の記事で連載されているルポをまとめたものなので、紙面で読んだことのある内容もいくつもあったものの、とにかく、ただただ胸が痛い。あまりにも壮絶で苛酷な事実の連続に、仕事柄こういう事例はこれまで何度も見聞きしたことがあって、それなりに耐性があるつもりだった私でさえ苦しくなった。読み終えられないかもしれないとさえ思った。なので少しでも被害経験のある人は、心身に不調をきたすかもしれない。要注意。

支援者として取材されている人物に、複数私の知人がいた。これまで手にした著作の著者や、私自身が受講したセミナーの講師も何人も登場していて、彼らはこれまでと変わらない姿勢で、被害者支援に携わっているのだなあと感慨に耽る。
取材班のキャップを務めた大久保真紀記者は、彼女の担当する記事が私の関心の高いものが多くて、これまでもいくつもの記事を紙面で読んだり、著書を読んだりしていた人物。彼女の丁寧で一貫した姿勢で臨む取材は非常に示唆に富むものが多く、私が信頼して読んでいる記者の一人だ。
本連載はまだ継続中。辛い記事が多くて胸が痛むことばかりだが、引き続き注視しながら、私自身、仕事でも関わることがある事象なので、取り組むべき課題を考えていけたらいいなと思う。

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2025年04月06日

Posted by ブクログ

子どもの頃に性暴力を受けた男女の告白に幾度も涙し、胸が押し潰されそうな気持ちになった。まず、被害者たちの勇気ある告白に畏敬の念を示したい。
彼等のその後の人生は、さまざまだ。被害の記憶に蓋をして忘れ去っていたのに、小さな出来事がきっかけで思い出してしまう人、誰にも言えないまま心に傷を抱えてきた人…。
本書では、被害者たちの話にとどまらず、日本社会の性犯罪に関するデータや、PTSDの具体的な症例、性犯罪にあった子どもが起こしやすい行動など多岐に渡って説明がなされている。私自身、この本で知る知識も多く、性暴力が被害者に与える大きすぎる悪影響について思い知らされた。
加害者側の視点も出てきたのが新鮮だった。彼らが過去に何を経験してきたのか、もしかするとそこに要因があるのかもしれないが、自身が苦しんできた経験を克服、解決しないまま大人になり、今度は自分が加害者になるという悲惨な状況に自覚的になってほしいと思った。被害者のための長期的なケア、本書で繰り返された実践的な「性教育」の重要性はもちろんのことながら、加害者への適切な処罰、化学的去勢やGPSの埋込など、彼らが二度と犯行に手を染めないような法改正も迅速に行うべきである。
なんの罪もない真っさらな子どもたちが、いかなる犯罪にも巻き込まれず、すくすくと育っていける社会を創りたいし、それを諦めたくないと強く思った。

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2025年03月04日

Posted by ブクログ

これは読んでる間ずっとキツかった。
500ページ近い厚さの本で、その中に性被害者から性加害を行った当時者、被害者家族と加害者家族、また支援者や専門家など性暴力について104人の声が収められている。
扱われるケースも様々で、兄弟や父、母など家族内や親戚など近しい間柄での性暴力から、学校や塾、習い事、クラブ活動、部活などの環境で、その立場を利用しての性暴力もある。
また性被害は圧倒的に女性のほうが多いのだが、男性の性被害も当然にある。特に20代に至るまでの性被害は結構多いということがわかった。
また、それは同性愛や少年愛、小児性愛といった性的指向を抱いた加害者からの性被害も当然あるのだが、性加害相手が異性愛者であったとしても厳しい上下関係が規律として定められている場所(例えば寮や施設、部活など)では、自分より下の相手を支配するという欲望が性暴力という形で現れることも多いのだという。
そして男性の場合は自らのマスキュリニティが侵されたという被害者意識=恥として植え付けられることが多い。そのため自分の中でそれは性被害ではないと思い込むことも多いとのこと。そして性被害を受けた当事者が今度は性加害者として、自分がかつてはやられたのだから上に立った自分が今度はやる側に立つという性加害の再生産も男性の場合は起きやすいらしい。

また自分が性被害に遭ったということを信じられなかったり、恥ずかしさなどの理由から記憶から消してしまうことも結構あるらしい。それが理由で(本人はそれが理由だと気が付いていない)躁鬱性や無気力、無感情、逆に激しい暴力性や反抗などが発露することもあるとのこと。
本書の中には60歳近くまで自らに起きた性被害を思い出せないままでいたのに、あるきっかけで思い出した人も出てくる。こういった人たちは理由もわからないまま傷による性格性が表に出ることから周りから面倒な人として見られたりして「何で自分はこうなんだろう」と思い詰めてしまう人も多いんだとか。

一つ一つの体験にはそこで苦しみ、悩み、大きな傷を負ってしまった人々が出てくる。その後の人生にも影響を与え、他人や特定の場所が怖くなったり、フラッシュバックを繰り返したり、鬱病や眠れなくなったり、なかには自ら命を落としてしまった人たちの話も出てくる。

性暴力は魂の殺人と呼ばれる。
男性の中には性暴力は軽いものだと見てしまう人もいるが、本書を読むとその性暴力の被害の度合いに関わらず被害者のどれだけが心に傷を負ってしまうことがわかる。
そしてその傷は癒されるまでに長いカウンセリング期間を必要とする。何なら癒されないまま付き合っていくしかない人もいる。

この本は特に子どもに限ってはいるのだが、読めば性暴力による影響がどれだけ長い年月そして深く暗い影を落とすかがわかる。
特に性暴力が軽く見られる日本で、子どもたちを社会が守り、未来をつくるためにも多くの人が性暴力についての問題意識を持つべきだと感じた。

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2025年10月29日

Posted by ブクログ

読んでいて胸が押しつぶされそうになり、加害者に怒り、そして加害者を罰して排除するだけではこの現状は変わらない、いかに加害者が再犯しないようなシムテムを構築しないといけないんだと初めて知りました。

日本は漫画やアニメで小さな子を対象にした性的表現が横行しているが、外国では規制されているところも多い。
表現の自由を傘に取り、子どもを性的搾取している現状にNOを突きつけられない日本人は、あまりにも幼稚な国民だと改めて感じた。

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2025年06月02日

Posted by ブクログ

とてつもなく重い。
想像のはるか上をいく現実。
実体験を実名で公表された被害者の気持ちを、ほんの微力ながらも、いつかなにかの役に立てるようにしっかり受け止めたい。

性被害にあった子ども(特に男児)が加害にいたる場合がある。早期に性被害のケアを行うことで、加害と被害の連鎖を避けることができる。

れにしても、被害者ケアが日本はとても遅れている。被害者はまずどこに相談を、そして何をしてもらえるのか、どうすれば良いのか、金銭的な負担もしかり。

身近な人の役割として「まずは被害者の『味方になる』のが、あなたの仕事。事実かどうかを確かめるのは他の人の仕事だ」
私にも娘がいるのでこれは絶対忘れないでおこう。

痴漢加害常習者は電車に乗らない環境作り、幼児に対する性虐待加害者は、子どもと2人にならない対策。加害者側の苦悩や努力も知ることができたけど、、結局は、加害者を減らすことが被害者を減らすことに繋がるから、行政が対策することは大事だけど、、極論は一生外に出ないでくれとも思う。

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2025年04月09日

Posted by ブクログ

 こんなにも…沢山の人たちが性暴力の被害に遭われていたことに、強い憤りを感じました。そして、意外にも身近だったことに驚きました。あ…でも、私もあったわ…満員電車で痴漢をされたこと!!声をあげることはできず、途中下車して心を沈めてから帰宅したことを覚えています。それが繰り返されることもなかったので、トラウマにはならずにすみました。

 性暴力は「魂の殺人」とも言われるそうです。その場限りではなく長い間被害者を苦しめ、その後の人生に大きな影を残すばかりか、PTSDやうつなど発症し社会生活が営めなくなったり、最悪の場合命を落とすこともあります。そして、「プライベートゾーン」という言葉を初めて知りました。水着で隠れる大事な部分と口をそう呼び、人に見せない、触らせない、人のも見ない、触らないというルールを、近年教育現場では子どもたちに教えているようです。この書籍に、声を寄せてくださった方々…すごく勇気が要ったと思います。読んでいて、心が苦しくなりました。でも目を背けずに知ることも大切なことですよね!

 最後に、私たちはどうしたらいいのか…。
 『社会のすべての人が、同意のない性的な行為は「性暴力」であることを理解すること』 『「何があっても被害者は悪くない」ということを社会の共通認識とすること』
あとがきからの抜粋です。

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2025年03月25日

Posted by ブクログ

読んでよかったです
加害者が悪い、という結論だけでは語れない問題だなと。被害が存在するなかで明かされて来なかった現実が、この本でほんの一部かもしれないが知れた気がする。でもそれで満足して全てを知った気になるのではなく、引き続き考えていきたいテーマだった。
避ける人も多く、難しい問題ではあるものの、丁寧に説明されているため、比較的読みやすくまとめられているのではないだろうかと思う。

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2025年09月17日

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