【感想・ネタバレ】ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質のレビュー

あらすじ

「ブランディング」という言葉ほど、多くの誤解をはらんでいるマーケティング用語はありません。

最大の誤解は「ブランディングをすれば売り上げが上がったり、業績が回復したりする」という過剰な期待にあります。ブランディングの成功例として必ず挙げられ、広告業界で伝説的と称される米アップルの「1984」や「Think different.」ですら、業績への影響はほとんどなかったことをご存じでしょうか。
そうした過剰な期待を抱きながら、ブランディングの成果を業績と直結する指標できちんと効果分析されているケースは非常に少ないのが現状です。

筆者もプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に所属していた20代のころに、「ブランディングの誤解」による数多くの失敗を経験しました。
ブランディングの測定指標にも悩みました。一般的にブランディングの指標としては認知度、好感度、NPSなどがよく使われます。ただ、これらの数値が高くなっても、必ずしも事業がうまくいくわけではありませんでした。ずっと「ビジネスの今後を予測できるような先行指標がほしい」と考えていました。

本書では、既存のブランディング論やブランド論に関する解説は最小にし、数々の有名な巨大ブランドがつくり出す誤解や罠の解説を含めて、具体的な事例を用いて、ブランディングの効果を最大化するための考え方を紹介。どのように目的を設定すべきか、中小企業が目指すべきニッチブランドとは何かなど、誰もが実務活用できる「ブランディング」を解説します。

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Posted by ブクログ

 ブランディングの主たる目的は、商品・サービスを売るためではなく、あくまで商品・サービスを記憶し、識別しやすくするためのものです。ブランディングそのものが、買ってもらうための「便益」になるわけではありません。
 BtoC(消費者向け)、BtoBを問わずほとんどのカテゴリーにおいて、購入される理由、継続的に購入してもらえる理由は機能的な便益や独自性です。ブランディングとしての記号化は、それらの便益や独自性を競合や同類から区別するものです。
 ブランディングは、付加的な価値として情緒的、感情的な好感度を生み出すことはできますが、好感度だけでは購入にはつながらない可能性が高いことを理解しておく必要があります。そもそもの商品・サービスの便益や独自性が弱ければ、ブランディングに大きな投資をして、ブランドに対する好感度などを向上させられたとしても、継続的な購入にはつながりません。


 筆者が所属していたプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)でも、1990年代から、ブランドエクイティの概念はマーケティングに導入され、活用されていました。ですが、厳密な調査を土台に運用されていました。
 具体的には顧客が実際に認知しているブランドのイメージである結果としての「ブランドエクイティ」と、企業視点で顧客に認知してもらいたい期待としての「デザイアード・ブランド・エクイティ(望ましいブランドエクイティ)」を分類して運用していました。
 しかし、多くの企業では、このような区別はなく、「顧客が既に持っているイメージ」「企業が発信するイメージ」「企業として顧客に期待するイメージ」「売り上げや利益に貢献するイメージ」「売り上げや利益に貢献しない(するかどうか分からない)イメージ」などが一緒くたにされ、無用な混乱と誤解が起こっています。
「ブランディング」とは、BRAND=あるべき姿を規定し、形にし、ING=あらゆる活動を通じてそれを伝達、浸透させることです。
 ブランド・マネージャー認定協会によれば「ある特定の商品やサービスが、消費者・顧客によって『識別されている』とき、その商品やサービスを『ブランド』と呼ぶ」とされています。
 つまりブランドとは、消費者や顧客から自社の商品・サービスが、他の企業の商品・サービスとは「違うもの」として認められることで成り立つものです。ですから、ブランディングとは単に認知を高めることではありません。
 アップルをはじめ、現在成功しているブランドの多くが独自性のあるロゴやネーミングをつくり、最初から消費者や顧客が識別しやすくしていたという点は重要です。ですが、必ずしも、それが直接的に売り上げを上げたり、顧客を増やしたりする要因にはなっていません。
 自社の商品・サービスと他社のものとが明らかに区別されること、消費者や顧客に「その企業ならではのもの」として認識させるための取り組みがブランディングです。そこでは、自社が伝えたい企業や商品の価値と、顧客が購入したり、使用したりするにあたって必要とするイメージを一致させることが大切です。
 他社と区別できると、集客、販促、PRといったマーケティング全域において優位性を保つことができます。「このカテゴリーなら、このブランド」といったイメージを定着でき「顧客から選ばれやすくなるため、市場競争力が高まります。


ブランティングの3つの目的
①プロダクト(商品・サービス)の記憶化と想起性の確立
・顧客が価値を見いだす機能的な「便益」と「独自性」の特定
・価値となる機能的な「便益」と「独自性」の記憶化と想起性の確立
・商標の法的保護
 →購入の継続性
ブランディングがもたらす6つの効果
(1)競合からの区別化
 ブランドネームやロゴ・意匠などで、他競合とは区別されて認識されるようになる。
(2選択意思決定の単純化・固定化
 顧客の認知が整理されることで、再び同じ物を選ぶようになる。
(3)顧客のロイヤル化
 商品・サービスの便益と独自性が記憶され、ブランドロイヤルティー(継続購入、購入頻度、購入単価)が形成される。
(4)価格優位性の獲得
 同じ品質・スペックの商品について、競合よりも高い価格で販売が可能になる。
(5)価格競争の回避
 「顧客にとっての価値」を無視した価格競争に参加する必要がなくなる。
(6)プロモーションコストの削減
 (1)~(5)の結果、販売促進のコストを低下させられる。

②情緒的・心理的価値の提供
・機能的な便益と独自性に付加する、「情緒的・感情的な便益と独自性」
 →付加価値の創出

③インナー、モチベーション、リクルーティング
・ビジョニング、モチベーション、リクルーティング


ブランディング実施の3つのステップ
ステップ1:商品・サービスの便益と独自性の明確化
ステップ2:その便益と独自性を「誰に」伝えたいのかを、カスタマーダイナミクスのフレームワークを用いて明確化する
ステップ3:対象者に便益と独自性を伝える上で最も適切な施策を検討する


 そこで、NPIの優位性を検証するため、M-Forceとマクロミルで6カテゴリー・ブランドに対する調査を実施しました。調査では対象カテゴリーとブランドのそれぞれで、20年12月に実施した調査で取得した認知度、満足度、好感度、NPS、NPI、半年、1年が経過した後の金額シェアの相関を調査しました。これらのマーケティング指標と市場シェアを、半年後、1年後でそれぞれで比較して相関関係を分析しています。相関性が高いほど、未来の市場シェアを予測する有効な先行指標だと言えます。その調査結果が上表となります。数値が1に近づくほど、相関性が高くなります。
 半年後、1年後の市場シェアとNPSを比較した結果、相関係数は0.276と最下位でした。これは、NPSが高くても、顧客自身がその商品やサービスを継続的に購入するかどうかには大きく影響しないことを示しています。
 一方で、NPIは市場シェアとの相関性が高く、1年後の相関係数は0.713と最も高い数値を示しました。これは、NPIが市場シェア拡大の先行指標として有効であることを示しており、ブランドの強さや成長性を見極める上で重要な指標として活用できることが証明されています。さらに、u-NPIについても同様に、リピート率や購入頻度と強い相関を示しており、NPSとは対照的に、実際の購入行動に密接に関連する指標であることが明らかになっています。



NPIの割合:高、u-NPIの割合:高
・既存顧客の維持率が高く、継続的な利益の獲得が見込める
・かつ、市場全体の購入意向も高いため、新規顧客の獲得がしやすく、CPA(顧客獲得単価)も低く抑えられる
・既存顧客の離反を上回る新規顧客獲得と高い定着率が見込める理想的な状態

NPIの割合:高、u-NPIの割合:低
・既存顧客のリピートが見込めず、一過性の消費になりやすい
・市場全体の期待は高いため、一定の新規流入は見込めるものの、離反しやすく顧客の入れ替わりが激しい
・広告やPRに多額を投資し、市場の期待は高めたが、商品自体の魅力が薄い場合に起こりやすい

NPIの割合:低、u-NPIの割合:高
・既存顧客の維持率は高いため、一定期間は継続的な利益の獲得が見込める
・市場全体での購入意向は低いため、CPAは高くなる傾向があるが、一度購入されれば定着する可能性は高い。未購入層のNPIが低いままだと、ニッチ化する可能性がある

NPIの割合:高、u-NPIの割合:高
・既存顧客のリピートが見込めず、新規顧客の獲得も期待が薄い
・市場全体の期待が低いため、新規顧客獲得と既存顧客の維持の両方に大きな課題がある


中小企業のブランディングの基本的な戦略
 1つめは、「自社の商品・サービスに備わっている強い便益と、他の選択肢を選ばない独自性を定義する。そして、その価値を見いだす顧客を特定し、その顧客層に絞り込み、愚直に提案し続ける」こと。そして、2つめは「価値を見いだしてくれるかどうかが分からない不特定多数に提案するような施策や投資は避ける」ことです。

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2025年05月03日

Posted by ブクログ

著者の本はわかりやすい。ブランディング流行りに、くぎを刺す一冊。ブランディングの基本は独自性=「他を買わない理由」、適切性=「そのブランド買う理由」と説く。DifferenciationとRelevancyという以前に習ったことがそのまま書いてあり納得。さらにそこから好感、ファンになっていくという習ったことばでいうとEsteemにも言及されている。マーケティング、ブランディングにかかわる人にはお勧め。

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2025年02月27日

Posted by ブクログ

私が西口さんのファンなので、果たして公平に評価できているか不明だが、今回の書籍も大変面白かった。
ブランディングの目的をお忘れではないですか? というお話だと解釈した。いつものN1の観点からブランディングへの見解を示している。
そもそもブランディングには商品やサービスに便益と独自性が必要というお話には全く同感だ。
西口さんの書籍からは、いつも顧客視点の大切さを再認識できる。私にとっては、繰り返し読みたい大切な1冊になりそうだ。

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2024年12月25日

Posted by ブクログ

ブランディングとマーケティング。広告業界では当たり前のように使用される概念だが、その実ピントハズレな議論になりがち。そこのところを上手くまとめていると感じた。

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2025年04月13日

Posted by ブクログ

【販促にお金をかけるか、ブランディングにお金をかけるか】美味しくなれば売れるだろう!と踏んだコーラは昔、"ニュー・コーク"を売り出して失敗したらしい。失敗から学ぶ、ブランディングの基礎本、それが本書です。

マーケ起点で一貫して物事を考えているので、かなりロジカル。明日から仕事に活かせるし、誰にでも真似できる手法。でもわたしは、潜在的な欲求を掘り起こして人間の本能に働きかける、ジョブス的圧倒的クリエイティブにめちゃくちゃ憧れがあるので頭の隅にだけ置いておきます。笑

point
・独自性は言い換えれば、他の商品やサービスを買わない理由
・企業の多くが自分たちが伝えたいこと、売りたいことが顧客にとっての価値だと思い込んでいる
・大事なのは、便益や独自性を通じてどんなイメージを形成したいか
・そのイメージは顧客が求めるものと乖離はないか

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2025年08月09日

Posted by ブクログ

まずはモノやサービスの良さを高め、人を中心に置いて広げていく。

ブランディングという概念は誤解されがち。アップルなど印象的な広告を出しても売上に繋がってないことなども盛り込みつつ、じゃあどのようにブランディングすれば良いかを、本書は問うてくる。

印象的だったのは、4Cの中心に本来は人を据えるということ。今は欠けて紹介されるため、人(顧客)を考えずにプロモーションなどしてしまうのは、あらためて聞き腑に落ちた感じがある。 顧客の声に耳を向けるで,前に読んだN1分析も入ってきて、あらためて繋がりを感じることができた。

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2025年06月14日

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