あらすじ
味覚障害の青年・魚住真澄は、学生時代の友人・久留米充のアパートに居候している。味覚を失ったのは、生きる意味を失ったから? インド人の血を引く隣人サリームに、久留米の元彼女のマリ。日常に潜む生と死、哀しみと喜びの物語。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
ハードカバーの装丁がとても綺麗。
大雑把でヘビースモーカーな一社会人である久留米と、美しいけれど生活力ゼロな魚住の、スローテンポな愛のお話。
ふたりの他にも、近所に住むインド人留学生サリームや、魚住の友人で放浪癖のあるマリ、魚住の上司である微あて馬な濱田など、まるでこの日本のどこかで本当に呼吸をしていそうな生きた人物が存在する。
本が離せなくなってしまうような流麗でやさしい文章が脈々と流れている。最後のページまで言っても、まだまだずっとかれらの日常を覗きたいと思えるような、余韻に浸れる小説。とてもすてき。
哀しいほど暗い過去を持つ魚住と、それを無自覚ながら丸ごと受け入れてしまう久留米がすこしずつお互いに寄り添っていく様子が丁寧に描写されています。
綺麗な文章にひとめぼれして以来、何回も読み返しています。続編の「夏の子供」と一緒に。
俗にいうBL小説の中でもここまで洗練された文章力や安定した世界観、立った登場人物を持つ小説はめずらしいです。
「こんなにすごい小説を書く方がいるのかあ」と思って作者さまを尋ねてみれば、これが榎田尤利さんのデビュー作と知って、信じられない気持ちになりました。まさしく文壇の鬼才と言うべきでしょうか。
Posted by ブクログ
完読しました。
文庫全5巻が、ハードカバーで上下巻になってます。
喪失に重なる喪失で、自分を無意識に追い込んできた魚住と、
それを支えることもしない、出来ない久留米との不器用な恋。
魚住たちを取り巻く人物が本当に魅力的で、誰一人として
ご都合主義的役回りを演じない。
マリにサリーム、響子に濱田、其々が其々に沢山の物を抱え、悩み、
それでも誰に依存するでもなく淡々と物語が進む。
ストーリーの随所に泣きどころがあり、それは読む人間によって、
其々全く異なる場所であると思う。
本当に些細な一言で、ぼろりとくる。
御涙頂戴的展開なら、きっと上巻の『夏の塩』の方がぼろ泣きできると
思うが、私は幸福感が生まれて来た下巻『夏の子供』の方で沢山
涙した。
そして今回の復刻にあたり書き下ろされた話で物語が締められて
いたが、これがまた涙腺直撃。
Posted by ブクログ
これは・・・・・・感動したー! 一気読み。
おもわずファンブックも買ってしまった・・・・・・
これでもかというくらいの不幸を背負った主人公、魚住。
過去のみならず、同時進行でもこれでもかという出来事が襲う。
(読み進めながら、そこまで負わせないであげて! と懇願したくなるくらいの不幸っぷり。)
本巻の最後なんて、思わず本を握りしめながらひぃっと叫んでしまったほどだ。
それでも読むのが嫌にならないのは、魚住その人が感情を強く押し出さず(まあ出せないんだけど)淡々としていることと、自覚なしでその包容力を披露する久留米があっけらかんとしていることが大きい。
それに、二人を取り巻く主要登場人物たちの折り重ねる群像劇的ストーリーが明るみを与えて本編が暗くなりすぎないのを助けている。
そして、最後にはちゃんと救いが待っている。
シリーズ完結までに7年をかけたというだけあって、最初はちょっと読みづらいかな、と文章に違和感を覚えたのだけど、それも後半になるにつれて滑らかになっていった。
それにしても、免疫、ゲイ、男の娘、HIVなど飽きさせない、関心深い要素がわんさかでてくる。作者はアンテナの広い人なんだなあ、と感心した。それに対する(登場人物たちを通じての)考えも公平で、好感を持てた。
一般向けじゃないのがもったいないくらいだけれど・・・・・・世間一般ではまだまだ受け容れられにくいジャンルなんだろうなあ。残念。