あらすじ
「お屋敷の中で見たり聞いたりしたことを、他人に話してはいけません」。倉元家へ奉公に上がったよし江に、女中頭の聡子は告げた。ある時、顔馴染みの御用聞が、配達の途中で二人続けて行方不明になる。警察は店の台帳をもとに彼らの配達先を訪ねるが、みな口を閉ざす。よし江もまた、倉元家で見た「あること」を警察に言えずにいたが… …。
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Posted by ブクログ
昭和33年、目黒の洋館”倉元家“で住み込みの女中として奉公するよし江。
「お屋敷の中で見たり聞いたりしたことを、他人に話してはいけません」女中頭の聡子は言った。
のっけから不穏な気配に包まれる。
一方、目黒坂下交番の脇田巡査部長は、立て続けに起きた2人の若い御用聞きの失踪が気に掛かっている。配達先は皆聞き込みに口を閉ざす中、2人が最後に配達したのが倉元家だと判明する…。
よし江、脇田目線の章にその63年後の“篠田家”の章を織り込みながら話は進む。
過去と現在、時代背景は懐かしく、価値観の変化も面白い。肝心の謎が次第に明らかになっていく過程もスリリングでミステリとしても申し分ない。
物語を覆う不穏さは最後まで消えず、緊張と弛緩のバランスも絶妙で読み飽きない。
特に、物語最後のある仕掛けには小さな感動すら覚えた。
久々に面白いミステリに出会えました。
Posted by ブクログ
1958年(昭和33年)から、現代の202x年まで続く謎。
篠田(旧姓・長田)よし江は昭和16年3月30日生。
14歳で秋田の横手から上京。戦後の六三制の義務教育が始まっていた頃。家が貧乏だったこともあるが、高校へ進学せず、中学を出たら東京へ出て女中になる、それは憧れでもあった。
目黒の倉元家に女中として5年間勤めた。上司(?)の女中頭・村木聡子(むらき さとこ)には、お屋敷の中で見聞きしたことは決して外に漏らしてはいけないと言い聞かせられた。
それは、お屋敷を出たあとも続く呪縛である。
昭和35年の場面で刑事が、容疑者に対して、戦後15年も経った今でも、そういう身分制度にこだわっている人たちがいるのかという発言をしているが、今現在202x年の私たちから見ると、昭和35年は遥か遠く、戦後15年「しか」経っていないと感じる。
刑事は、世の中はもう変わったと認識していたかもしれないが、終戦でいきなり身分と財産を失った「華族」が意識を変えるのに15年は短すぎると思うのだ。いや、「出自」というものは死ぬまで意識の中に核心となって存在し、死ぬまで変われないのかもしれない。
同じ時代の中に肉体が存在していても、気持ちは同じ時代を生きてはいないのが村木聡子だった。
そしていくつかの物を墓場まで持っていったのだろう。
「お屋敷の中で見たことは話してはいけない」という呪縛に囚われ、悩んでいたよし江が80歳を過ぎて、やっと呪縛から解き放たれる。
その結末は分からないが、あの熱心だった刑事の息子が対応してくれて、何かが明るく解けた気がした。
長い物語だった。
Posted by ブクログ
戦後の時代、あるお屋敷に奉公に上がった女中、よし江の話。
ワタシ、昭和の時代の地方から東京に出てきた女中さんの話、その雰囲気とかがすごく好き。素直に丁寧に暮らしている雰囲気が好き。
「小さいおうち」は戦前だったと思うけれど、女中さんのお話で、あれも好きだったな。
第1章は、女中さんのよし江が中心の話。
お屋敷に出入りする御用聞が、配達の途中で二人続けて行方不明に。
第2章は、刑事が中心の話。
お屋敷の主人が、殺される話。
雰囲気とか文章とかは、すごく好きなんだけれど、
事件の方はいまいち。
お屋敷の主人が殺される話は、まあ、納得いたしました
・・・が、御用聞2人の事件は、なんだかすっきりしませんけど
なんで殺されたのか、ワタシさっぱり分からないのですが。
・奥様は、激しやすい性格だった。虫を殺す。
・男性2人とも、東北出身、色黒がっしり体系で無口だった。
・男性Aは自転車で女子と2人乗りしていて、奥様がそれを見ていた。
・男性Bのマフラーに、奥様が反応した。
・よし江は2階の窓から、裏山へ1人で歩く男性(たぶんA)を見た。
・その男性を見た夜、奥様は熱をだした(らしい)、夜中に物置をガサゴソする音がした。
これくらい。
これだけで、2人の殺人事件の謎を解けと言われても、
殺害動機も殺害方法もさっぱり分かりません。
他の人の感想を検索していたら、Yahoo知恵袋で質問にAIが「主人公の夫の正太郎が妻の浮気を疑い、嫉妬で殺害」と回答していた。
いや絶対違うだろう!AI あてにならない!
って、正太郎ってだれ?屋敷の主人は宗一郎だし。
Posted by ブクログ
この頃の時代設定はたまらなく心揺さぶられる。ネット注文して宅配業者から日用品が届くようになった今だが、御用聞さんが各家々に立ち寄り注文を取り、米や醤油、お酒、かさばる日用品などを届けてもらっていた時代を生で味わった(サザエさんにも出て来る)。御用聞さんは裕福な家だけでなく庶民の家も回っていた。懐かしい時間を共有できる本書は居心地が良くさくさくと読めた。そういう時代に抗った時もあるのに、今の若者より描かれた登場人物らは身近に感じられ好ましく想像も膨らませやすい。それもそのはず、著者である天野節子さんは御年79歳と知り頭が下がる。プロフィールに依ると自費出版からスタート、作家デビューを大型新人として60歳で果たし注目を浴びている大先輩。 人物のキラキラネームに戸惑うことなく名前も憶えやすく、丁寧でゆっくりと進むストーリー展開は快かった。
しかし・・・
顔馴染みの御用聞が配達の途中で二人続けて行方不明になるという事件が発端だった。屋敷の当主が殺される何よりも、東北出身の純朴な青年・御用聞がなぜ殺害されなければならなかったのかが私にはずっと気がかりだった。読み進む主な原動力となっていた。前半は御用聞き2人が消えたという事にかなりのページが割かれていた。後に彼らの死体が発見されたけれども殺害動機や事件の全容が書かれないまま、読者の想像に委ねられる形で終わっている。真相が暴かれる期待は見事に裏切られた。華族の末裔である絶世の美女・瑶子奥様の嫉妬? 彼女の恋情を察したお付き乳母・聡子(実際は実母)が2人を殺めた? きっちりとした殺人動機を書いて欲しかった。瑶子が発達障害めいた病歴があるにしても動機として弱い。
もしくは、「他言せず」のタイトル通り、女中のよし江が”御屋敷で起きたことを人に漏らしてはいけない”教えを頑なに守り通した実直な人柄が災いして、事件の解決に時間がかかったと筆者は言いたかったのだろうか?
本書が後の『骨を喰む真珠』に繋がっていくような路線でスリリングだったからこそ、口惜しい。