【感想・ネタバレ】蕩尽王、パリをゆく―薩摩治郎八伝―のレビュー

あらすじ

昭和初期、正真正銘の「セレブ」として、パリの社交界で輝いた日本人がいた。木綿で巨利を得た貿易商家に生まれ、ロンドンに留学。コナン・ドイルや「アラビアのロレンス」、イサドラ・ダンカン、藤田嗣治といった著名文化人と交流し、自分の財布からフランス政府にパリ日本館を寄贈した「東洋のロックフェラー」の決定的評伝。

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Posted by ブクログ

フランス文学者の書いた、フランスを愛し過ぎた蕩児・薩摩治郎八についての評伝である。

この人は、突き抜けた人が好きなんだなあ、と改めて思った。薩摩治郎八は祖父と父が築いた財産を一代で蕩尽した男だけれど、その金の使い方は彼なりの美学に基いたもので、各方面に影響を与えることになっている。芸術を解し才能を愛しパトロンとして惜しげもなく援助し、窮地に陥る知人には我が身を投げ打って尽力する。それは私財があらかた尽きてからも変わらず、大戦中の困難な時期に手を尽くして渡仏したのも私欲だけではないだろう。

この評伝はとても変わっていて、というのは治郎八は時間に関する記述にきわめて不正確な面があり、その事実を確認するために複数の文献から立体的に彼の記述を見いだし、事実を炙り出す作業の様から披露している。この苦労してる様がさながら探偵のようで、その外側の物語を内側の治郎八の物語とともに楽しむこのなるのだ。

そして、帰国して日本で暮らす晩年についての最後の章がまたいい。ちゃんと自分を楽しんで生きていたんだな、彼は。

女とパリと芸術を愛したこんな豪快な愛すべき男がこんな時代にいただなんて。いいものを読ませてもらいました。

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2026年02月22日

Posted by ブクログ

面白そうなタイトルだな…と思ったら「馬車が買いたい」「明日は舞踏会」の鹿島茂さんの本だったので、手に取りました。

それにしてもまあ、昔の紳士たちは格好良かったのですね…。生活することが仕事、という恵まれた人々は、そう多くはありませんが、薩摩治郎八という人は、まさに生きることが芸術であり、仕事であった。勤勉に働いて、慎ましく暮らすことの幸せは、我が身に似合うものと思っていますが、読むだけなら、自分と全く違う人生を歩いた人のことを知りたいと思います。

無理に真似したり憧れすぎる必要もないけど、すごい人がいたんだなあって、感嘆するばかり。夢のようなお話の中にある、ひやりとするなにかに触れられたらそれこそ読書の楽しみというものです。

それにしても、この本を読んで印象的だったのは、お金に飽かせた豪遊が素晴らしいのではなくて、良いものに囲まれて生きた人は、生き方の進退挙措が潔い気がすることです。その点で、薩摩治郎八という人は、きっと一級だったに違いありません。

大正から昭和のある時期までの爛熟した文化が生んだ洗練を身体と心で具現化してみせた人たち。心優しく教養も高く、胆力もあって。芸術や美しいものを愛する、やっぱり桁外れですね。

ところで、この本をきっかけに、獅子文六さんの本を読みたくなりました。確か実家に一冊あったけれど、変わったお名前だなって思っただけで子供の頃の私は見向きもせず、処分してしまった覚えがあります。人気作家だったのよ。知らないの??と呆れられました。むー、一体何の本を手放したのでしょう。関係ないけど気になる~!

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2024年07月10日

Posted by ブクログ

NHK「知恵泉」で「伝説の蕩尽王 薩摩治郎八 金は粋に使え」を観て。
この番組を観なければ、読まなかったかも知れない本。
テレビでは、華やかなパリの武勇談よりも、一文無しになって帰国してからの姿に薩摩治郎八の真の姿を見出していて共感が持てた。
薩摩治郎八が、パリで800億円を使って得たのは、文化的素養と、ダンディズムだったのではないか、と思ったのだ。
無一文で安アパート に暮らしながら、浅草のストリップに通い、安食堂のメシを美味しそうに食べる姿に、永井荷風に似たダンディズムを感じるのだ。

本書は、鹿島茂の書にしては、残念ながら、魅力に乏しい。
彼は、ナポレオン、フーシェ、タレーラン更にはナポレオン三世のような政治的怪物に対してしか心底燃えることはないのだろう。
だから、本書は、彼にとっては気楽な「余儀」的な作品と言えるだろう。

題名『蕩尽王、パリをゆく』にあるように、主眼は、「蕩尽」と「パリ」にある。
それは、華やかな、夢のような、法螺話のような時代を描いている。
だが、人間の面白さというのは、全盛時代を過ぎた後にどう生きるかにある、と年を取ると思うようになる。
そして、その「蕩尽王」のその後は、簡単に触れられているだけだ。
そこが残念なのだ。
蕩尽の末、真のダンディズムを身につけた男の、老残の色気をもっと書いてほしかった、というのが偽らざるコメントだ。

彼の武勇談は途轍もなく面白い。
イザドラ•ダンカンのキス、コナン•ドイルとの邂逅、「アラビアのロレンス」と出会い、藤原義江との友情、吉田茂との出会い、更には、藤田嗣治のパトロンとなり、作曲家のラヴェルと肝胆相照らす仲となり、フランス人の恋人の夫である有名ピアニストを日本に招待したり、する華やかなる交友関係。
ロレンスの影響によるフランス外人部隊への入隊。チャーチルの息子との友情。
パリ日本館を父親の財力で寄贈する気風の良さ。
純銀のクライスラーを薄緑で塗って、美人の夫人とカンヌに繰り出すべらぼうさ。
眉唾と思われるようなエピソードの数々。
だが、鹿島は、それらに誇張はあっても虚言は混じっていないと断ずる。
「バロン•サツマ」と呼ばれた、決して自らは稼ぐことなく、父祖の財産を見事に使い切ることに芸術を見出した男の滅法面白い物語がここにはある。

死んだ時、夫人が、彼の好きだった「シャトー•マルゴー」で唇を湿らせた、という。
夫人も粋だ。




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2025年06月16日

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