あらすじ
南北戦争下のルイジアナ。戦場での過酷な体験に苛まれ、伯父の農園で無為な日々を送る外科医のウェイド。殺人容疑を掛けられ、ウェイドの助けを借りて農園から脱走した奴隷女性のハンナ。さまざまな運命に翻弄される彼らが、最後にたどり着いた真実とは――。
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Posted by ブクログ
名作★5 人間がやってしまう最も愚かな所業「戦争」狂気と凄惨さに希望も見えない #破れざる旗の下に
■あらすじ
南北戦争時代のアメリカ南部ルイジアナ。歩兵連隊に従軍していた外科医のウェイドは、辛い体験をして伯父チャールズの農園に身を寄せていた。その農園の奴隷として働いていた黒人女性のハンナは、かつて幼い息子と生き別れてしまい傷心の毎日を送る。
巡査のピエールは、農園主スアレスが殺害された事件を追っていた。ハンナが関係していると睨んだピエールは自身の根拠だけで逮捕してしまう…
■きっと読みたくなるレビュー
名作★5 日本人には馴染みが薄い、アメリカ南北戦争の悲劇を描いた戦争小説です。
将校をはじめ、奴隷、警察、傷痍軍人、奴隷廃止論者など様々な人間を描く群像劇で物語は展開されます。決して長い物語ではないですが、一文一文に重みのある純文テイストの小説になっています。
この本を読んでると、その時代、その場所で生きているかのような錯覚を覚えてしまう。略奪や殺人が当たり前のように行われていて、すべての人が不幸を抱えている世界。
意味があるのかないのかわからないうちに、次々と人が亡くなっていく。豊かで幸せな暮らしや、自由を勝ち取るために戦っているはずなのに、そこには悲劇と惨劇しかないんです。
見るに堪えない奴隷の扱いが、もはや動物以下であまりにも酷い。魂が抜けてしまった彼女がたちが、どんな惨めな気持ちで日々生きているのか。現代の日本人である私では解釈しきれず、受け止めることもできませんでした… 可哀想なんて陳腐な言葉では整理できない、まさに地獄の在り様に虚しさしか残りません。
それでも差別の現実に疑問を感じ、手を差し伸べてくれる白人たちもいる。しかし差別を受けている人間の気持ちは、その立場にならない絶対に理解できない。抗うことができない虚無感が胸に広がっていき、何処に怒りを向けていいかもわからなくなるんです。
また本作には様々な登場人物が出てきますが、特筆したいのは第三勢力レッドレッグのヘイズ大佐。規律を重んじる軍人たる人物でありながら、偏った思想の持ち主。梅毒に侵され、常に苦しみの中にいる。
戦争に加担する狂人ながらも、人間性を味わってみると、実は至極当たり前の価値観を持っている。現代でも起きている強欲に満ちた戦争の卑劣さに、あらためて気づかさるのです。
そして彼らの歩みの終着点、勝っても負けても行きつくのは地獄。たとえ生き残ったとしても、罪の意識や過去の悲痛な思いは消えることはないんです。血にまみれてしまった希望は、いったいどんな輝きを放つことができるのでしょうか。
戦争の恐ろしさや狂気を丸ごと体験させてもらえる作品です。不安定な国際社会である今こそ読んでおくべき一冊でした。
■私とこの物語の対話
どんな理屈があろうとも、戦争に正しさがあるなどと言わせてはいけない。
他の動物に比べて優秀な頭脳をもっているはずの人間が、狂暴で残忍なだけの生き物になってしまう。戦争に巻き込まれている地域にいる人々も、当然ひとりひとりに家族があり、大切な財産がある。あらためて戦争なんて一日も早く終わらせるべきということを学ばせていただきました。
Posted by ブクログ
南北戦争時代のアメリカが舞台
日本人の多くは教科書に書いてあったことしかイメージが付かないが、アメリカが引き摺るには重すぎる歴史が伺える
単なる権力闘争の内戦ではなく、また単なる南北の対立だけでもない、人が人を殺してしまう憎しみと狂気が入り混じっている
敵は一つではなく無数に存在し、更には自分の内面にも存在する
単なるミステリーではない本作品
元々純文学作家であった筆者の文章は評価が高いが、純文学苦手の私には個人的に少々難があった
Posted by ブクログ
南北戦争下のルイジアナを舞台にした物語。この種の小説は沢山読んだし、「風と共にさりぬ」でも十分とか思っていたが、見方をかえるとこんなに違うんだと、改めて感じた。