あらすじ
さりげなく見える“日常”の底に、人間の“生と性”の深層を鋭く抉り、苛烈にして鮮烈な洞察の世界を描き出す、時代の尖端に立つ富岡多恵子の鮮やかな達成――。話題作『波うつ土地』『芻狗』の二著を収録。
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Posted by ブクログ
個人的には「坂の上の闇」が最も面白かった。主人公福間一紀の心理分析や心境変化を極力排し狂気性を持った異行動の描写により読者へそら寒さを感じさせることに成功している。一転して福間大夫との関係性は、おそらく男色による性の抑制による暴発と過去そして先々に渡る精神的軟禁を思わせ、それらの事実を語ることなく読者へ訴えかける手法は見事だ。この作品があまり話題に上ることがないのが不思議なくらい出来がよい。
次点で「芻狗(すうく)」。「芻狗」とは神前に供える藁細工の犬のことであるが、顔のない「わたし」が人身御供として淡々と男性と性行為を重ねる姿は性を軽んじることで生を虚無化しているように映る。ラストの遊園地は日常と非日常そして「わたし」の異常性が顕著に表現されておりとてもシュールなシーンだ。
・・・と称賛コメントを書いたが、「波うつ土地」ほか作品は、文学作品としての質の高さはわかるものの個人的にはあまり面白くなかった。小説には個々人の好みがあるが、富岡氏の作品はこれ限りになりそうだ。