【感想・ネタバレ】戦時下の政治家は国民に何を語ったかのレビュー

あらすじ

初の普通選挙、太平洋戦争、そして終戦。時の首相は、壇上から何を訴えたのか――

昭和の幕開けから戦時体制へ、歴史が最悪のシナリオに向かう過程で、時の首相は、各党の指導者は、国民に何をどのように語ったのか。1928年に初の普通選挙に臨む田中義一から、1945年の終戦時に内閣を率いた鈴木貫太郎まで。昭和史研究の泰斗・保阪正康が、NHKに残された戦前・戦中の政治家24人の演説の肉声を活字にして、その一つ一つに解説を付しながら、太平洋戦争までの実態を明らかにする、類を見ない一冊!

【内容】
第一章 初の普通選挙に臨む
田中義一――初の普通選挙法に向けて
浜口雄幸(1)――経済難局の打開に向けて
浜口雄幸(2)――総選挙に臨む立憲民政党の立場
尾崎行雄――「憲政の神様」の総選挙
安部磯雄――無産政党の使命とは
大山郁夫――政治的自由獲得のための闘争

第二章 満洲事変勃発
若槻礼次郎――ロンドンより海軍軍備の縮小について
犬養毅――満洲事変後の日本の根本問題
永井柳太郎――日本は政友会の日本ではない
井上準之助――金輸出再禁止の決行は誤り
高橋是清――財政支出が需要拡大を推進する
斎藤実――「非常時の覚悟」をもって困難と戦う

第三章 国際連盟脱退から日中戦争へ
松岡洋右――国民精神を作興すべし
岡田啓介――ロンドン海軍軍縮会議脱退後の総選挙に向けて
広田弘毅――ドイツとの間の防共協定締結
林銑十郎――二大政党に反省を求む
近衛文麿――国民政府を対手とせざるの方針
平沼騏一郎――支那事変に対処すべき方針は確固不動

第四章 第二次世界大戦始まる
阿部信行――東亜新秩序の確立は不動の国策
斎藤隆夫――羊の正義は狼の前には三文の値打ちもない
近衛文麿(1)――大政を翼賛し奉らなければならない
近衛文麿(2)――産国相寄り合い、軍事同盟の威力を発揮せん
松岡洋右――米国の態度をすこぶる遺憾とする者である

第五章 太平洋戦争、そして終戦
東條英機(1)――一億国民が国に報い国に殉ずるの時
中野正剛――東方会精神にのっとり、全国民の信頼にそわん
米内光政――山本五十六元帥の英霊に応うる道
東條英機(2)――皇運を扶翼し奉るの日は今日来た
小磯国昭――総力を結集して敵に当たり、その非望を粉砕すべき道
鈴木貫太郎――私が一億国民諸君の真っ先に立って死花を咲かす

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

昭和初期の多くの首相答弁は建前として国民生活の為の経済活性化を狙っての発言が目立つが、本質は軍事費への負担増を如何に対処するかが伺え、軍拡への抑止のたびにテロによって首相が暗殺、抑制された。また、金本位制、金輸出解禁などの政策の陰で操る政治家の一部が大儲けしている姿も垣間見える。当時、景気回復のためには戦争は必須であるという軍需関係の政治家vs軍拡を止め軍需・軍事費削減を図ろうとする政治家の対立構造となったが、国民生活よりも国家主体の軍事的発想が国民を幸せになると解き、陸軍などの圧力から無責任な軍拡への勢いが目立った。
現代のこの「平和論」vs「戦争論」では、ロシアが言う「核の使用もありえる」と言う極めて威圧的な声明で抑止できる国が不在になったことだ。よって今後世界各国は「核大国の暴挙を防ぐには核保有が必須」との意見も同調できる。しかしそれは究極「人類破滅」への道を極める事になる。果たして日本は今後どんな国策を取っていくのか、無策、無能と言われる今の政治家に期待できそうにない。さらに今の政治家は増税ありきで自己主義者が多く国民生活は全く視野には無い、ことが恐ろしい。

0
2025年05月09日

Posted by ブクログ

昭和の時代に入ってすぐ1928年(昭和3年)、最初の普通選挙が執り行われて以来、様々な政治家、財政家、外交家、軍人などがラジオを通じて、自らの意思や考えを国民に伝えてきた。時はまさに後に続く日本にとって最大の国難、太平洋戦争への道のりを歩む時期であり、それはゆっくりとした歩みから、徐々に加速をつけての激走へと変わっていく。その間、1929年世界恐慌、翌1930年のロンドン軍縮会議、更に翌年の満州事変の勃発、五.一五事件など、社会は不安や不満に満ち溢れ、影響力を持つ政治家などの一挙手一投足が自らの政治生命だけでなく、人生の幕を閉じさせるような暗殺という手段により、命を失ったような時代だ。外交面では東亜の恒久平和を掲げつつ中国に進出する日本に対して、アメリカやヨーロッパ各国が脅威を感じ、日本の封じ込めに動きだす。日露戦争を経て、世界の舞台に遅ればせながらその存在感を示し始めた日本にとって、その世界の舞台から徐々に孤立への道を歩み始める。外交では松岡洋右の名前などは誰もが知る事だろう。その間、国内政治も荒れに荒れ、首相だけでも田中義一、濱口雄幸、若槻礼次郎、犬養毅、斎藤実、岡田啓介、広田弘毅、近衛文麿、平沼騏一郎、阿部信行、米内光政、東條英機、小磯国昭、鈴木貫太郎と目まぐるしく変わっていく(近衛は第三次政権まで)。この様な状況に於いて、世界から孤立する日本の立場を国民に伝え、戦時に於いては国民に何を求めたか、そして自身はその中でどういった役割を果たそうとしたか、彼らの語った言葉とその背景を教えてくれるのが本書である。
その言葉の中には、当時の複雑な社会背景と、特に太平洋戦争開戦前後は軍部の強大な圧力•影響を感じさせる文脈が多く見られる。五.一五事件.二.二六事件など陸海軍軍人の標的にされ、命を失う危険に常に晒された政治家達が、自身の決心を述べるのだから、相当に考えられた文面、そして覚悟の上での表明になる。文字一つ一つから、覚悟の様なものを感じられる。
現代の社会ではテレビでそうした政治家達の言葉に触れる事が出来るから、その表情なども見る事ができるが、流石、平和が長く続いた時代であるから、どうしてもその言葉を当時と比べた場合、薄っぺらい印象を受けざるを得ない。当時の様な熱さや生命を賭けた言葉とは大きくかけ離れている。この時代の手段がラジオという、音としてのみ伝えられる事を考えても、言葉選びの重要性は、今よりも格段に高かったのだろうと思う。その結果、より重厚で格式の高い文章にならざるを得なかったと思われる。
ビジネスでも自身の使命などを表明する機会がある。どの様な未来を描き、方向性を示しながらも、直面する喫緊の問題に対して、迅速に対応策を提示、実行に向けて意識を集中させ、そして自らがどの様な哲学•思想を持って取り組むのか。かなり薄っぺらに感じさせるような発言を繰り返した自分を恥じながら、本書の言葉と比べて読み進めるのが、中々面白い。そして勉強にもなる。
先ずは覚悟が何よりも必要であるし、実態、現実の深い理解と、単なる絵空事ではなく、実現性や具体性に富んだ言葉でなければならない事を、改めて気付かさせてくれた一冊であった。

0
2024年11月17日

「学術・語学」ランキング