あらすじ
貨幣の価値は一定であると我々は常識的に考えている.しかし,複数の通貨が存在して評価が多元的であるという事例は,歴史上,さまざまな地域,時代にあった.交換という行い自体が多様である以上,貨幣も多様にならざるを得ない――.謎に満ちた貨幣現象を,世界史の中で根本から問い直す.
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Posted by ブクログ
序章貨幣の非対称性
零細額面通貨(銅貨、貝貨)は農村部、高額通貨は都市部で主に流通する。零細額面通貨は地域内で還流し上位へは還流しにくい。零細通貨と高額通貨の交換レートは需給によって各地域で変動しうる
1章越境する回路
アフリカアラビアにおけるマリア・テレジア銀貨は、両替相場や法定相場を超えて諸地域を結ぶ上位層通貨として選好され続けた
2章貨幣システムの世界史
世界史上、制度的な通貨供給が麻痺しても、取引されるべき財が集積していれば、それに変わる地域通貨が自然と(民間で)出来上がる。通貨が貨幣として受領される根拠は、通貨自体ではなく貨幣に媒介される財(商品)の側にある。
地中海・西欧では高額貨幣の金銀貨(農村部はバーター取引)の地域間決済通貨、中国では零細貨幣の銅貨の現地通貨が主流。13世紀のモンゴル帝国により、地域間決済通貨として銀使用が西から東へ流出する。地域間兌換性の極地国際金本位制は現地通貨の自律性を削ぎ、連鎖的に世界恐慌を引き起こしうる
3章競存する貨幣たち
中国インドでは各地域各商品で異なる貨幣が用いられた。中央政府の指定する高品位銀、民間の使用する低品位銀
4章中国貨幣の世界
歴代中国王朝は画一的な通貨(銅銭)を供給するが、各地域の独自相場は容認した。銅銭は歴代王朝通じて重量・品質が一定していた(前諸王朝発行銭が民間に大量に存するためそれに合わせざるを得ない)(鋳造原価が額面より高くても発行せざるを得ない)
銅銭は零細額面で輸送費もかかるため、紙製通貨(政府の会子・交子・交鈔、民間の銭票・銀票・市票)が発生。唐の租庸調制から宋の両税法は、財政のフロー管理からストック管理への変調、そして銀は政府ストックと銅銭の民間ストックとの分離を目的として受容された
5章海を越えた銅銭
大量の良貨である銅銭は東アジア各地で基準銭として流通した。後期倭寇の終息とスペイン銀貨の流入により、日本ー福建の密貿易が後退し、中国銭の輸入が減った結果、戦国時代日本の貨幣基準が銭から米に変化する(不動産や債権債務の建値は中長期的に安定している必要がある)
6章社会制度、市場、そして貨幣
伝統中国では小農も商人も自由に定期市や鎮で商売をし、商店発行の銭票が地域内で流通。絶対王政以前西欧では債権債務の他律的信用取引で通貨使用機会を節約。銀貨は領主と商人が領域間のやり取りに使用され各領域内の貨幣に改鋳が必要。インドは中間的、小農は零細額面の貝貨を使い、銀貨は各地で改鋳が必要で送金は専ら為替で行う。日本では村内温情関係によって金銭を介せず労働力を交換
7章本位性の勝利
国際貿易の発達と共に基準貨幣との兌換が保証された紙幣の発行が世界各地で進み現地通貨が退場していく。市場並びに通貨の重層性を越えて経済の一体化が進んだ結果、信用連鎖が伸びきり農村経済での季節調整の弾力的運用が難しくなり世界恐慌へ繋がった
終章市場の非対称性
農業社会において貨幣需要の大きな季節較差がある。手交貨幣は取引需要に合わせて還流するわけではない、ことに小農の需要に合った零細額面の通貨ほど還流しにくい。貨幣は、演繹的に論じれば違う種類のものを交換する媒介として考えられるが、歴史上では同じものを要求するタイミングの差の媒介として考えられる