あらすじ
京都市にある美大の油画科を休学中の稲葉真は、従兄の稲葉凛太郎の声がけで狩野探幽の血縁であり、父が狩野派を破門された清原雪信の娘・平野雪香が描いた襖絵の復元模写制作を手伝うことになった。チームメンバーは修士二年・土師俊介と修士一年・蔡麗華。襖絵は、十二面の花鳥図だが、現存するのは九面と切り貼りされた一部のみ。果たして三人は、復元模写を完成させることができるのか?創作することの苦悩と幸福を濃やかに描き切った感動長篇!
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Posted by ブクログ
主人のが序盤僻みとか捻くれ感が凄いけれども、復元模写の手伝いをすることになり、徐々に創作に対する思いや元々の素直さが表れるようになった。爽やかな読後感。
しかし日本画と水墨画で題材は違えど、『線は、僕を描く』とどうしても重なる部分があって比べてしまうかも。
日本画の説明が少し難しく、本を読んで絵を想像できたのは私は、砥上さんの方だった。
Posted by ブクログ
舞台は日本画の世界。
大学が依頼された襖絵の修復という受託研究に参加することになった、現在休学中の油画科の真(まこと)が主人公。
日本画の復元模写という、普段、うかがい知ることのない美術作品の修復・保存の世界が描かれる。
折しも、倉本聰作の『海の沈黙』という美術界の贋作にまつわる映像作品を鑑賞した後だし、今年は、日本画家の知人の個展も拝見させてもらい、何かと、この界隈に縁がある?(そういえば、その日本画家の知人は修復もされている)
礬砂とは? 胡粉とは? 新岩絵具と天然岩絵具の違い、その粒子の大小に、重さの単位の両など、恐らく学んだことのある人には常識ともいえる基礎中の基礎の話ばかりなのだろうが、丁寧に、そうした業界特有の常識も折に触れ解説される。
三浦しおんあたりからよく言われるようになった“お仕事小説”の類に含まれるのかもしれない作品か。
日本画や、その技術伝承の模写という作業についても詳細に描かれ(日本絵画と日本画との違いも、本作で初めて知った)あれこれと知識欲も刺激された、面白い作品だった。
ストーリーは、ワケあって休学中の主人公真が、復学機会と美術に対する新たな意欲を再び手にするまでのサクセスストーリーという王道展開だ。
しかも、真の父は、名こそ残していないが修復家として一定の地位を築いた人物のようで、真も単なるポッと出の美大生ではないという、ある種、貴種流離譚の雰囲気をまとう。
そこに、従兄弟の凛太郎や人見教授というメンターと、江戸時代の襖絵を共に修復しようとする仲間の院生の土師と蔡の力沿いを得て、いくつかの試練を潜り抜けていく展開。
真が現在休学して、アートの世界から距離を置いているのにもわけがあり、かつて音楽仲間と共にライブペインティングという分野で頭角を現していた矢先に、バンドのメジャーデビューを機にグループから外されるという事件があった。
このトラウマをいかに克服していくかも、復学のハードルと共に真の前に立ちはだかる。
著者のデビュー作らしい。
王道に則ったストーリー展開ではあるが、日本画と、その復元模写の世界を題材としたことで、飽きることなく読み進むことができた。
復学への最後の難関が、教授を前にした特別試験というのが、やや安易だったことと、バンド仲間との確執は結局、改めて対峙することなく終わるのが肩透かしだった点はあったが。
とはいえ、作画に取り掛かる前の準備や、その技術や精神の学習にも、古来の風習に倣うことで時間や手間を要する日本画の世界を描くことで、なんでも効率重視の現代に物申すのも本作のテーマと拝察。
凛太郎が真に言って聞かせる、この言葉は、そんな思いの表れと理解した。
「スピード重視の現代を生きる僕からしたら、そうした手間が贅沢に思える。きっと一日中、絵のことばっかり考えて、生きてはったんやで。描く前のわくわくする時間が長いんは、羨ましいなあ」
一方、奇異な漢字表現の使用は、少し気になるところ。
「考えて」というところで「思惟して」や、「わがまま」とすればいいところを「自儘に」と綴る。「こめかみ」に「蟀谷」の字。日本画の世界だからか、妙な漢字使いだ。
元の表題も「真令和復元図」だったそうだ。そういうお堅い表現がお好みなのかもしれない。
次回作は、どんな世界を描くのか? 少し楽しみな作家さんではある。