あらすじ
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俳優・松重豊が紡ぐ、“食の記憶”解禁!
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記憶に残る料理には、その時代、その瞬間のドラマ、
自分の人生そのものが詰まっている。
極貧時代を支えてくれた思い出の味や収録先で出会った逸品、四季折々の好物、
食べものに対する素朴な疑問や秘密の食べ方、最近のブームなど、
独自の視点で食にまつわる記憶を書き尽くし、本書に収録された品数は50以上。
松重豊の手にかかれば、素朴な家庭のコロッケが名バイプレーヤーに変わり、
うずらの卵を求めて町中華に行かずにはいられなくなる。
そんな食べることが楽しみになる、笑いあり、涙ありの珠玉のエッセイ。
イラストは、松重豊と親交の深い旭川在住の作家・あべみちこ。
●著者メッセージ(本書「はじめに」より)
晴れて書籍化。
まぁ特別な内容のエッセイではない、
「たべもの」について書かれた「ノヲト」つまり走り書きみたいなものだ。
昭和の思い出満載だが、わからないことがあったらおばあちゃんに聞くか、
ネットで調べればなんでも教えてくれるはず。
また、この単行本を手に取っていただいた大切なお客様だけの為に、
本編を読み終わった後に、僕の朝のルーティンについてお話しする特別付録をおつけしましょう。
では、皆様ご唱和を。
「いただきます」
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
雑誌クロワッサンで連載しているのを時々読んでいたのでまとまったと知って楽しみに手に取りました。
言われてみれば確かになぁと納得する話が多くて、しかも面白い。
特別文がうまいという感じではないけれど、視点や裏話的な話題で引きつけるのが上手という印象。
タケノコを野菜でも果物でもない謂わば木材、と言ってしまうことに驚いたけど言われてみると確かに。
口に出して言いたい言葉の上位にランキングされる「いぶりがっこ」
読んで吹き出しました。いぶりがっこちゃん(あひるなんです)っていう絵本あったの思い出しました。
そうだ、松重さんは猫村さん演ってたな。よく引き受けたなぁと思いつつ当時楽しみに見ていたっけ。
サクマドロップスのハッカを当たりと思ってみんなからもらって食べていたくだりは、同じハッカ好きとして共感しかなかった。
文に添えられたそれぞれの絵がまたなんとも味わい深い。こちらは北海道のイラストレーターさんだそう。夕張名物うさぎやさんのドーナツが出てきて、独特のシナモン味とふんだんにまぶされた砂糖のジョリジョリ感を思い出しました。質感がしっかり出ていて絵からジョリジョリが伝わりました。(ちなみにきっと松重さんは砂糖のジョリジョリするものが大好きだと踏んでいます。羊羹のジョリジョリのことも書いてたので。だから多分カステラの下とかも好きだろうと想像)
あべさんの、ベロベローってなったワカメとかたくあんがくっついてたとことかの表現の仕方、文末が「〜なの」となってるところやその文がもそもそした(?)字でちょこっと書かれているのが可愛いし面白い。
たまに絶妙に文と合わせてるようであんまり関係ない絵が添えられてたりもして。
p91の連鎖の朝も吹き出してしまった。炭水化物しか食べてないやん、と本に突っ込んでしまいました。
どんな人なんだろうと思っていたら、巻末に松重さんとイラストレーターのあべさんの対談が載ってきてなんてサービス旺盛なのだろうと最後までおいしい一冊。(でも話したりなそうでしたね、というか話してたんだろうけど紙面が尽きてしまったのでしょうね)
ニッキの話(p205)はちょっとしたハックでした。
自分は子供の頃ニッキが嫌いで、ある時からシナモンが好きになり、高校生くらいの時に「ニッキとシナモンって同じものだよ」と教えられ衝撃を受けたことがあり。
以来ずっと同じものだと思っていたのにそういう違いがあったとは本書を読むまで知りませんでした。いやびっくり。
しかし考えてみるに「ニッキとシナモンは同じである」と言うのも「違うものである」と言うのも、真相(?)かわかってみるとどっちも間違いではなく、どのように区分けするかの違いだよなと気づき、意外と世の中にそういうものってあるかもしれないなぁなどと考えました(今思いつかないけど)とても興味深かい話題でした。
ぜひ第二弾出していただきたいですね。それにしても読んでる間、文からも絵からも刺激され放題でお腹が空いてたまらなかった⋯
Posted by ブクログ
エッセイ文面でも松重豊さんがもぐもぐしている姿を思うと、孤独のグルメを見た気分になり、あべみちこさんが描いた挿し絵も素敵だった。松重さんのしっかり食べたい・味わいたい欲が読んでいて伝わってきて、プライベートの根っこ部分もグルメなんですね〜と嬉しくなった(*´艸`*)
『七草粥しかり。おせちとお雑煮で口の中がお行儀良く「和」になっているお正月明け、ソースやチーズやマヨネーズで心をかき乱したいじゃないですか。このタイミングでわざわざお粥食べますか。だって体調万全ですよ、何なら焼肉屋に行きたいぐらいだ。…(中略)しかし、ある日を境にお粥の概念が覆された。』
2025.5
Posted by ブクログ
たべるノヲト。
松重豊
発行:2024年10月10日
マガジンハウス
初出:「クロワッサン」2022年6月~2024年8月連載
+書き下ろし
松重豊氏は、悪役が多かったが、俳優の他に作家など栗エイティブなイメージもある。脚本を書いたり映画監督をしたり。また、孤独のグルメの独白もそうだが、NHK-BS「英雄たちの選択」のナレーションでも、独特な声と口調が脳裏に残る。このエッセイを読んでいると、あのしゃべりがそのまま甦ってきてインパクトがある。
今年公開された『劇映画 孤独のグルメ』は著者が製作、脚本、監督、主演を務めているが、2年前の夏頃からシナハン(シナリオハンティング)をしていたそうだ。一方で、雑誌『クロワッサン』に連載してからも2年がたち、書籍化を提案された。本人にすれが、書籍化=連載終了と理解し、自分なりに納得したらしい。
こんなことを書きながらも、あたかも自分は食に通じているというような書き方は一切していない。非常に心地よい、庶民の味がする食に関するエッセイだった。撮影の裏話的な業界ものでもまったくない。誰でもが経験する、あるある的な話が多い。例えば、ビスコやオレオの話を出し、ビスケットを開いて上の前歯で中身をこそぎ落としたくなる衝動に駆られるのは私だけでしょうか、みたいな話があったり。
旭川に住むあべみちこ氏のイラストが非常においしい。なんでもない、ごく普通の食べ物が、実においしそうに描かれている。鯖の煮付けとか、飯を炊いて食いたくなる。出会いはテレビ版「孤独のグルメ」の正月スペシャルで旭川のグルメ情報をアドバイスしたことに始まるらしい。食に関する対談が巻末に載っている。
子供の頃に食べたパウンドケーキは、断面からのぞく具が今のようなドライフルーツではなく、チェリーの砂糖漬けやアンゼリカだったとのこと。著者はアンゼリカが大好きで、それだけをほじって集めて食べていた。大きくなったら、あこれだけ集めて大人食いしようと心に決めていたが、その物体がふきの砂糖漬けであることを知って呆然とする。華やかなパティシエの世界とは縁遠い、おばあちゃんの煮物的立ち位置の食材であるふき。
福岡育ちの著者は、子供の頃、週に一度は鯖を食べていた。しかも生で。ところが、東京に来ると生はタブーだと言われた。今も生鯖が手に入らず、福岡に帰ると食べられる。韓国に行った折、コーディネーターの李さんの故郷である済州島では鯖は生食だとのこと。李さんがいうには、対馬海峡あたりで獲れる鯖と太平洋で獲れる鯖には魚体に潜む寄生虫の習性に大きな違いがあり、アニサキスは宿主が生きている間は内臓にいて、死ぬと身の部分に移動するが、日本海側の鯖は殆ど内臓に止まったままだという。だから適切に内臓を処理すれば、リスクは低いとのこと。
*なお、僕の知るところでは、アニサキスは一般的には魚(宿主)が死ぬと内臓から身に移動するが、生きている間にすでに身に移動していることもあるらしい。だから、鮮度のあるうちに内臓を処理すれば大丈夫と言われても、100%安心はできないようである。また、大阪に本店がある鯖料理専門店「SABAR」のように、アニサキスが存在しない状態で育てた養殖鯖を調理しているというようなことも、最近では行われている。
本書には、少しだが業界話も出てくる。著者は30代半ばまで「食えない」状態だったそうだが、それでもなんとかご飯にありつけたのは、劇団員の中に米屋の息子がいたからだ。彼が白いご飯を炊いてもってくる。おまけに佃煮屋の息子である勝村政信が持ってくるアミの佃煮が精神力さえも補ってくれた。
孤独のグルメを始める際、ベンチマークとしたのがBS-TBSの「酒場放浪記」だった。酒場詩人である吉田類氏がただ飲み屋を訪ねて飲むだけの番組で、20年も愛されている。一見の客であるのに店主や常連の懐に微妙な距離感ですりより、杯を重ねて足許をふらつかせ、最後は素敵な一句をひねる。この名番組には、まだまだ足許にも及ばない。
松重という姓は珍しいというほどではないが、めったに同姓の人に出会わない。松重はわりと多く、作家の松重清さんとは混同されたこともある。しかし、鰻屋に行ったときにはかなりの頻度で同姓を目にする。お品書きの筆頭に明記されている、松重5000円、次に竹重4000円、つづいて梅重3000円。
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