あらすじ
作家人生の集大成
嫌な気分は何もかもノートにぶちまけて、言葉の部屋に閉じ込めなさい。
尊敬するセミ先生からそう教えられたのは、鬼村樹(イツキ)が小学五年生の梅雨時だった――
「架空日記」を書きはじめた当初は、自分が書きつけたことばの持つ不思議な力に戸惑うばかりの樹だったが、やがて生きにくい現実にぶち当たるたびに、日記のなかに逃げ込み、日記のなかで生き延び、現実にあらがう術を身に着けていく。
そう、無力なイツキが、架空日記のなかでは、イッツキーにもなり、ニッキにもなり、イスキにもなり、タスキにもなり、さまざまな生を生き得るのだ。
より一層と酷薄さを増していく現実世界こそを、著者ならではのマジカルな言葉の力を駆使して「架空」に封じ込めようとする、文学的到達点。
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Posted by ブクログ
「ありえたかもしれない世界」。
それを、「社会」の視点で想像させてくれる小説だと感じた。
東畑開人さんの書評を読んで、読みたいと思っていた長編の小説。
オウムなど、私たちの世界で本当にあったことは、一貫して架空日記の中で記載される。
主人公の生きる世界が決して希望だらけのユートピアとして描かれている訳ではない。
それでも、その世界では、主人公は少しずつ息ができるようになっていることを実感し、その幸せを噛みしめるような場面もある。
一方で、架空日記の中の自分は、いつまでも自分を消えるべき存在として描かれる。
世界は昔と比べて生きやすくなったのかもしれない。それでもそこからこぼれ落ちる人もいる。そこから分断が生まれていってしまってもいる。
自分とは何か?普通とは何か?対話や相互理解とは何か?
どうすればこの社会は生きやすくなるのか?どうすれば誰も取り残さない社会を作れるのか?
人の遺伝子に刻まれた業とどう向き合えばいいのか?人類は前に進めるのか?
様々なことを考えさせられる小説だった。
Posted by ブクログ
1965年生まれの鬼村樹(イツキ)の1976年から2022年までの人生を、彼の別のありえた人生ともいえる「架空日記」も交えて、追っていく。
600ページを超える大作で、読み進めるのはたいへんだったが、一人称の悩みや性の悩みなど、自分にも重なる部分もあって、本当に生に苦悩するイツキの人生を追体験するような感じだった。
イツキ自身も認識しているが、イツキは人との出会いに本当に恵まれていると思う。イツキのような生きづらさを抱えた人が、それぞれの人生のタイミングでこんなに波長の合う人たちと出会うということは奇跡に近いと思う。そういう意味でも、この小説自体が壮大な「架空日記」ということでもあるのだろう。
本書を読んで、人生の分岐点、あり得たかもしれない人生といったことについて思いを馳せた。
Posted by ブクログ
章が進むにつれパラレルワールドの立ち位置が変化しているような印象を持った。
世界の現状を眺めてみると、ニッキやタツキの架空日記のシビアな苛烈さの方がリアルに近く、地の優しく穏やかな物語が嘘っぽく白々しく感じられて、むしろこちらの方が樹の逃げ場所の妄想に思えた。
Posted by ブクログ
昭和~令和にかけて世間を揺るがすような出来事を取り入れて、主人公が住む世界と主人公が書く架空日記なるパラレルワールドが進行していくお話。長かった。あまり内容は残っていない。